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Case 81-5

2021年7月16日 完成(53分遅刻)


 ※この話はCase81-4-2より続いています


 柚月(ゆづき)に属性スキルを使用させ、見事に勝利を収める。

 だが相手もその程度のダメージで気を失うことは無く……




【2月22日(土)・朝(7:31) 鳴下駅東口・辰之中】




「……」


 感慨は無かった。


 勝てるビジョンが最初からあったわけでも

 余りの荒唐無稽に言葉を失った訳でもない。


 未だに八朝(やとも)達は三十に近い鳴下衆の触りしか見ていない。


「おぉぉ……!」


 呻き声を上げながら鳴下文(なりもとあや)が起き上がる。

 だが、今の彼女では赤子の手を捻る事すら難しい、ましてや神楽は以ての外。


 その代わりに口だけは辛うじて動かせる。


「何故じゃ……お主、何をしようとしているか分かっておろうな?」

「当然だ、俺は『鬼里』という妖魔に……」

「『人戻り』の事を言うておらんわ!

 八卦切通の先が如何なる魔境か、お主も知らぬわけではない!」


「あの『客星』ですらあそこでは中の上程度じゃぞ?」


 その一言にも大して驚きはしない。


 妖魔の巣窟となれば彼女より強い妖魔がいても何ら不思議ではないだろう。

 逆に彼女が『最強』でない理由が日頃の行動にある。


 紫府大星は、一度たりとも仲間を引き連れていない。


 それは彼女の人望の無さなのか、彼女自身の矜持かは分からない。

 だが、彼女の『異能力者を妖魔とする計画』に乗り気の妖魔が存在しない事を表す。


「だろうと思ってた」

「なら不憫と思わないのか

 柚月(ゆづき)を地獄に巻き込むことに」


 鳴下文(なりもとあや)柚月(ゆづき)の方を向く。

 だが柚月(ゆづき)は静かに首を横に振った。


「……醜悪な人形じゃの」

「あやちゃん……ううん

 おばあちゃん(・・・・・・)がさいごまで気付いてくれなかったの、かなしい」

「何を気付くというのだね、偽物の分際で……」

「にせものなんかじゃない!!」


 どうやら鳴下文(なりもとあや)は目の前の親友の存在を否定している。

 無理もない、いつも通りの控えめな態度で敵側に付いたのなら言いくるめられたと疑われても仕方はない。


 それは、この場の誰にも証明することはできなかった。


柚月(ゆづき)、行くぞ」


 柚月(ゆづき)の背中を押して、その場から離れる。

 これ以上鳴下文(なりもとあや)から話を聞くことはできなさそうだ。


「覚えるがいい、貴様と私は同類だ!

 物言わぬ少女に人殺しを強いる人畜生じゃ!!」


 文字通り捨て台詞として聞き流す。




【2月22日(土)・朝(7:39) 鳴下家・道中】




「アイツらが棟梁を……」

「止めろ、アイツらは妖魔だ……下手したら……」

「ああ、何処から見ても彼女は金鼬に……」


 鳴下文(なりもとあや)を倒した影響は思った以上に大きかった。

 立ち塞がる筈の鳴下の一族が、遠巻きに噂を流しているのみ。


 そんな過大評価のお陰で道中は安全に進むことができた。

 そして、いつかに見た雑木林に差し掛かる。


「……」


 『前の6月』では追手の鳴下文(なりもとあや)によって殺伐としていた風景が

 今にしてみたら穏やかな木漏れ日の小道でしかなかった。


 そしてその先には本邸

 柚月(ゆづき)曰く、裏の勝手口から伸びる道が八卦切通に繋がるという。


「ふうちゃんは、どこまで思い出せた?」

「……一応、柚月(ゆづき)が鷹狗ヶ島にいたって事ぐらいは」

「そう……なんだ」


 手を握られる感触がほんの少し強くなる。

 その表情は嬉しさ半面、でも悲し気な雰囲気もしている。


 思い出したことについて、全面的に喜べることではないらしい。

 一応、手掛かりらしきものはあった。


(……そもそも俺と柚月(ゆづき)で島中の住民を皆殺しにした

 ああ、人殺しは俺だけじゃなかった……それがどんなに遣る瀬無い事か)


 安堵よりも、過去の自分への恥ずかしさがあった。

 それどころか、あの時からほぼ成長していない自分にも苛立ちを覚える。


 未だに戦いを仲間に任せている自分が最高に格好悪い。


(だがどう戦えばいい?

