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Case 82-1:妖魔天象・閃電

2021年7月17日 完成


 八朝(やとも)達は遂に八卦切通の先に辿り着く。

 だが、その地形は篠鶴市と鏡写しの様にそっくりであった……




【2月22日(土)・朝(9:00) ARRAYINDEX_OUTOFBOUNDS】




 エリスの衝撃的な分析結果に呆然とする。

 遠景は篠鶴市からビル群を失くしただけでそれほど変わりはない。


 なのでここは篠鶴市ではない。


「いや待て……何か少し形が違わないか?」

『え?』


 八朝(やとも)が指差したのは遠景の北の方。

 即ち、篠鶴市における水瀬(みなせ)地区付近の『水面』であった。


「あそこ、沈んでないか?」

『え……そんな筈ないんだけど……』


 エリスが慌てて分析結果を確認しようとする。

 すると遠くの方から呼び声が聞こえてきた。


『私たちを呼んでる?』

「……いや、妖魔かもしれん

 『濡女』のように最初は人の姿をして油断させて……」


「濡女で悪ろうござんしたね」


 驚愕とともに声の主へと振り向く。

 真後ろにいつの間にか少女が立っていた。


 簡素な着物を細帯で締め、薪を頭まで背負っている。

 恐らくは山奥の樵から薪を貰った帰りなのだろうが、問題はそこではない。


「人間……なのか……?」

「当たり前よ、どこからどう見ても人でしょうよ失礼ね」

「いや、それは済まなかった」


「それはそうと貴方、外から来た人ね」


 薪の少女は八朝(やとも)達の出自を一瞬で見抜いてきた。

 何事かと思って腕を見ると、彼女と比べて服が余りにも違っていたのに気付く。


「察しのいいひとは好きよ

 私は『一目』、貴方たちは?」


 そう言われて3人の紹介をする。

 八朝(やとも)については興味なさげだが、幽霊の柚月(ゆづき)とエリスには興味を示したらしい。


「外はそんなにも進んでいるんだね

 死人が生き返るだなんて夢のようじゃないの」

「いや、これは色々と事情があってな、外でも死人は蘇らない」

「そう、つまんないのね」


 そのまま一目は山を下る道を歩き始める。

 だが、数歩目ぐらいで足を止め、不審な目で此方に向く。


「貴方たち、そこで死ぬ気なの?」

「いやそのつもりは無いんだが……」

「だったらついてきて、『サト』を案内するから」

「……それは集落って事で良いんだな」


 一目が黙って頷くと、今度は他二人の意思を確認する。

 といっても他に選択肢が無いので頷くのみであった。


「もう一つ聞くが、ここは何なんだ?」

「一応皆はここを『アルセニコン』って呼んでるわ」

黄色(アルセニコン)……?」


 突如服装にそぐわない単語を耳にする。


 アルセニコンとはギリシア語の単語である。

 また、毒の元素として有名なヒ素(アルセニック)の語源でもある。


 八朝(やとも)の困惑の表情は、どうやら相手にも伝わっていたらしい。


「確かに変だよね

 聞いたこともない言葉で名前を付けるだなんて、でも……」




「それが決まりだから」




 恐らくこれ以上は聞き出せそうにないので

 観念して彼女の後をついていくことにする。


 一歩踏みしめる毎に砂利に少しずつ足を取られ

 舗装された道の有難みをこんなところで体感するとは思っていなかった。


「大丈夫?

 外の人って大体そんな感じだし、何なら背負ってあげるけど」

「いや、それには及ばない」


 八朝(やとも)(taw)を呼び出して、周囲の龍脈を視認する。

 流石は山というだけあって至る所に細い龍脈が通っていた。


 龍脈を踏み、その反動で前に進むことで無駄な体力消費を減らす。


「……」

「何だそんな顔をして」

「へぇ、それ()できるんだ」

「どういう事だ?」

「ううん、こっちの話だから気にしなくてもいい」


 そうやって話題を遮ろうとするが、好奇の目が八朝(やとも)から離れない。

 そんな面倒臭い状況から小一時間、ようやく山道の終わりが見え始める。


「私からも聞いていい?」

「何だ?」

「貴方たちって、ここに来た目的があるよね?」


 ここまで来ると自分たちの全てを知っているのではないかと錯覚する。

 だが、答えないのも不義理なので簡単に説明する。


「『ウラ』という所にいる妖魔に会いたい

 そいつが持っている『秘術』が俺には必要なんだ」

「……そう、聞き覚えは無いけど『サト』の人に聞けば何とかなりそうね」

「まぁ、そうだな」


 そして平地……もとい『(カルクス)』の畦道をひたすら真っすぐ進む。

 すると、目の前に青く発光する『細い地域』が阻んでいる。


「こっちよ、それとこれには触らない方が良いわ」

「どういう事だ?」

「見て頂戴」


 一目が石を青い地面に投げつける。

 すると突然石が発火し、真っ黒な灰になるまでメラメラと揺れて崩れた。


「……確かに危険そうだ」

「だから『橋』を渡るの、ちょっと遠回りだけどその方が安全だから」


 青い地面の『沿岸』を南の方に回る。

 どこまでも続く田圃の風景に反して、街道は唐突に丁字路になって途絶える。


 左方向には先程から見えていた石橋が目前に佇んでいた。


「この先が『サト』よ

 私の家は右だからここでお別れね」

「ありがとう」


 一目は『礼には及ばないわ』と言ってここで分かれる。

 中洲を一つ挟み、地面を跨ぐ不思議な石橋を渡り切ると、立て看板には『サト』の表記。


 そして、八朝(やとも)達に気付いた住民がこちらにやって来る。




「ようこそ外の人!

 ここはアルセニコンの中心の『サト』だ!」



 

続きます

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