Case 82-5
2021年7月21日 完成(44分遅刻)
妖魔の呪詛を最新技術を用いた術式で跳ね返す事に成功する。
そして、八朝も妖魔と同じ戦略を狙い……
【2月22日(土)・昼九ツ(12:16) 『サト』・旅籠裏】
「ぐ……お……!?」
妖魔は八朝の瞬動と腹に刺さる一撃に不意を突かれ呻く。
だが、衝撃は思ったよりも少なく、浮足立つような感覚に総毛立つ。
ここで使われた神楽は2種類。
即ち、足裏と大地を繋ぐ龍脈を切り裂く『葦祓』、そして脈弓を利用した押し出し。
『脈弓亜種・鏑荻』
妖魔はまるで大地から投げ飛ばされたかのように宙に放り出される。
背中を焼くのは『青い大地』もとい『■■■』から放たれる熱エネルギーの奔流。
(このクソがぁ!!!)
妖魔は身体を捻り、地面スレスレで手を伸ばす。
接地面を手だけにして、その勢いで対岸まで移動しようとする。
妖魔の驚異的な身体能力によりその企みは実現した。
「どうやら『ソレ』は足を付けた方がヤバいらしいな」
『お前……何でもアリなのかよ!?』
「相棒が殊に優秀だからな、まぁもう一度飛んでもらうんだが」
『……ッ! させるかよ!!』
妖魔が姿勢を低くし、手も付ける。
四足に力を込めて大地を蹴飛ばすと、刹那の内に敵の懐に。
したり顔だったヒトの顔が驚愕に歪む、いい気味である。
『らあッ!!!』
先程八朝がやってみせた『足払い』を只の怪力で実現させる。
敵も大地を踏み抜き、痺れを齎す震動で対抗しようとしたが些細なものである。
不意を突かれなければこの通り、丸めた紙屑の様に崖に叩きつけられる。
「……ッ!」
『ほう、起きるのかよ? 気持ち悪ぃな!』
だが、相手もそこまでであった。
最初、先程の意味不明な『体術』で抵抗したが、ものの1分で陥落。
痛みと疲れが毒の様に体中を蝕んだと見る。
(鍛錬不足かよ、しょうもねぇ)
常人なら意識を手放すほどの苦痛に耐え、立ち上がろうとする根性だけは褒められる。
だがそれまでである、平均して10倍以上の『生きた歳月』の差がヒトの下剋上を許しはしない。
そろそろ立ち上がる気力も失ったところで拳を止める。
『ふうちゃん!!』
『じゃあ、トドメを刺してやるよ』
妖魔が再び天象を呼び寄せる。
既にここは『サト』に非ず、この妖魔が本拠とする『ヤマ』の境界。
閃電は群れを成し、大地へと突き刺さる。
唵阿毘羅吽欠 娑婆呵
呪詛として使う生霊返し、それは先程の八朝に対する意趣返し。
食らえば日の光の如き灼熱が臓腑を焼き尽くす、ましてやヒトが食らえば即死は免れられない。
『ふうちゃん!』
端末の悲鳴と肉の焼ける不快な音を背に、妖魔は帰路に就く。
唯一心残りがあるとすれば、今日の献立が不完全なものになるぐらいか。
(畜生、あの守銭奴め
今は『乗ってやってる』だけだがいつかは……)
まずは山道の獣道への分岐を選び、4つ目の木を左に。
それからは複雑な手順を踏むことになるが、これも彼等を『ヒト』から守るためである。
『はぁ、せめて芋があればな……』
「それなら条件次第で譲らなくもない」
完全に油断した妖魔が次の衝撃に身構える。
遅すぎたか、そんな確信は一向に来ない衝撃への不信感へと変わる。
『お前……!』
「最後にお前が『呪詛』を使ってくれて助かったよ」
『ああ、忘れてたよ
あの紫府大星が言ってたよ、やたら妖術に強い人間がいやがるって』
「大日如来と分かりやすく『明』の力を使ったからな
内は文明にして外は従順、以て大難を蒙るってな」
それは周易経の36……通称、地火明夷。
太陽にして君の離火が坤の衆土たる小人に没し、悪事の蔓延する末世が出現する形。
大日如来を破るに適した占術呪詛であった。
『雷文が読めたのは褒めてやる
だが、お前と取引するつもりは無い、殺すぞ』
「そうか? 先に言うが条件は山道のヒトを襲うなとだけなのだがな」
目の前の人間がそんな間抜けを口にして笑いが止まらない。
ということで、絶対に呑めない条件を叩きつけてやろうかと企む。
『馬鹿め、譲歩したところで考えは変えんぞ
尤も、お前が二度と妖魔を殺さないと誓えるのなら話は別なんだがな!』
「ああ、保障しよう」
『だろうな! 『退魔師』の貴様が不殺を誓うなぞ……ん?』
「元々俺は不殺を誓った身なのでな、それぐらいは余裕だ」
目の前の人間の言っている意味が分からない。
分からない以上は何も手出しができない、その隙に人間が袋をこっちに寄越してくる。
「6つだけだが、足りるか?」
『……』
「どうした?」
『足りぬな、まるで足りんわ』
そこまでで切って、人間を殺せば不足した肉も確保できて万々歳なのだが
……かれこれ50年近くも得ることのできなかった食材に、思わず欲が出てしまう。
『毎日2個我に献上する、なら吞んでやらなくもない』
「了解した、取引は成立した
そちらも山賊紛いの愚行に手を出さないよう頼む」
そう言って人間があっさりと矛を収めて去ろうとする。
とうとう疑問が封した口を突き破って迸る。
『何故だ……何故貴様はこうも簡単にヒトを裏切れるのだ!?』
「裏切るとは何だ、退魔師の職務を投げ出すことか?
路銀も寄越さず家の下で飼い殺す輩の頼みに一体何の意味があるんだ?」
『……ッ!』
言葉に詰まる。
そういえば退魔師とは正規の『サト』の人間ではない。
職務に盲目的に従ってきた『退魔師』たちの姿と余りにも違い過ぎる。
『何が目的だ?』
「『ウラ』を探している
鬼里の秘術でヒトに戻る」
漸く妖魔は彼の正体と態度に合点がいく。
高笑いし過ぎて、相手は興味を失くしたのか去っていく。
『待ちな、一つだけ教えてやるよ……お前の懸念は正しい』
「……」
『せいぜい北町を彷徨ってみるがいい
『ヤシマ』を『アルセニコン』などという名に変えた輩の悪意の残骸がそこにある』
◆◇◆◇◆◇
使用者:不明
誕生日:4月9日
固有名 :なし
制御番号:なし
種別 :妖魔天象・閃電
STR:6 MGI:9 DEX:8
BRK:4 CON:1 LUK:0
依代 :雷(閃電石)
能力 :霊亀罅文
後遺症 :なし
備考
・妖魔である為、固有名と制御番号は無い
・ステータスも適性ではなく『力量』を表している
Interest RAT
Chapter 81-d 合意 - Ceasefire Agreement
END
これにてCase82、退魔師の仕事の回を終了いたします
まあ、衣食住が向こう持ちという破格の条件ですが
彼の目的とはすれ違っているようです
そういえば『退魔師』と言えば彼女らもそうなのですが
一体どこをうろついているんでしょうか?
さて、何やら地名が錯綜しているようです
『黄』と『赤』と『白』に、『里』と『山』と『浦』……おっと
次回は『人を捨てた錬金術師』
それでは引き続きよろしくお願いいたします




