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Case 87-5

2021年8月16日 完成(84分遅刻)


 紫府大星の隙を突き、一撃を入れる七殺(ザミディムラ)

 闇属性電子魔術(グラムアンブラ)・『漂流』の力で時空間の外に追い出そうとする……




【蠎壼ュ仙ケエ蟾ア蜊ッ譛 井ク呵セー譌・荳咏筏蛻サ"】




 それはまるで嵐が来る時のようであった。

 初めはささやかな歪みでも、時を経る毎に加速的に周囲を侵し始める。


 紫府大星がどんなに抗おうと止まらない。

 遠くにいる八朝(やとも)ですら歪曲の細波に飛ばされそうになる。


『正気か貴様!?』

「貴方を倒せるのなら、これぐらい惜しくはない」


 七殺(ザミディムラ)が不敵に笑いながら、紫府大星の不安を斬って捨てる。

 ……ああ、確かに彼女の言う通り何かがおかしいのだ。


(そもそも『吹き飛ばす』とはどうやってだ?

 それと俺を『過去に送る』のとは両立しない筈……)


 だが、八朝(やとも)の疑問は程なく氷解することになる。


 薙刀(アーム)すらも砕きかねない『漂流(グラム)』の圧により

 形を保てなくなった欠片が元の(taw)へと戻り、あるカタチを為す。


 死神(nahs)と、剣の10(waw-lamd)……意味はどちらも『破滅』。

 それが七殺(ザミディムラ)の空間の歪みの上からにじみ出ていた。


七殺(ザミディムラ)!」

「なーに、ふうちゃん?」

「お前……差し違えるつもりなのか……?」


 その問いに無言で首肯する。

 彼女の姿が多重にブレ始めた事からも明白である。


 つまるところ、彼女は『多重依代(アーム)』を最初から使っていない。

 他世界に渡る『漂流』の力で、ここに全ての可能性の七殺(ザミディムラ)を呼び寄せた。


 因果が一つに交わる点を『特異点』と呼ぶ。

 あの切っ先は、この宇宙の終着がカタチとなって現れたものである。


「バレちゃったか……」

「今すぐに止めろ! さもなくば……!」


「さもなくば、何よ?

 ふうちゃんは、他の方法があるってワケ?」


 何も言い返せなかった。

 どころか、七殺(ザミディムラ)ですら勝てないという絶望すらも飲み込んだ。


 紫府大星はそれ程までに完全無欠なのである。


「ごめん、言い過ぎた

 でも絶対に忘れないで……この場所、この瞬間」




「それまでふうちゃん達が生きてたら必ず勝てる」




 その一言で、紫府大星の身体にまで同様の異変が起きる。

 恐らく、彼女に対する『特異点』は八朝(やとも)の『多重依代(アーム)』を使用した。


 3月14日15時01分。


 この時間に全ての紫府大星の可能性と七殺(ザミディムラ)の一撃が交わる。

 彼女達の死は、上記の時間に固定されることとなる。


『おのれぇえええええ!!

 させぬ、させぬぞ! 出来損ない風情が!!!』


 紫府大星が最後の力で薙刀(アーム)の柄を握る。

 直接依代(アーム)を破壊することで術を中途で止めようとする。


 だが紫府大星にも『拒絶反応』による体内魔力乱流で血を流し始める。


「くっ……!」


 七殺(ザミディムラ)が自然と力を込めてしまう。

 その行為に意味はない、単なる『死への恐怖』が為す代償行為に過ぎない。


(くそ……が……ッ!)


