Case 88-5
2021年8月21日 完成
機関長の猛攻に攻め手を失い続ける八朝達。
そこに謎の5つ目級が現れ、事態が渾沌に落ちていく……
【3月13日(金)・夜(19:13) 隔離区画・監視塔『大鬼』】
『……』
ソイツに眼は無かった。
どころか形ぐらいしかなく、全身をタイツでくるんだようなのっぺり感。
化物ですら無さそうである。
(……どうする、襲ってこない……よね?)
(何もかもが分からない)
八朝が今更弱音を口にするが、それは彼だけではない。
つい先ほどまで戦い続けた機関長ですらもその手を止めていた。
(……機関長まで様子見している
この隙に出口まで駆けこんでみるのもアリか?)
(え!? 無理でしょそれ!)
自分でも恐ろしく甘い予測を口にした気がした。
だが、そんな真意を解せずに柚月が突然監視塔へと走り出す。
『断層開放……』
待てと叫ぶ暇もない。
手を伸ばした先に柚月の破滅が待っている。
その筈だった。
「ぐあっ!?」
黒い人影がまるで瞬間移動するように機関長へと立ち塞がり
彼が握り締めていた『時空間』ごと一太刀にて斬り伏せた。
だが負けじと今度は機関長が時空歪曲を利用した瞬動を引き起こす。
背を向けて無防備な柚月に致命傷を与えようと拳を握り締める。
「……ッ!?」
銃声3発、有り得ない攻撃の声を聴く。
それらは時空歪曲の力場を食い破ってこちらに正確に撃ち込まれる魔弾。
いつの間にか自分が捨てていた拳銃を八朝が構えている。
「エリス、柚月! 地上まで逃げるぞ!」
「させるか……ッ!」
事態を把握した八朝も逃亡を選択する。
愚行を為す二人に追撃を掛けようとする機関長だが
その全てが黒い人影の剣に飲み込まれる。
この乱入者の気が変わる前に監視塔に逃げ込めば全てが終わる。
「おのれ……魔術狂の落とし子風情が……!」
ふと、機関長が奇妙な事を口にする。
平時であれば問い詰める所だが、そんな暇がある訳が無い。
一足先に柚月が
それに八朝が追いすがる形だが、背筋に死の気配を感じる。
「ふうちゃん!」
思わず振り向いてしまったが最後。
機関長の獰猛な威圧と目が合い、聞いたことも無いような宣告が下る。
『甲子から癸亥までの励起確認
我が至高の星を以て、四度の災いを為す、即ち『天の頂』ここに来たれ』
一瞬で理解してしまった。
前条は『最終機構』の口上、そして後半の『天の頂』。
或いは中天、占星術において『アングル』を構成する最後の一点。
『断層最大解放 第零射撃・第四射』
大地が沸騰する、空が灰を撒き散らす。
天空より裁きの一撃、僅か1秒だが篠鶴市全域から集めた時空弾性力。
「冗談が……過ぎるぞ……!」
この力さえあれば紫府大星なんて恐れるに足らず。
だが、遠くで聞き覚えのある悲鳴が上がってその熱すらも冷めた。
間違いなくこの一撃は、篠鶴市を犠牲にする一撃。
おいそれと地上で放っていいものでは無かった。
ゆっくりと、空を侵すように裁きの光が鎌首をもたげていく。
「篠鶴市を、守るんじゃなかったのか!?」
「お前らを……No.116842を地上に出す方が救いが無い!
彼女を殺さなければ、どのみち救われた異能力者すらも皆殺しにすると言った!」
これで漸く彼の奇妙な言動を把握した。
要は彼女が篠鶴市の生贄に捧げられてしまったのだ。
つまり地上に出れば約束は反故となるため、大半の人が……
「……ふざけるな!
そうやって100年前と同じように彼女を見殺しにしたのか!?」
意味が分からないことを口にしてしまったが、機関長が絶句している。
やがて、観念したかのように残り少ない時間で忠告を残す。
「この篠鶴に妖魔はあってはならない
これは鳴下現当主の意思だ、いずれお前も理解することになる」
「篠鶴の未来の為、灰と帰すがよい!!」
最後の一言に、どうしようもない怒りの感情が巻き起こり
八朝に愚行をさせる勇気と一歩を与え続ける。
その先で絶望したまま立ちすくむ柚月を負ぶり
監視塔の螺旋階段を登っていく。
一段毎に空の白さが加速的に増えていく。
「大丈夫だ、柚月を死なせることには絶対にさせない」
だが外の様子はそれに反比例して滅びの様相を為していく。
自ら火の中に飛び込む蜻蛉のような、意味のない決意の言葉。
段々と監視塔を揺らす衝撃が激しさを増していき……
唐突に、その衝撃が止まった。
「……は?」
唐突に裁きの光が吸い込まれるように地上の一点に。
それはあの黒い人影の切先に、そして剣を純白へと染め上げていく。
余り登れなかったのか、機関長の表情まで読み取れた。
『アングル』の発動に全ての力を使い果たし
身内への甚大な被害を撒き散らしながら目標を達成できない自分への嘲笑。
「……先を進もう」
監視塔を伝い、妖魔の待つ篠鶴市の地上へと。
今度は自分が機関長と同じことにならないよう、改めて気を引き締め直す。
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Interest RAT
Chapter 88-d 天頂 - Medium Coeli
END
これにてCase88、地の底にての回を終了いたします
あの姿が主人公の未来になるかどうかは全て彼の行動次第
それ程までに地上が末期である事は、読者の皆さんも……
ええ、一人の命で世界が救われると言われれば……ね
このルートでの最後の敵は『ボス』だけではなさそうです
そして長かったDルートも大詰めとなります
果たしてこの二人がどんな未来に至るか、乞うご期待下さい
次回は『正義の戦い』
それでは引き続きよろしくお願いいたします




