Case 07-8
2020年7月16日 Case 07より分割完了
2021年1月26日 ノベルアップ+版と同期
2021年2月9日 ノベルアップ+版での修正内容を同期
鳴下達に飼葉を任せ、当初の目的地である篠鶴駅3F南展望スペースまでたどり着く。
そして八朝は三刀坂の手を繋ぎ、躊躇なくその身を展望スペースから奈落へ躍り出た。
【15時30分 篠鶴駅3F南展望スペース】
「きゃあああああああ!」
絶叫と恐慌のあまり異能力を使う事を忘れる三刀坂。
だが、好都合であった。
「ああああ……
って何これここどこ!?」
「俺も知らん!
だが、この空間跳躍に見覚えは無いか?」
「知らないよぉおおおおお!」
まさかここまで混乱するとは八朝も予想外であった。
少々頭を捻り、ここで助け舟を出してやることにした。
「三刀坂!
異能力で飛べるんじゃなかったか!?」
「あ……そうだった」
『Libzd』
発声と共に漆黒の騎士槍が三刀坂の手に現れ、重量操作によって宙に浮く。
八朝の体重を相殺しきれない分のろのろと地上へと落下し続ける。
「ふぅ……助かったよ八朝君」
「そうれはどうも」
再び全く別の場所に風景が変わる。
まるで神出来の夢遊病に巻き込まれたあの時のように市内を滅茶苦茶に飛ばされ続ける。
「八朝君、これって縁ちゃんの……」
激しい風景変化の果てに八朝達は砂浜に降り立つ。
それは神出来の事件の時の目的地である水無瀬海岸。
「ああ、その通りだ
そして、神出来に水星の魔方陣を埋め込んだ犯人のお出ましだ」
目の前の砂という砂が山脈の如く盛り上がり、峰々から砂で出来た四肢が出現する。
夥しい量の砂の巨人が八朝達の前を塞ぐ。
その向こうの海の上、見知った小さな影が寝かされているのが一瞬見えた。
「!?
縁ちゃん!」
三刀坂が弾かれたように槍の突進を仕掛ける。
続いて八朝の電子魔術が放たれる。
「そうはいかないなぁ」
八朝の制止よりも早く、ゴーレムによるアームハンマーが三刀坂に襲い掛かる。
衝撃波が物体投射魔術の軌道を明後日の方向にずらす。
その刹那、とっさの判断で三刀坂が自身の重量を軽くし、殴打の衝撃波を漏れなく飛距離に変換させる。
攻撃を為したゴーレムが腕を使って体勢を立て直す。
「アンタが件の『新入り』だな?」
「ご名答さ、アンデッド」
ゴーレムの肩の上で恭しく一礼する新入り。
一見すると礼儀正しく思える仕草が、ゴーレムの肩の上という位置関係によって台無しになる。
「随分とお早いご到着ですが
私は何も手を出していませんよ?」
「だろうな
この規模でゴーレムが操れるなら直接手を下す必要すらないからな」
「そんなわけないじゃないですか!
睡眠時の女の子しか狙えないような、こんな弱々しい僕が!」
「果たして貴方達の言う『犯人』に足り得ますか?」
この新入りから何も聞き出すことが出来ない、控えめに言っても狂っている。
ならば続いて紡がれる言葉が八朝たちの度肝を抜かせることに成功させるには自明の理であった。
「故に……こうして経験値を稼ぐのですッ!!!!!」
巨人の目の前に穢い闇が凝集し、闇色の炎となって放物線を描く。
落着点には神出来……完全に虚を突かれてしまう。
「縁ちゃん!?」
『Hpnaswbjt!』
いち早く反応したエリスの障壁魔術で炎の攻撃から神出来を守る。
だが、これ以上エリスは魔法を放てない。
「くっ……!」
新入りの追撃を警戒して八朝も灯杖を構える。
だが、彼の行動は常識の斜め下を行くものであった。
「あああああああああああああ!!!
弱い! 弱い!! 弱すぎるッ!!!」
「こんな木っ端なバリアなんぞ破れないとは何たる不覚ゥゥゥウウウウウウウ!!!」
泣き叫ぶ、叫ぶ、仰け反っては頭を抱える。
明らかに芝居じみたオーバーリアクションである。
「木っ端とは随分な言い方だな?」
「ほら見たでしょ!
僕は弱い、故に『アレ』を食って経験値にするんだ」
だがその顔の左方を超高速の投槍が擦過し、ゴーレムの顔面を削り取る。
振り向くと三刀坂の手に騎士槍が見当たらない。
「いいから、早く縁ちゃんを解放して」
「躾がなっていない女ですねぇ!」
「煩い」
騎士槍が今度は上から落ちてくる。
彼女の『重量を操る能力』では説明が付かない槍の挙動が、今度こそ巨人を砂に返す。
それは昨日の追加の作戦会議で八朝より予告されていたゴーレムの致命傷。
即ち、אמתより אを削って死と為す。
昨日の襲撃犯が彼である事を証明する一幕となった。
「これで貴方の虎の子は無くなった……さぁ!」
催促の声を聴いた新入りは、呆然とした顔のまま哄笑を上げ始める。
「待て、本当にאמתだったのか?」
「え……確かにxみたいな文字を削ったよ!」
「じゃあ一体何が……」
砂に帰った筈の巨人が、煙霧となって散らばっていく。
その中で8×8の正方形とその外接円の文様が浮かび上がる。
『J zv sfekvexh ngeeinc ajpa.
Vqxa oijtu pv ahrk ppkyjq,
nvk ipze ysfvaiij mwdokzk bgtw ayl esiwcf amsb O swolf qwtgkz sy lfxj.』
普通の電子魔術ではあり得ざる長大な詠唱。
魔法陣の中心で諸手を上げて魔力言語を叫ぶ姿は
どことなくファンタジーの悪魔召喚術師と重なる。
それと共にゴーレムの躯が闇色に溶け始める。
「愚かにもゴーレムと勘違いして
悪魔の名を削り取った褒美です」
「我が真名を名乗りましょう!」
煙霧が再び巨人の形へと戻り、新入りの体を覆い尽くす。
周囲に突風を巻き起こして、その変化した姿を晒す。
「掌藤親衛隊会員No.19 谷座元也……」
「否!!」
杖を持ち、目深いフードの外套が新入りの体を全て覆い隠す。
風を纏い、甲高い靴音を鳴らして着地する。
それは親衛隊を殺人へと誑かし
神出来を食らおうとした悪魔の姿。
30の幽霊軍団を従える地獄の大総統。
「十死の諸力
至天の座・第八席 灰霊のグラフィアス!!」
もうちょっと続きます




