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Case 88-2

2021年8月18日 完成(18分遅刻)


 柚月(ゆづき)が隔離区画に移送される様子を知る。

 化物化(メローペライズ)する前に何としても彼女を助ける必要がある……




【3月13日(金)・夕方(18:00) 隔離区画(Section・G)・南側通路】




(ここまで追ったのはいいのだが……)


 エリスの案内で監視カメラの死角を縫いながら柚月(ゆづき)に辿り着く。

 ここまで暫く様子を探った結果、余計に謎が深まった。


 柚月(ゆづき)は、ここまで一切抵抗をしていない。


(ふうちゃん、これ絶対おかしいよね?

 脅されてるとか、操られているとか……)

(いや、操られるのは流石に無理がある

 柚月(ゆづき)は学園五指の一人だ、死体漁り(コープスピッカー)程度では)


 そうなると考えられるのは脅されているのみ。

 だが、移送中に会話が一切無く、セキュリティーは万全であるらしい。


(……だったら、『記憶遡行(ギフト)』で探ればいい!)


 八朝(やとも)大雷神(pit)を自分に当てて頭痛を引き起こす。

 頭痛が『記憶遡行』のトリガーとなり、周囲の過去を無差別に閲覧する。


 それが『本物』が持っていた異能力の成れの果て。

 たとえ一欠片程度でも、情報を得られればそれでいい。


(………………クソッ!)


 だが、奇跡はそう何度も起きない。

 違う人の異能力では発動率が更に低くなる、当然だが余りにも歯痒い。


 更に頭部麻痺(pit)の影響で、倦怠感が圧し掛かって来る。


(……ここで……倒れる訳には!)


 一瞬でも目を離せば二度と会えないような気がして

 体中の力を振り絞って脳が死にそうになるのを堪え続ける。


 だがこの時の八朝(やとも)は知らなかった。


 自分があの時に『記憶遡行』を使ったという感覚は偽に他ならない。

 鳴下文(なりもとあや)が得意とする忘我の境地、それの長所は感覚にある。


 『我』という不純物を排した身体には自然界の全てが通り抜けていく。

 意識があれば激痛のそれを、無我の柔軟な魂であれば受け止められる。




 故に、朦朧としたまま八朝(やとも)が何かに気付く。




(移送にしては装備が重過ぎる

 それに疲れている……? これじゃあまるで……)


 これは、移送というよりかは避難。


 十死の諸力フォーティーンフォーセズの脅威のない篠鶴市で

 考え得る職員の疲弊具合、未知の脅威か天災の二択ぐらいしかない。


 そう……例えば……


「妖魔……天象……」


 その瞬間に職員が弾かれた様に警戒態勢を取る。

 そして、同じく声を聞いた柚月(ゆづき)が叫んだ。


「ふうちゃん!」


 すぐさまに職員が柚月(ゆづき)に『手錠』を掛け、もう一人は小銃を構える。

 一拍出遅れたが、八朝(やとも)も挨星歩で間合いを詰める。


 壁を背にして真正面だけに攻撃の方向を絞らせる。

 本命は柚月(ゆづき)を奥へ連れ込もうとするもう一人。


■■(digg)!』


 脈弓の要領で手を振り下ろし、待針(digg)を投げつける。

 拘束(ギフト)も問題なく通り、最悪の事態を回避することに成功する。


 だが、放置されたもう一人が射撃体勢を整えてしまう。


「彼女を……最後の希望を渡してなるものか!」


 小銃はフルオートにて弾丸の爆ぜる咆哮を上げ続ける。

 だが、職員はまだ知らない……もう一人を貫いた待針(digg)の方向が違う。


 蜂の巣にしたはずの八朝(やとも)の姿が無くて漸く気づいた。


「な……!?」

「桃花曲脈 任柱不動呪」


 右足を前へ、左足を大きく左後ろ……2と3の小径は■■(digg)

 身体を捻じり、半身にて拳打を相手の正中線上に浸透させる。


 ちゃんと防御した筈の職員は身体不随の呪い(ギフト)で顔が歪む。


柚月(ゆづき)!」


 直ぐに彼女の下に駆け寄り

 職員たちの目を欺いてから手錠を外してやる。


 その瞬間に抱きつかれたが、直ぐに引っぺがす……それどころではない。


「外の状況を教えてくれ」

「えと……」


 何か言いづらそうな反応。

 だが程なくしてエリスが素っ頓狂な悲鳴を上げる。


「エリス、一体何が……」

『ふうちゃん……外が……もう気温が……』


 その一言で全てを察した。

 既に『星』が落ちてしまったのか。


 絶望に沈む八朝(やとも)達に柚月(ゆづき)が首を傾げた。


「ふうちゃん、どうしたの?」

「……皆まで言わなくても分かる、星が落ちたのだろう」


「えと、落ちては無いよ」


 柚月(ゆづき)曰く、紫府大星が1日早く覚醒したという。

 篠鶴機関を蹂躙し、街を大火に包んだ後にこう言い放ったという。




『我が軍門に下るのなら命は助けてやろう

 だが、子の刻までとする……それ以降は我が星が貴様らを食らい尽す』




 どうやら破滅的な事態の前には間に合ったという。

 それでも残り5時間、距離的には余裕だが障害が余りにも重い。


 けたたましいサイレン音と共に、月の館は厳戒態勢に入る。

 異能力者を扱うプロ達が、自分たちめがけて包囲の輪を狭めてくる。


「ふうちゃん……」


 柚月(ゆづき)が不意に何かを希うような視線を投げかける。

 ……その瞬間に、自分の方が勝手に余裕を失くす愚行に気付いた。


「約束通り迎えに来たぞ」


 柚月(ゆづき)が大輪の花のような笑顔になる。

 ああ、今は状況を深刻がっている余裕はない、寧ろ笑うべきだ。


 困難を笑い飛ばし、邪智を以て障害を排す。

 本命の紫府大星の前にくたばってしまえば世話にもならない。


「エリス、引き続き案内が頼めるか?」

『よゆーよゆーよ!』

「じゃあ、いつも通りよろしくな」


続きます

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