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Case 84-5

2021年7月31日 完成(23分遅刻)

2021年8月1日  異能力情報追加


 死闘の果てに楓人の呪いを除去するのに成功する。

 そして、黙々が待っている『鬼里』の家へと向かう……




【3月13日(金)・夜九ツ(0:57) 『ウラ』・鬼里邸】




 悪意によって沈んだ濃霧の風景から巨大な影が見え始める。

 それは邸宅を区切る土の高塀、目の前には黒光りする欅材が特徴的な門。


 門前に和服を身に纏う人形の如き少女が恭しく一礼する。


「金鯱を直してくれたことに感謝いたします」

「感謝するー!」


 少女の後ろから小袖の小柄な少女が躍り出る。

 恐らく彼女が黙々であるなら、ここが鬼里の家で合っているらしい。


「直した……?」

「ええ、貴方様があの樹の前に集めてくださって、お陰で容易く成りました」


 そういって少女が懐から水晶玉サイズの白い玉を出す。

 よく見るとそれは眼球であり、瞳孔から放たれた光で先程の楓人のホログラムが表示される。


 楓人の洞に光り輝く金鯱の像が鎮座されていた。


「申し遅れました

 私、鬼里一箇(おにざといちか)と申します、妹の黙々(もくもく)がお世話になりました」

「ああ、俺は八朝風太(やともふうた)だ、するとアンタが……」

「ええ、私が妖魔より人間へと戻った鬼里でございます」


 どうやら彼女が願っても止まない妖魔より人間に戻ったその人であるらしい。

 両手の中の大眼球が妖魔時代の名残なのであろう。


「……失礼だが、元は?」

「壁雲と名乗っておりました

 下界ではのっぺらぼうの双子として生を受けました」

「のっぺらぼう? 化狸って事か?」

「いえ、純粋なのっぺらぼうでございます」


 一箇(いちか)の言っている意味を解せず

 これ以上追求しないことにする。


「それで、人間に戻る術というのは……」

「ええ、それについて少しお話しなければなりません」


 本題に入ると一箇(いちか)の表情がやや不穏なものとなる。

 何か裏があるのだと勘ぐるも、それにも及ばない。


 彼女らは既に妖魔の力を失っているのに

 今回のこの霧の騒動は彼女らの天象が暴走した姿なのである。


「……やはり一筋縄にはいかないか?」

「いえ、そういう訳ではありません

 そもそも『元人間』というのは妖魔にとっては屈辱に等しい」

「屈辱……?」

「ええ、何しろ退魔師に負けを認めた証なのですもの」


 一箇(いちか)が人間に戻る術を『敗北と屈辱の証』と語る。

 その表情は依然としてどんよりとしたまま、暗い憎しみを孕んだオーラを放つ。


「……詳しくは聞かないが、退魔師が必要って事だな」

「ええ、ですので既に連れてきました」


 そう言って一箇(いちか)が門の方に一瞥をくれる。

 依然と邸宅の全容を覆い隠す濃霧から、見覚えのある二つの影が浮かび上がる。


「お、久々に見たねぇ~……って幽霊になってる!?」

「見違えたな……だが」


 間割(まわり)鍵宮(かぎみや)が悠々と手を振っている。

 柚月(ゆづき)をまじまじと見ている鍵宮(かぎのみや)間割(まわり)が掴み上げる。


 だが、そんな和気藹々の中に一匙の憎悪が混じっているのが見える。

 まずは鬼里姉妹から懐柔していくとする。


「一つ質問していいか?」

「よろしいですわ、では何を?」

「一応、今の退魔師は俺ということになっているらしいが?」

「ええ、それなら数刻前に取り消されましたわ」


 曰く、『サト』には土地神が存在しており、彼が退魔師を決めるという。

 数刻前に南町の住民から歎願され、退魔師が解任されたというぐらいである。


 因みにこれはよくある事らしい。


「どういう事だ?」

「暢気な彼女たちが、そんな役割を担うとでも?」


 言われてみれば確かに彼女らが陰湿な南町衆に与するようには見えない。

 鍵宮(かぎのみや)は閉塞を嫌がり、間割(まわり)は報酬が無ければ微動だにしない。


