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Case 83-1:妖魔天象・怪雨

2021年7月22日 完成


 『自分と違う輩に汚物を投げる

  猿から一歩たりとも成長しない劣等種(ヒト)のどこがいいのやら』


 深い緑の中、ぽつんと1つ館が建っている。

 ヒト側からは(インディゴ)、妖魔側からは『モリ』と呼ばれる静寂の森林。


 狸と称される『妖精』が治めるという厭人の領域。


 『……』


 からりと鞄の中のシリンダーたちがぶつかり合う。

 極彩色の溶液の中に、明かに視線を含む不気味な不純物が混じっていた。




【3月1日(日)・明六ツ(6:30) (カルクス)(鳴下地区)・某所】




『ふうちゃん、きょうはこれでおわり』

「ああ、ありがとう」


 耕す前の疎らな緑の中で八朝(やとも)が息を整える。

 その後ろから柚月(ゆづき)がふよふよとついてきている。


「……まだ鍛えないと駄目なのか?」


 柚月(ゆづき)が申し訳なさそうに首肯する。

 寧ろ、未熟なくせに催促してきた自分が悪いと八朝(やとも)が弁明する。


 彼等は鳴下神楽の精度向上のための鍛錬を行っている。


 きっかけは前回の『閃電』戦で、相手に神楽が殆ど通用しなかった事である。

 それに思い悩む八朝(やとも)に、柚月(ゆづき)が見てあげると持ち掛けた事で始まった。


 そしてそれは地獄の蓋を開けるに等しい行為であった。


(……まず基礎体力が圧倒的に足りない

 技術も拙い、センスと根性だけでゴリ押しにしたツケだな)


 都会生活で、運動部にも入らなかった八朝(やとも)に近道なぞある訳がなく

 妖魔としての身体能力向上を含めても、柚月(ゆづき)に押し負ける程であった。


 結局のところ今のように柚月(ゆづき)の頭痛の種を増やしただけでしかなかった。


「鳴下本家でみっちりと鍛えられて、それから毎日続けたのにな」

『だ、大丈夫! あと数日ぐらいだから!』

「そうか……」


 だが、八朝(やとも)の表情は晴れない。

 彼等に重くのしかかるのは3月15日(残り14日)というタイムリミット。


 それよりも早く『ウラ』を見つけ出し、ある程度鍛錬も完了させる。

 更に、仕事と妖魔退治を熟しながらなので、空き時間がほぼ無いに等しい。


 普通の人間が真似すれば3日で音を上げるような様相を為していた。


「鍛えたら鍛えた分だけ成長できたらな……」

『うん、だからきのうみたいな事はやっちゃダメだよ』

「そうだな、大人しく朝の走り込みだけしとくよ」


 八朝(やとも)が頭を掻きながら反省する。

 そして向かったのは『サト』ではなく、『ヤマ』の南側。


 今度は『緑柱』としての仕事であった。




【3月1日(日)・朝五ツ(8:11) (カルクス)(鳴下地区)・南山麓】




「朝から精が出ますねぇ」


 坑道入口で出迎えるのは、ここの主である染足である。

 八朝(やとも)を雇いたいと言い出したのも彼によるところが大きい。


「鍛錬の帰りだからな、身体は温まっている」

「上出来、では早速お願いいたします」

「ああ、任された」


 八朝(やとも)が簡素な服装に着替え、ヘルムとツルハシがあるのを確認する。

 そして、熱気と瘴気の渦巻く穴倉の中へと入る。


(……『幹』に異常なし

 鉱石もまぁ、ここは掘りつくした後だしな)


 八朝(やとも)は坑道内を素早く駆け抜け、全ての分岐先を確認する。

 そして『落ち物』や、掲示板に掛かれたものに狙ってツルハシを振り下ろす。


 約1時間弱、依頼された分と全坑道の安全確認が終了する。

 出口では染足だけでなく、彼の部下たちも集っていた。


「おう、どうだったあんちゃん?」

「悪くはない、この通りだ」


 八朝(やとも)が風呂敷を広げて工夫達に採掘物を見せる。

 口だけではなかった調子に、男たちのやる気も上がった。


 そして、もう一つの袋から鉱石をいくつか取り出して染足に渡す。


「今日はこれで良いか?」

「ええ、構いませんよ……硝石ですか、良く見つけましたね」

「枝28に鉱脈があった、だが道中に妖魔がいた」

「成程……」


 仕事内容は『採掘』と『安全確認』。

 要は『坑道のカナリア』としての役割を期待されている。


 自力で妖魔に対処でき、生理的耐性も高い彼にうってつけの役割である。


「他にはありますかね?」

「枝06で純度の高い丹砂があった、本当に何でもアリだなこの山」

「でないと、妖魔塗れのここじゃなくて稲でも育ててましたよ」

「それもそうだな」


 染足がこの山を見つけたのは妖魔から逃げ惑う窮地からであった。

 妖魔から身を隠した洞穴の中に、純度の高い鉱石がゴロゴロと落ちているのを見たという。


 必死で逃げながらも洞穴への道標を付け、無事に『サト』へと帰還した。

 そして全財産で部下を雇い、現在の鉱石業独占状態を築いたという。


「お前ら、今日は枝28だ!

 根こそぎはやるなよ、分かったか?」


 染足が報酬を八朝(やとも)に渡すと、部下たちに号令を下す。

 老衰を疑う程の迫力に、男たちも鬨の声を上げる。


(……水銀って身体に悪いのにね)

(魔力の含有量は宝石と貴金属を除いた中ならトップだ、需要はある)


 端末(エリス)と耳打ちしながら帰路につ甲としたところで染足に呼び止められる。


「今日も貸本屋通いかい?」

「そうだな、丁度溜まった所だからな」

「なら先に『緑柱』へと寄ってくれたまえ、渡したいものがある」

「そうか、恩に着る」


 染足の屈託のない笑みに別れを告げ

 今更ながら自覚した疲れに引き摺られるようにとぼとぼと『サト』へと帰っていった。


続きます

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