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Case 81-3

2021年7月14日 完成(13分遅刻)


 お互いの天象を晒して死闘を繰り広げる柚月(ゆづき)鳴下文(なりもとあや)

 だが、柚月(ゆづき)の方が圧されており、その趨勢は誰の目から見ても明らかであった……




【2月22日(土)・朝(7:28) 鳴下駅東口・辰之中】




『はぁ……ッ! はぁ……ッ!』


 肺を失くしても、生前の癖で過呼吸に陥る柚月(ゆづき)

 未だに影と風水刀法(ギフト)による斬撃遠当てによって圧倒しているかのように見えた。


 だが、肝心の鳴下文(なりもとあや)の表情には余裕すら浮かんでいる。


 今にして思えば鳴下文(なりもとあや)は窮地に陥ろうが迎撃に徹し

 かれこれ四半刻もの間、柚月(ゆづき)の全力を誘い続けている。


(……待て、確か『前の6月』では少なくとも『勝っていない』

 奴はそれを知って持久戦を挑んでいる、その勘所とは……)


 直ぐに思いついた、そう肺病である。


 全ての持久力は正しい呼吸により生じる。

 五行においても呼吸は内毒を清める作用を持ち、その毒は疲労すら含まれている。


 そして柚月(ゆづき)依代(アーム)が『杖の形をした肺』になっている事からも

 肺を依代(アーム)としなければならない『事情』が存在しているのは疑いようが無い。


(まずい……息が上がり過ぎている……!)


 柚月(ゆづき)の攻撃は近距離では然程の遜色を見せないものの

 中~遠距離においては『影』に全てを任せることで息を整えようとしている。


 だが、肝心の影が鳴下文(なりもとあや)の神楽の一打で一つずつ潰されている。

 時折飛んでくる矢を方違(ギフト)で防ぐたびに、少しずつ顔色が悪くなっていく。


(エリス……そろそろ起きれるか?)


 小声でエリスの意識状態を確認する。

 カメラの横のライトを点滅させ無事であることを確認すると、徐にその画面を覗く。


『今どうなっているの?』

『……柚月(ゆづき)鳴下文(なりもとあや)が戦っている

 しかし、相手のペースに乗せられて柚月(ゆづき)が昏倒寸前だ』


 メモアプリの文字が止まる程の驚愕を見せるエリス。

 無理もない、彼女が敗れ去れば鳴下文(なりもとあや)の憎悪を誰が止められようか。


『わたし、もう文字打つ事しか出来ないんだけど』

『そうか……だが、3分以内で辛うじてできる事は?』

『一応分析だけなら……』

『上出来だ、やってくれ!』


 八朝(やとも)も自分ができる事を模索する。

 依代(アーム)の3枠は柚月(ゆづき)と破壊済みで残り1枠。


 柱も形も分析の為の(taw)を出しただけで手詰まりとなる。

 ならば、頼れるのは記憶のみ。


(どうする……!

 妖魔になってから『記憶遡行』が激痛でままならない……それでも!)


 手掛かりとなる記憶を必死で探る……だが。




 いくら探しても、柚月(ゆづき)に関する情報が見つからない。




 いや、当たり前の話だ。

 高々4か月ちょっとで相手の全てを知った気になっている方が異常なのである。


(でも俺はその『愚考』を押し通せた

 それは何故だ……三刀坂(みとさか)鳴下(なりもと)も大して知らなかったのに息を合わせられる程の記憶を得た『きっかけ』は……!)


 まだ考える、だが残り時間は少ない。

 そこで探す範囲を絞ることにする……例えばそう、『使命(オーダー)』に関係の無いハズレの記憶遡行。


 例えば自分の母がクッキー好きだったり、近所の林道には椋鳥の宿り木があり

 ……起こり得なかった未来として、例えば『三刀坂(みとさか)の不興を買って彼女に殺される』記憶。


(待て、何だその記憶は!? そもそも俺は……)


 三刀坂(みとさか)が両親を亡くした悲劇的記憶を

 鳴下(なりもと)が大好きな『おばあ様』に目も掛けてもらえず、藻掻くように生きた経験を


 ……あの神社で膝枕してもらった少女の顔が、どことなく柚月(ゆづき)に似ていることを。


「……ッ!!!」


 その瞬間、脳を1cm四方に押し潰すほどの激痛に苦悶する。

 エリスがライトを明滅させて必死で心配してくれるが、寧ろこれは願ってもない好機。


 久々の『記憶遡行』に全てを賭ける。




 ……。


 …………。


 ………………。




 だが何も起きなかった。

 悔しさのあまり拳を地面に叩きつけた。


(何だよ『あの少女は髪飾りを大切にしてる』って!

 こんなもの今更思い出しても事態が前に進む訳……が……)


 ふと、柚月(ゆづき)の姿が見える。


 サイドテールを束ねている髪飾り……それは先の『記憶遡行』のと瓜二つの……

 更には鳴下文(なりもとあや)の胸元のペンダントも、髪飾りの意匠と同じ『8∞合わせ』……


(……あれは、柚月(ゆづき)だったのか……!?)


 その瞬間に、今まで捨て去っていたハズレの『記憶遡行』達が線で結ばれる。

 即ち、どういう訳か『元世界』の……しかも鷹狗ヶ島に柚月(ゆづき)が存在していた事。


 そして自分たちは、八朝(やとも)が受けた天罰である『もう一度全住民をこの手で殺せ』を遂行していた。

 その過程で柚月(ゆづき)では既に死した『住民』を殺せず、結局夜半に蘇った彼等を殺し回っていた記憶。


 最後には『絶対に殺したくない■■』がリストアップされて

 彼女に隠して一人『あの家』の海崖から身を投げ出して……


『ぐ……ぁ!!!!』


 これ以上は頭痛が酷過ぎて思い出すことはできない。

 一瞬浮かび上がった『矛盾点』である『何故異世界人の柚月(ゆづき)が?』もある記憶が立証する。


 『ふうちゃん言ってたよね?

  『漂流』して8度目の世界に私の望むものがあるって』


 それは別世界線の柚月(ゆづき)である七殺(ザミディムラ)の言葉。

 『漂流』による超時間的移動は七殺(ザミディムラ)の得意技であったが、それは闇属性(アンブラ)があっての事。


 いや、確か闇属性の性質は『進化・外法』


 進化というからには、元になる才覚が要求される筈で、それを柚月(ゆづき)が持っているなら?

 更に言うと今の彼女は八朝(やとも)異能力(まじゅつ)の影響下にある。


(エリス……分析できたか?)


 画面を見ると、予想通りの結果がずらりと並んでいる。

 俺は……




 ①麻痺(pit)柚月(taw)に混ぜる:追加効果付与『特殊麻痺』

 ②幻惑(samek)柚月(taw)に混ぜる:DEX+3




次でDEADENDと分岐いたします

ヒントはこれまでの話に『確実』に存在しております

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