 八朝(やとも)が衝撃波に抗うように前へ一歩、さらに一歩。


 亀よりも遅い歩みに永遠を見てしまう。

 見えているのに、七殺(ザミディムラ)に辿り着けないような錯覚。


 近づくごとに、自分も『特異点』の影響を受けて姿がブレ始める。

 たったそれだけで、ブレた自分が魔力を引き抜き、体力が雪片のように溶けていく。


『Hpnaswbjt!』


 エリスが最後の魔力を振り絞って障壁を展開してくれる。

 自分の代わりに障壁が『特異点』の余波を受け止め、凪のような静音が満たす。


「……ッ!」


 歯を食いしばって、残りの体力を焼き尽くす。

 一歩ごとに体感覚が奪われる気持ち悪さに抗い、ようやく七殺(ザミディムラ)の元へ。


「ふうちゃん……」

「安心しろ……

 最後の瞬間まで……お前を砕かせない!」


 七殺(ザミディムラ)の手を握る。


 それは(taw)による回復手段と

 彼女の不安を払うための二つの意味が込められる。


 何故か七殺(ザミディムラ)は、それだけで顔を綻ばせる。

 鉄火場には似つかわしくない、心からの笑顔を向ける。


「ありがとう、やっぱりふうちゃんはふうちゃんだね

 今まで誰にも助けられなかったし必要なかったけど、やっぱり……」


 最後の言葉は微かに、聞き取れない程ささやかに。

 そして二度と顔をこちらに向けず薙刀(アーム)を握り締める。


 紫府大星が握りつぶした跡はすっかり元通り。

 逆に紫府大星は『他人の依代(アーム)に触れるな』という不文律を侵した罰を受ける。


 それは即ち体内魔力の乱反発

 化物(ナイト)が死ぬ寸前に引き起こす魔力の悲鳴。


 今まで当たり前と思っていた化物(ナイト)依代(アーム)が効くという

 理屈抜きの怪現象に対する確かな回答が、紫府大星を崩壊させていく。


『ふざけるなぁぁああああ!!

 妖魔である我が、たかが人間如きに……ッ!!!』


 膂力は既に乱流が散逸させ、(GRB)も存在する土壌(りゅうみゃく)を失う。

 ならばと密かに進行させていた『星落とし』を急激に進めるも、すでに手遅れ。




 『特異点』の歪みの極点で、紫府大星の全てが『無』へと裏返った。

 その衝撃波で、八朝(やとも)は為す術もなく吹き飛ばされる。




七殺(ザミディムラ)……ッ!」


 遠ざかるごとに、その姿は褪せて砕けてノイズへと還っていく。

 宇宙の終焉を発生させた罰として、七殺(ザミディムラ)の全てが砕けていく。


 全ての可能性の彼女が味わう苦痛を一手に引き受けたのなら

 そりゃあ顔も見せたくはないだろう、さようならと手を振った相手には特に。


 それでも、未練がましく八朝(やとも)が手を伸ばす。


(……そんな顔をする奴が、こんなところで!)


 自分が死なせてしまった罪悪感もある。

 もっとしっかりしていれば、紫府大星の考察をもっと巡らせれば。


 だが、それよりも思うところはあった。

 彼女が人間の身体を与えられ、自分に関係なく平和に暮らしてくれれば。


 むしろそっちの意味で、手放したくないと必死で藻掻く。


「クソ……!」


 だが無情にも罪を忘れた愚人は罰せられる。

 もう二度と、そんな甘い考えが巡らないように徹底的に。


 既に■■(ザミディムラ)の姿はぼやけて消える寸前。

 このままでは記憶からも彼女の存在が崩壊を始めてしまう。


 最後に与えられたチャンスは一欠片のみ、俺は……




 ①■■(ザミディムラ)を忘れまいと必死で心に刻む

 ②彼女が忘れないでと言った『この瞬間』を心に刻む




 ……言うまでもなかった。

 こちらに顔を向けないとはつまりはそういう事。


 最後の言葉が『さようなら』ならば答えは一つ。




「エリス、何が何でもこれを記録してくれ!」




 それがこの世界での最後の言葉となった。


 程なくして客星は嘘のように消え失せ

 代わりに『洪水(デウカリオーン)』が地を満たした。


 それは篠鶴市における死。

 二度目のそれを八朝(やとも)達は見ることは無い。


 代わりに、彼等を元の地下通路の静寂だけが出迎えた。




◆◇◆◇◆◇




 NO_DATA




Interest RAT

  Chapter 87-d   取消 - Deadend Canceler




END

これにてCase87、特異点の回を終了いたします


補足しますと、これ以降■■が登場することはありません

それだけの犠牲を出しておいて、漸く致命傷一つなのです


随分と世知辛いですが、これが人間と妖魔の差であります


さて主人公は目論見通り余波で24時間以上前に飛ばされました

そういえば柚月のいる場所、隔離区画は辰之中にある収容区画で……


次回は『脱出』

それでは引き続きよろしくお願いいたします。

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