 俺ではどうあっても殺すことはできない、殺すことが出来なければ実質戦えない)


 ここで一つの気付きに至る。


 先程、柚月(ゆづき)が使った属性スキルについて。

 いや……スキルそのものではなく、使うという『発想の転換』が必要であった。


 そもそも転生者には元の世界の記憶からチート級の力が授けられる。

 例えば鹿室(かむろ)の『天象封じ』や八朝(やとも)の『異世界知識(オカルト)』もその一つである。


 これ自体が優秀過ぎて、それ以外の選択肢が無い。

 そしてこの発想は、同じく百年前という『異世界』からやってきた柚月(ゆづき)も同様である。


 彼女がもしも属性スキルを使う発想があれば

 依代(アーム)の致命的な脆さを秒でカバーすることも出来る。


 それをしないのは、無意識的に異世界の力を下に見ているフシがある事に他ならない。


(……だからと言って今更『死体漁り(コープスピッカー)』を奪いに戻るか

 そんな時間がある訳がない……だがここで変わらなければ『あの時』と含めて3度目だ……!)


 そんな八朝(やとも)の思考は、呼びかけで一時中断される。

 ふと前をみると、そこには霧深くかつ圧迫感を感じる程に狭い崖の隙間が存在した。


「これが八卦切通なのか……?」

「うん、それでここにホントは大きな石が……」


 よく見ると入口付近の地面が少しへこんでいる。

 その範囲から見るに切通を完全に塞ぐ巨大な何かがあったのを伺わせる。


「ふうちゃん」

「何だ、そんな顔をして」

「こんどはちゃんとわたしが守ってあげるから」

「……」


 屈託のない笑顔が苦々しく思う。

 こんな顔をさせない為にも、自立する必要があるのだろう。


「それじゃ、いこっか」


 八朝(やとも)が首肯すると、二人で切通に足を踏み入れる。

 狭く暗い道が小一時間続き、草木の気配が恋しくなったところで急激に視界が広がる。


「わあ……!」


 柚月(ゆづき)が思わず声を漏らす。

 確かにここは今まで生きた中で一番澄んだ空気だ、しかも眼下に広い景色。


 ここから『ウラ』を探す必要がある。


『ね、ねえ! ふうちゃん!』

「どうした、エリス?」

『こ、これ見て……これってアレだよね?』


 エリスが表示させる画面を注視する。

 どうやら周囲の地形をスキャンした結果であるが、何やら見覚えがある。


 考え込んでいると、柚月(ゆづき)が声を上げる。


「これって、あやちゃんの家……でも左右が逆」

『それだけじゃないんだよ

 ここ、篠鶴市と鏡映しなんだけど!?』


 妖魔の本拠地……それは何もかもが未知の世界ではなかった。

 だが、不気味なほどに篠鶴市と似ている魔境であった。




◆◆◆◆◆◆




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Interest RAT

  Chapter 81-d   天象殺し - The Eclipse




END

これにてCase81、百年前との決別の回を終了いたします


ええ、ですがこの形の決別はあまり良くはないでしょう

お互いにしこりを残したまま、誰一人としてそれを解消する鍵を持っていない


それが良くないことを呼び寄せるのは自明の理でしょう

彼等は『人間に戻る』以外にもう一つの『目標』まで背負う必要があります


さて、篠鶴市と全く同じ地形から目的の『ウラ』を見出せるでしょうか?

少なくとも『水先案内人』は必要だと思います、23日しか残されていないからね


次回は『サト』

引き続きこの小説をよろしくお願いいたします

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