Case 82-4
2021年7月21日 完成(2時間以上遅刻)&修正(ストーリー・結末部分)
謎の男によって『緑柱』の構成員として採用された八朝。
だが、『妖魔』出現の一報で手続きを中途で終えて現地に向かう……
【2月22日(土)・昼九ツ(12:00) 『サト』・南町大広場】
「遅かったじゃないか、何処にいたんだい!?」
「……まぁ、ちょっと遠出をな」
旅籠の主人の追及をのらりくらりと躱す。
前を見ようとしても人だかりのせいで上手く見ることができない。
「所で、何の妖魔が出ているんだ?」
「ああ……アイツは『ヤマ』の門番さ」
「門番……?」
「そう、山道の入口に陣取って金子を横取りしやがる
逆らって山の中に逃げた奴が雷に撃たれて死んだとか何とか……っと」
旅籠の主人が何かに気付いたのか話を中途にする。
何事かと彼の動きに注視すると、徐に息を吸い始めて……
「『退魔師』が来たぞ!!!」
その瞬間に人だかりが蜘蛛の子を散らすように道を開け
彼等によって阻まれていた妖魔の姿がくっきりと視界内に収まる。
見たところ三刀坂達と同じく若い女性で、鞄に食材を詰めている。
そして表情は以外にも眉を下げて重い溜息を吐く。
(……何かに困っているのか?)
そう思うが矢先、妖魔から鋭い視線を受ける。
「ちぃっ! 『退魔師』が来やがっ……ん?」
妖魔が八朝の姿を見るなり、文末が尻上がりとなった。
そして、妖魔が呵々大笑を始める。
「何がおかしい?」
「何がって、お前だよお前!
そんなみみっちい力でよくも『退魔師』を名乗れるもんだな!」
「試してみるか?」
「雑魚相手にする訳ねぇだろ? オイ?」
妖魔が手招きをして挑発している。
乗るべきではないと判断した八朝の肩に旅籠の主人の手が置かれる。
その表情は、まるで『如何なる理由でも追い出せ』と言わんばかりのしたり顔。
(……出来れば戦闘を避けたい
柚月がいても五分五分ぐらい、ましてや俺を庇って戦い続ければ)
実に悔しいが妖魔の言う通りである。
なので、今回は『勝利』以外の条件を模索しなければならない。
「……主人、その袋は?」
「ああ、これは今朝仕入れたジャガイモです、晩御飯に使うつもりで」
「……」
八朝さん、という呼びかけを無視して状況を整理する。
まず妖魔が持っている鞄には人参が見えるが、葉菜の類は無い。
そして、その割には嵩張っておらず、何か買いそびれたようにも見えなくもない。
いや、この妖魔は『徴収』によって物資を得ている筈で人里に降りる意味は無い。
そして主人のジャガイモと、先程の『緑柱』より渡された経費。
二つほど、彼に聞きたい事があった。
「ジャガイモは主人だけが?」
「ええ、そうですよ! これが我が家系の……ってこれが何か関係あるんですか?」
「ああ、大いにある
ついでにこのお金でジャガイモはどれだけ買える?」
「!?
え……えっと…………6個程度かな?」
それは袋半分ほどの量である。
嫌に目立つ『間』があったのも気になるが、鍵は既に掌中にあった。
「では6個いただこう」
「あ……ちょ……!」
主人に代金を渡し、ジャガイモを端末のDB内に保管する。
それが終了すると、端末を掴んで何かを入力する。
(え……!? いきなりどうしたの!?)
(至急、天体計算を用意してくれ……気付かれんようにな)
(わ、分かった!)
そして、これを達成するにはもう一つの条件があった。
公衆の面前で妖魔と『談合』してはいけない、戦闘を装って人気のない場所まで移動するしかない。
そして、端末の計算結果を確認すると、全てのピースが揃った。
「そこの妖魔」
「何だ、今更命乞いか?」
「雷を操ると聞いたが、山道で関所気取りとは随分とセコい真似ができるんだな」
その瞬間に目の前で水蒸気爆発が起きたかのような衝撃に見舞われる。
爆風のような風を浴びて、危機を悟った民衆が逃げ惑う。
「今なんつったか?」
「雷までみみっちいな、流石は人里に溶け込める……」
今度は実際に身体が浮き上がる。
只の風圧で八朝の身体は旅籠裏の『青い大地』境界まで吹き飛ばされる。
(……一瞬、雷が何かの形に見え)
何とか受け身を取ったが、思考までも中断される。
そして、妖魔からの殺意を全身で浴びる羽目となる。
「そんなに死にたいらしいなら格の違いを見せてやるよ」
すると、冬晴れの空が一瞬にして曇天へとすり替わる。
厚すぎる雲の最下層で、稲妻が雲間を進む龍の如く走っていた。
「俺の名は閃電、雷の妖魔天象だ
俺を誹った罰は、命を以て償ってもらう」
その瞬間に雷が瞬息の唸り声を上げて地面へと突き刺さる。
腕で遮った先に、起きるはずだった衝撃も痺れも無く思わず困惑する。
「……それで攻撃のつもりか?」
「慌てんなよ、じきにやってくるさ」
果たして妖魔の宣言通りか、全身への猛烈な衝撃が襲い掛かる。
それは直接攻撃でも、重力による間接攻撃ででもなく、魂への一撃。
即ち閃電石によって出来た亀甲の罅割れ。
『甲骨文字』による原始的呪詛であった。
掛けられた字は『残』、即ち矛で引き裂かれた死体を意味する。
その呪いは敵の体内にて肉を食い破りながら姿を現していく。
尤もそれが、八朝ではなく閃電側だとは流石に予想外であったが……
「おの……れ……! 何をしやがった!」
「DSCのロードの木星、これには『雷』や『勅令』の意味がある
だから本体は呪詛だと踏み、生霊返しで跳ね返させてもらった」
「生霊返しだぁ?
ヒト如きの小細工に妖魔である俺が負ける訳ねぇだろうが!」
「ああ、だから『コレ』も組み込んだ」
八朝が再び端末である入力を行う。
文字盤を長押しにして上下左右・離すの5種類の動き、それらで画面上に格子を描く。
即ちフリクションによる指先の九字切りである。
『なんかふうちゃんの考えてることだんだんわかってきたかも』
「そいつは有り難い、俺も電子計算機の勉強でもしてみるか」
『でも意外と難しいかもよ?』
妖魔は彼等の余裕そうな私語と返し風で文字通り腹が煮えくりそうになる。
それでも反撃のチャンスを窺い続けるが、どうにもうまくいかない。
まるで、天象を締めあげられているような不快感しか残っていない。
「さて、先程は俺を『青い大地』に押し込もうとしていたらしいが……」
八朝は脈弓の一歩で相手の目の前まで跳躍し腕を掴み上げる。
その腕にも龍脈を絡ませて、はち切れんばかりに龍脈を押し続ける。
「妖魔にも『青い大地』が効くのか興味が湧いた」
次でCase82が終了いたします




