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Case 85-2

2021年8月2日 完成(103分遅刻)

2021年8月5日 ストーリー修正


 分断させられ、間割(まわり)と一進一退の攻防を繰り広げる。

 鍛錬の差なのか時間経過とともに八朝(やとも)の方が不利になっていく……




【3月13日(金)・九ツ半(1:28) 『ウラ』・鬼里邸】




「……ッ!?」


 間割(まわり)からの重い一撃を受け、『挨星歩』の構えが一瞬崩れる。

 だが、その刹那の間隙を縫い、正中線に3種の打撃を受けた。


 反応が明かに遅くなっている……


(……やはり一朝一夕には!)


 一度崩れた体勢を挽回できずに、更に連撃を受け続ける。

 『遂水桃花』の攻撃デバフも、見よう見まねの『龍鱗』も破れかぶれ。


 やはり、この展開を覆すには別の手段が必要である。


(だが、一体何が効くというのだろう……か……)


 思考をしようにも、1秒ごとに積み重なる打撃ダメージが頭脳を鈍らせる。

 遂には視覚にまで影響を及ぼし、敵の姿が見えなくなる。


(…………)


 人間は一定以上の苦痛を受ければ迷走神経反射で意識を失う。

 そうすることで結果的にはショック状態の延長を防ぎ、生命を維持できるのだが八朝(やとも)にはそれがない。


 もはや全ての像は正常に結ばず、声すらも全身を逆撫でする悪寒で聞こえる。

 やがて手を持ち上げる力すらも刈り取られても、なおも苦痛が無遠慮に積み重なっていく。


 この時ほど自分の『気絶無効』が厄介なものだとは思わない。


(ああ、光すらも苦しい

 何も考えたくないのに……苦痛だけが……!)


 段々と、失神ではなく脱力によって最後の時を迎えようとする。

 不意に迫って来る苦痛の気配を避けようと、足を動かしてみる。


 ……いや、それでは駄目だ。

 せめて『アレ』に付随する全ての『糸』から逃れ得る場所へと。


「ほう……?」


 ……突如訪れた苦痛の破調に思わず呻く。

 たかが全休止程度では乱れた思考を戻すことはできず、未だに視界は霧の中。


 訳も分からず『糸』を頼りに、もう一度足を運ぶ。

 今度はそれに加えてもう一度『挨星法』の枢要である星を意識する。


 目の前に現れたのは陽火の気配、地には丙の気。

 即ち『伏吟格・月奇孛師』の大凶方位、逃れるに必要な辛の気は後ろと左。


 そのうち後ろには戊・天柱があり、左には癸・天蓬……

 より丙を剋するのは言うまでもなく水火の相剋。


「な……!?」


 相手はどうやら渾身の技を繰り出したのらしい。

 死に体の敵に贈る情けを掛けた一撃、それがまるですれ違うように自然に躱された。


 だけではなく、後ろへと逃れようとしたその先に既に八朝(やとも)が存在し

 またもすれ違うように、更に身体の捻りを加えた横拳の如き一撃がクリティカルに入る。


「■■■■■■!」


 聞こえない、だがここが再び九星無き五黄の地(ちゅうおう)なのだと察する。


 そこに猛然と襲い掛かる火孛地戸(天己地丙)の気配

 それを陰木の制(左後ろへ)の踏み込みで受け止める。


 ここに、『挨星歩』の完成となった。


「……!」


 今までは平然とぶち込まれていた連撃が、全て謎の動きによって防げる。

 あの時は分からなかった彼女の一撃の『ギミック』がここからでは丸裸となっている。


(……すべてを、巻き込む、気配……月と塔と、悪魔の気配……)


 後者は『逆位置』で吉を得る大アルカナ小径(パス)である。


 この気配が攻撃の瞬間に発生し、万物を吸い込むように引き寄せ、打撃の威力を上げる。

 または、相手の攻撃に逆位相の力を背負わせて減衰させる。


 即ち、瞬間的な時を操ることで疑似的な念動力(サイコキネシス)を引き起こしている。


(天心を踏んだ、次は……)


 天禽へ向けて、右後ろではなく右へと大きく一歩、更に前へ大きく一歩。

 天輔を踏む前に放った左の横拳が間割(まわり)を大きく吹き飛ばした。


「おのれ……!」


 それは一度見た筈の物に対する悪態のようにも見える。


 この時点で正規の反閇法、即ち間割(まわり)が打ち破った『挨星歩』の達人ではない。

 だが、成立する……それは遁甲式時盤上に落ちている九星で反閇を行っているからである。


prim retro(逆行摂理)grade mate(:大地の)ria GNOMES(精霊達よ)!」


 ぐわん、と世界が回る。

 そうとしか思えないような怪現象に、遅れてやって来る違和感。


 目の前には間割(まわり)の拳……知覚すら間に合わない。

 だが、大地を踏みしめる両足はそれを察知していた。


(……太陽と月を無理矢理逆行させて、時を戻しやがった)


 有り得ない、現代科学は疎か2000年以上前の占星術からも見放された可能性。

 戻っている時の中で悠然と前進し、拳を置きに行った。


 因果(じかん)の絶対性という物理学の摂理(おり)から解き放たれた一撃は

 その矛盾を取り繕おうとして、あらゆるエネルギーを纏わせて拳を潰そうとする。


 無論、その因果の先にある八朝(やとも)すらも巻き込んで……


「……ッ!」


 瞬息すら間に合わぬ、今更自分の踏足(せんたく)を違うわけにはいかない。


 『挨星歩』の弱点は遠距離技に弱いという所もあるが

 必ず『英任柱心禽輔冲内蓬』という固定パターンに囚われ、二度目以降は見破られやすい。


 前者は柚月(ゆづき)が自らの金属生成(ギフト)と組み合わせて遠距離技にも対応し

 後者の問題は、極限状態に陥った八朝(やとも)の超感覚的な閃きによって克服された。


 それは図らずも柚月(ゆづき)が施した苦行も関わる。


 現当主の神楽(わざ)は自らに『神』を降ろす……

 即ち『我』をも忘れる苦痛によっても同様の効果を齎す。


 それは妖魔化したことで失われた記憶遡行(ギフト)のそれと一致する現象。


 踏みしめた大地毎に時盤を作り直す『座山』の遁甲九星。

 『座山挨星歩』と言うべき奥義の完成である。


『桃花曲脈 汝は尊厳(Hod)を巡る『即死(nahs)』なり』


 左足で半歩左の天輔星ならぬ勝利(Netzakh)天球(セフィラ)を踏む。

 それだけで天輔(Tiphereth)から天冲(Netzakh)のパスである■■(nahs)が姿を表す。


 踏み込みと逆の手で、身体の捻りを加えた正拳突き

 それが星を回す間割(まわり)の一撃を掻い潜り、彼女の水月に穢れの一撃が入る。


「ぐ……ぁ……!」


 八朝(やとも)の目の前で崩れ落ちるように倒れる間割(まわり)

 遥か後方で一直線に破壊の痕が走っている。


 この時になって漸く正気を取り戻した八朝(やとも)が、弾かれるように音のする方向を見る。


「そんな……馬鹿な……!?」


 Ekaawhsすら一蹴せしめる学園五指の一人が

 同じぐらいの背丈の少女の一撃を食らい、死に物狂いで抗う異常事態がそこにあった。


続きます

なお、今回は2020年3月13日(陽遁七局)の時盤を基準にしています

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