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Case 87-1:斬撃を操る能力(Ⅴ)

2021年8月12日 完成(99分遅刻)



 既に星は落ち、約束は壊れ果てた。

 門から零れる赤熱の光のそばに七殺(ザミディムラ)の姿があった……




【3月14日(土)・昼(14:19) 月の館深層境界・定塚門】




「本当に遅かったぞ、このねぼすけさん」


 相変わらずの悪戯っぽそうな笑みを湛える七殺(ザミディムラ)

 だが、その表情でごまかされない程にダメージは深刻であった。


 顔どころか服にも煤が付き、呼吸から空気の抜ける音が混ざっている。

 これは、そう例えば森林火災に巻き込まれて肺を焼かれた人のような……


「その顔……別に心配はいらないわ

 ほら、異能力者だし……あとちょっとすれば……」


 八朝(やとも)は徐に自分の上着を丸めて地面に置く。

 それを枕代わりにしろと暗に指示するが、七殺(ザミディムラ)は無視する。


 どころか八朝(やとも)を座らせて膝枕にした。


「……筋肉で寝にくいと思うんだが?」

「できそこないの布の塊よりかはマシよ

 そういうのは最後まで気が利かなないのね、ホント」

「そうか……」


 そうして七殺(ザミディムラ)の自然回復が追いつくまで

 楽な姿勢のまま、彼女は外の様子を語ってくれた。


 およそ6時間前、現実の(・・・)篠鶴市に客星が出現。

 たった7分弱で客星が天を覆う火の玉となり、気がつけば町は火の海。


 辰之中を使ってここまで辿り着くも、終ぞ人の影は見なかったという。


「……そこまで……なのか」

「うん、一瞬だった

 最初はアイツらの与太話だと思ってたけど、そんな次元じゃなかった」




「あんなの、過去の記憶にもない」




 それは七殺(ザミディムラ)としてではなく

 100年前、金鼬として妖魔を殺していた柚月(オリジナル)の記憶も含んでいる。


 確かに『前の6月』は辰之中を使用不能にした彼女の妖魔天象。

 それは辰之中が現実に比べても『脆い』のだと思っていたが、そうでもない。


 そもそも、壁が煤で真っ黒になっている所空も察するべきであった。


『ねえ、外の気温どれぐらいだと思う?』

「……勘で1200℃ぐらいか?」


 エリスが二重の意味で閉口してしまう。

 その気温は重度の森林火災を基準にした物であるが、その反応は遠からず。


 どうやら鉄骨すらも溶断される程の地獄が広がっていた。


「……もう、誰も生き残ってないんだな」


 八朝(やとも)がぽつぽつと絶望の一言を漏らす。

 約束は守れず、妖魔すら倒せず、挙句の果てには炎による全滅。


 頭を抱えそうになった八朝(やとも)の眉間を七殺(ザミディムラ)が小突く。


「何すんだよ……」

「それについて提案があるけど

 アタシの闇属性電子魔術(グラムアンブラ)は覚えているよね?」

「『漂流』だっけか? 時空間移動の……」

「うん、それでふうちゃん達を過去に押し流す」


 その一言に八朝(やとも)達も希望を取り戻す。

 確かに彼女の闇属性電子魔術(グラムアンブラ)なら可能性はゼロではない。


 だが、イマイチ諸手を上げる気分ではなかった。


 記憶遡行が明かした『回復死(コマトス)』周りに致命的な症状がある事

 向こう側の友人の裏切りと、凄惨な末路……


 何か裏がある……そうとしか思えない。


「あーもう、ウダウダ考えている暇はないの

 街は燃えて、誰もいなくて、あの妖魔は無傷……分かるよね?」

「いやしかし……」


 七殺(ザミディムラ)が更に反論を言い募ろうとしてふと間が空く。


 瞳孔が左下へゆらゆらと。

 八朝(やとも)は知らないが、それは過去を思い出す人間の習性。


 やがて、吹っ切れたように小さく笑う。


「大丈夫よ、ふうちゃん達を送ったら私も追いつく

 そもそもアタシは元十死の諸力フォーティーンフォーセズの幹部、簡単には死なないわ」


 更に念を押すように七殺(ザミディムラ)は自負を口にする。

 これぐらい押してやれば『あの八朝(ふうちゃん)』は動く、そんな感覚。


 目論見通り八朝(やとも)に生気が戻っていく。


柚月(オリジナル)が言ってたけど

 ふうちゃんってあの妖魔(バケモノ)を倒す手段があるんだよね?」

「いや、無いぞ

 しかも妖魔から人間に戻って弱くなったし」


 それを聞いた瞬間に今度は七殺(ザミディムラ)から生気が失われる。

 確かに妖魔を倒すために戦略や強化なら兎も角、人間戻り(デバフ)なぞ論外。


「どう……して……?」

「いや、奴がもう二度と変な考えを起こさないように

 人間のままで完膚なきまで倒して、挫折させるだけだ」

「……ふうちゃん、正気?」


 流石に説明を省きすぎたので七殺(ザミディムラ)に戦略を伝える。


 といっても人間の時にあって妖魔の時に無い『記憶遡行』を利用する事。

 つまりは、常に頭痛を維持して敵の攻撃の未来を『記憶遡行』で得る。


 それ自体も先程とほぼ変わらないものだったが、何故か納得してくれた。


「……うん、それならゼロじゃないね」

「いや、これもほぼ無策なんだが」

「そうでもないよ

 それにその方法なら人間に戻ったほうが良さそうだし」


 いつの間にか全回復した七殺(ザミディムラ)

 立ち上がるなり薙刀(アーム)を展開して片手で担ぐ。


 その様子に安心した八朝(やとも)灯杖(alp)(taw)を展開した。


「随分と悠長に待ってくれてたんだな、客星?」


 八朝(やとも)がそこにいない筈の人物の名を呼ぶ。

 だが、兆候と違和感は存在した。


 とくに後者に関して言えば

 最後の一人に対して話が終わるまで放置という謎の行動に表れている。


 意味は分からない、だが傾向は読める。

 妖魔である自分と、その他の人間(ザコ)……つまり気にもしていない。




『ああ、無論待っていたさ

 お前がそうするように、妖魔(われわれ)も『絶望』は最大の報酬なのでな』




続きます

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