Case 80-4
2021年7月10日 完成
車寺と別れ、一度太陽喫茶へと戻る八朝達。
『八卦切通の先に妖魔を人へ戻す術がある』、その言葉の真贋を試す必要があった……
【2月21日(土)・朝(11:42) 抑川地区・太陽喫茶前】
「よォ、お帰りさん」
「ああ、ただいま」
いつも通りの挨拶……という訳にもいかずマスターに呼び止められる。
喫茶店スペースで待っていた八朝が、予想外の人影に思わずホットミルクを落としそうになる。
「な……!?」
「あ……ははは……」
「ご迷惑をお掛け致しました、八朝さん」
「隔離区間で化物化したと……」
「ですので、エリスさんの支援であのザル警備から逃げてきました」
あっけらかんと言い切る鳴下と、未だに遠慮がちな三刀坂。
色々と言いたい事があるが、それよりも先にエリスが口を出す。
『ごめんね、途中から交信できなくて……大丈夫だった?』
「……ええ
途中でピンチになりましたが飯綱って人に助けられました」
少し含みのある返答なのが気になるが
篠鶴機関の『三壁』が手助けしたとなれば彼女たちの生存も納得がいく。
八朝が安堵の溜息と共に椅子に深く座り直す。
全員が席に着いたところでタイミング良くマスターから珈琲が配られた。
「随分と疲れてるけど、何かあったの?」
『うん、みっちゃんなら知ってると思うけど、またあの車寺って人に』
「ああ……それは本当にご愁傷さまだね」
「誰ですの、その車寺って人」
「ああ、それがな……」
事情の知らない鳴下に前回の『笑う卵』事件と
今回の『偽天使の石』による篠鶴高校襲撃事件の顛末を語る。
すると、見る見るうちに鳴下が青ざめた顔になっていく。
「な……!?
七不思議も大概ですが、妖魔にまで……!」
「それって100年前のおとぎ話だよね」
「おとぎ話などではありません!
おばあ様が命を懸けて封じた魑魅魍魎が復活しているだなんて……」
如何に『前の6月』の記憶を持つイレギュラーの一人とはいえ
この反応の前で実はこの町に少なくとも5人も妖魔がいるだなんて言い出す事はできない。
「……地底探検部の最奥にもいただろ?」
「アレは地表に出ている様子はありません
それよりも問題は妖魔です、彼らの害悪は人食もありますが……」
「彼らの天象は、龍脈を破壊するのです」
その一言に八朝の反応は薄かった。
何となく分かっていたが、異能力者が龍脈の撓みから三日月湖のような魔力を絞り出すだけなら
妖魔の圧倒的な魔力量、そして未熟な妖魔の八朝に掛かる罰則の重み。
龍脈を破断させている以外に考えられる要素が無い。
(故に一刻も早く人間に戻らなければならない、更に……)
飯綱の犠牲を以て漸く足が止まった大妖魔・紫府大星。
彼女が『妖魔』に拘りを見せる以上、同じ土俵のまま打ち勝っても野望は消えないだろう。
人として勝たない限り、これからも異能力者に危害を与え続ける……
「あ、そういえば貴方の部屋からこんな手紙がありましたの
……違いますわよ、私だけじゃなくて三刀坂さんも一緒に」
紙を渡すなり不毛な口論を開始する三刀坂と鳴下。
手紙の主は第三者に見られることを考慮し、単に『タイムリミット』だけが書かれていた。
3月15日、即ち23日以内に人間に戻らなければならない。
「一つ聞いていいか、鳴下」
「ふぇ!? な、何ですの……?」
「『八卦切通』の先がどうなっているか聞いているか?」
「え、ええ……おばあ様曰く
鏡合わせの篠鶴のような地形と妖魔の本拠、その奥に人に戻った妖魔のいるお座敷が……」
そこまで言って二人が唐突に何かに察したように静かになる。
咎める様な視線は、全て説明しろと言わんばかりに八朝へと注がれる。
「そういえば聞いていませんわね
何故柚月さんが半透明なのか、貴方の気配が異様なものに変わっているのか」
「……仕方がない、実は」
そして彼女らに本当の経緯である『左壁弾劾』の話をし始める。
十死の諸力、掌藤親衛隊、異能力暴走……掛け値なしの危険行為にどんどんと険しい雰囲気へと変じる。
その果てに八朝も妖魔化したと語った瞬間に机が叩かれた。
「どうして私に相談せずにそんな無茶を!?」
「その言葉を返す
神出来と錫沢に一言入れたか?」
「そ、それは……」
どうやら彼女たちの『生贄』も相談無しの蛮行であったらしい。
お互いに悪しく言う事が出来ず、力なく座り込んでしまう。
「だが、俺も同罪だ
この事はこれ以上追及はしないが、それでもこの我儘だけは……」
「で、ですが貴方たちではおばあ様……それに妖魔には!」
「それこそ妖魔との戦いに巻き込むことはできない
特に『前の6月』で辰之中を消滅させたあの力と同等のがゴロゴロといる魔境には」
その一言で反論を引っ込めた鳴下。
だが、今度は三刀坂が止めようと言い募り始める。
すると柚月が叫んだ。
「わ、わたしも『妖魔』だから!
ふうちゃんのそばにいるから、だから……!」
そう言ってバツが悪そうに口を抑える柚月。
取り消しがつかないことをしたと顔を青ざめていると……
「ええ、それは何となく知っておりました
貴方は最初に会った時から常人を超えた力を見せ、完璧な『尾』の神楽を修めていました」
「それも、おばあ様が寝物語に語ってくれた『金鼬』のような……」
黙り込んでしまった空間に、鳴下からの優しい返しが紡がれる。
「うん、私も事情は分からないけど
柚月ちゃんが強くて優しいのは知ってるから……」
暗に八朝さんをよろしくと言わんばかりの雰囲気に柚月の目が潤み始める。
途端に慌て始める鳴下を尻目に三刀坂が耳打ちしてくる。
「それで、本当に現当主とはどうするのよ」
「ああ、心配には及ばん
『巻き戻す前』の退魔師の家は覚えているだろう、あのルートを使う」
その一言に納得した三刀坂であるが
八朝の気は晴れていない……その理由に飯綱の言葉があった。
『旱天を打ち破り、八卦切通の先の『ウラ』に……』
旱天とは言うまでもなく現当主を指す言葉であった。
『工作部隊』の長であり、隠しルートも知っている筈の飯綱がこう言い残したのである。
魔力の干上がる天象は、柚月の『蝕』と同質。
妖魔であれば打ち勝つことのできないルートでは、致死率が余りにも高すぎる。
俺は……
①飯綱の言葉通りに正面突破
②隠れ家へのルートを使って現当主との戦闘を避ける
③快速特急 加賀方面・東尋跡行き
次でCase80が終了いたします、更に分岐いたします
③についてはまぁ……実は方角的には正解だったりします




