Case 88-4
2021年8月20日 完成(75分遅刻)
あらゆる魔術にて追手を撒くことに成功する。
その先で魔術の通用しない『障害』が行く手を阻んだ……
【3月13日(金)・夜(19:06) 隔離区画・監視塔『大鬼』】
「……ッ!」
1衝撃毎に、大地を吹き飛ばすほどの破滅が襲い掛かる。
今はエリスの障壁魔術が守っているが、全て砕かれるのも時間の問題である。
『断層開放・第九射撃』
まるでスーパーで今日の夕飯を手に取るような気軽さで身の竦む空震が走った。
当然である、十ある天体のうちの下から二番目が『レヴァナー』。
だが、彼の能力の性質上、その程度であっても信じられない大破壊が巻き起こる。
時間停止や遡行等で時空間を過去方向へと引っ張る。
そうすると『元に戻ろうと抵抗する力』が発生し、それを解放してやるのみ。
それだけで、世界が歪曲する程の怪現象が撒き散らされる。
「どうした、No.117287
妖魔を倒すと息巻いているが、所詮虚勢であったか?」
反論はできない。
八朝が出来るのは小細工までで、そもそも戦闘には向かない。
その小細工も『魔術』の範疇から外れただけで使い物にならない。
そう言った意味で『空想科学的』な機関長の異能力との相性は最悪である。
ならば、どう戦えばいいのか。
勝率が毫も無い相手に敗北を認めさせるには
……要は自分が戦わなければいい、知識と小細工と人脈を使えばいい。
「確かに虚勢だとは思う
俺はお前には絶対に勝てない、断言する」
「愚かな……では何故?」
「……そうか、ここまでヒントを出したのにまだ分からないらしい」
その瞬間に機関長の意識外から鋭い衝撃が入る。
身体に深々と、脆くて白く鋭い斬撃の塊が差し込まれた。
「ぐぉ……!?」
『■■!』
ふらついた機関長に帽子を投げ飛ばす。
機関長に触れた帽子が霧状に消え、内蔵された『鈍足』を開く。
これで彼の脅威の一つである『瞬間移動』を封じた。
「これで俺の仕事は終わりだ、後は任せた!」
幻惑を放り投げて、遂に姿を現した柚月。
そんな彼女を迎え撃とうとして機関長がある違和感に気付いた。
「な……!?」
僅かな躊躇、それでも用心で離れすぎた柚月が滑り込むことはできず
さらに一つ瞬息、長年の戦闘経験から懐の『銃器』を取り出して構える。
「……ッ!」
柚月は踏み足を変えて、三度銃撃を躱す。
だが、銃弾を掻い潜り前に進むことはできない。
それは柚月の後遺症が余りにも重過ぎる為。
依代が彼女の『肺』であるなら、これが砕ければ即ち呼吸が死ぬ。
たった1分のそれだけで人は簡単に死ぬ。
『桃花曲脈 任冲内経 贖宥劇毒』
座山挨星歩で再現した『強化』の状態異常。
一時的に人外の速度で疾駆し、機関長の注意をこちらに惹きつける。
「……ッ!」
やはり弾性潮汐が使えないのか、頑なに銃器に頼る。
銃撃を避けようとして、途端に八朝の視界が大きく歪む。
「ぐ……ぁ!!」
だが立ち止まれば死体漁りの恐るべき掠奪に晒される。
死を賜うか死に急ぐか、言うまでもなく後者を選択する八朝。
だが、これが功を為した。
(これは……影……か?)
霞む視界の中で大量の人が蠢く風景。
それが『未来の機関長の行動』だと分かった瞬間
何処に足を置けばいいのか瞬時に理解する。
一発、二発……その先に八朝はいない
ここまでは先程攻めあぐねた柚月と大差が無い。
「……!?」
機関長が弾かれた様に身体を捻じると
その頬に一直線の血の跡が曳かれてしまった。
犯人は言うまでもない、灯杖が銃弾を弾き返した。
(馬鹿な!? 奴は風属性ではない……!)
三十四発、三十五発、三十六発……未だに尽きぬ弾薬にも疑問はあろうが
属性スキルも異能力も無しに銃撃を回避する八朝のほうが遥かに異常。
そして異能力者なら一撃必殺の死体漁りを
あろうことか弾き返してきて、こちらに未だに敵意を迸らせ続ける。
「面白い……」
機関長が死体漁りが効かないと知って、あっさりと拳銃を手放し
もう一度、鈍足で遅くなった潮汐弾性による攻撃に挑む。
そして、時空間を歪める能力を以て再び適正間合いまで瞬間移動する。
それは八朝にとっては想定外の事態であった。
(……これでは柚月を奇襲させられない!)
本来なら敵意で挑発し、銃撃に固執させて時間を稼ぎ
タイミングを見計らって柚月の大技で一撃必殺を狙う。
常人ならこれが当てはまっても、相手は50万人都市の幹部。
やはり、一から十まで小細工が通用してくれない。
『断層解放・第六射撃』
拳銃と小銃の間、即ち擲弾による時空爆発。
柚月の支援は噛み合わず、エリスの障壁魔術は間に合わない。
(せめて……あと一人いてくれたら……ッ!)
だがそんな甘い祈りは通じない。
残り1ミリ秒以内、そんな自分の寿命を憐れむ暇すら与えてくれない。
だが、人とは呼べない『モノ』が時空歪曲を食らい尽した。
「何が……!?」
八朝の目の前に剣を持つ真っ黒な人影が立ち塞がる。
本当なら八朝ごと空間を破壊しつくした青色の衝撃波を
まるで石のように剣の腹の一点に留め、流れるように機関長へと剣を構える。
次でCase88が終了いたします