「そんな退魔師達に負けましたの

 黙々は気に入っていますが、私は……」


 その眼を見て確信する。

 彼女は人間のままで安住する気はない、いつか退魔師に復讐すると……


「でも今はその時じゃない、ですわね?」


 その言葉にも無数の棘を感じる。

 いや、そうではない……この後の事態を期待するようなそんな薄暗い感情。


「まぁ、そうだな

 一先ず俺は本題を切り出しに行くとする」

「それが良いですわ」


 そんな彼女に手をひらひらされ、会話の輪に入る。

 だが最初に迎えられたのは言葉ではなく好奇の視線であった。


「何だ……?」

「いやぁ、前の時より気力が充実しているなって」

「……お前らも竜眼が使えたりするのか?」

「ん~違うかな

 前は禿げ上がった大樹だったのに、今は葉を青々と茂らせてって感じ」


 鍵宮(かぎのみや)は曖昧な事を言いながら核心を突いてくる。

 確かに今の八朝(やとも)はカバラの32の小径(パス)を全て使いこなせる。


 だが、そこに冷や水のような一言がやってきた。




「まあ、だからと言って妖魔如きに退魔師をやらせるわけないじゃんね」




 突如声の低くなった鍵宮(かぎのみや)にエリスすら驚愕のあまり言葉を忘れる。

 そんな中、『漸く本性を晒したか』と間割(まわり)が近づいてくる。


「ああ、私たちはお前をここから帰す訳にはいかない、何故だかは分かるな?」

「……妖魔だからか?」

「それもある、だがそれ以上にお前は私たち退魔師の覚悟に泥を塗った」

「何が言いたい?」

「妖魔の力を手放して妖魔に勝つなぞ言語道断

 そんな腑抜けた理想を掲げるお前に紫府大星を殺らせる価値は無い」


「構えろ」


 既に退魔師の二人は武器を構え、こちらに刃を向ける。

 だが、こちらはまだ言葉を尽くしていない。


「だが、奴は謂わば妖魔至上主義

 妖魔の力で勝ったとして、奴の野望は微塵も砕けない」

「尚更私たちに任せるといい

 それとも、お前はつまらない自尊心の為に『異変』の災いに首を突っ込む気か?」

「安心するといいよ!

 お友達にはもう会えないけど、ここの暮らしは天国だって保障するよ!」


 今や元の調子になったとしても、底知れぬ恐ろしさは拭い去れぬ。

 ああ、何しろ鍵宮(かぎのみや)の方が猟奇殺人鬼(シリアルキラー)のような凶悪な笑みをしている。


 ふと、柚月(ゆづき)達を見る。

 ああ、コントロール幻想も望郷も偽りである。


 彼女を人間に戻せずしてエリスを人間に戻すなぞ夢のまた夢、ならば……




「邪魔するのなら、打ち砕く」




◆◇◆◇◆◇




 使用者(ユーザー):鬼里一箇(妖魔・のっぺらぼう)

 誕生日:不明


 固有名(スペル) :なし

 制御番号(ハンド):なし(水属性)

 種別(タイプ)  :妖魔天象・壁雲


  STR:7 MGI:7 DEX:3

  BRK:1 CON:8 LUK:2


 依代(アーム)  :眼球

 能力(ギフト)  :星霜魔眼

 後遺症(レフト) :なし


 備考

  ・人に戻ったため天象が異能力に置き換わった

  ・妹の黙々は恒星が眼球代わりである(千里眼)

  ・壁雲:壁のような雲、台風の目を作る雲も指す




Interest RAT

  Chapter 84-d   楓人 - Curse of Chiyou




END

これにてCase84、霧の中の回を終了いたします


さて、今まで退魔師の仕事をフイにしたツケその2でございます

そりゃあテキトーな先代でも仕事に対しては矜持を持っている筈です


また、これは今作で話すことではありませんが

八朝と退魔師の戦いは、鬼里一箇にとって重要な情報収集の場ともなります


八朝は無事に人間に戻ることはできるのだろうか?


次回は『決意』

それでは引き続きよろしくお願いいたします

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