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Case 80-1:妖魔天象・客星

2021年7月7日 完成(36分遅刻)


 突如現れた妖魔・紫府大星。

 彼女は八朝(やとも)を歓迎すると言っているが……




【2月21日(土)・朝(11:01) 抑川地区境界・辰之中】




「『来迎』? 一体何のことだ?」

『とぼけるでないぞ

 汝が言い出したではないか、悪くない名だ』


『あの御来迎(引きこもり)と同じく『呪詛』の力

 だが、汝には神は居らず、釈尊でないとは言い得て妙だ』


 八朝(やとも)達を差し置いて一人納得する紫府大星。

 だが、それ自体が八朝(やとも)にとっても最大の命の危機であった。


 彼女の天象である『客星』は星図に無き星を生み出す現象であるが

 呼び出す星は北極星……それもポラリスではない中国神話における星神。




 こぐま座ベータ星、その真体である直径292億kmの黄色巨星を地球に落とす。

 無論、落とされたら最後篠鶴市はおろか地球そのものが塵一つ残さず焼き尽くされる。




(どうする……!

 今度の星落としはEkaawhsの模倣ではない、下手したら『前の6月』のように……!)


 あの時、実際に星落としを受けた辰之中は灼熱地獄に変じ

 化物(ナイト)はおろか、潜っていた異能力者すらも生きたまま荼毘に付された。


 生殺与奪権は彼女に握られている。


『どうした? 泣いて喜ぶのではないのか?

 『魔女の大鍋』から出られるのだぞ、但し我が配下としてだが』

「魔女の……大鍋……?」


 それは『異世界知識(オカルト)』由来の言葉である。

 魔女祭(サバト)の中心に据えられる大鍋を指し、比喩的に大混乱を意味する。


 思い当たるフシは多いが、所詮部外者の『妖魔』がそれを察しているとは思えない。


『ああ、そのまんまの意味であるぞ?

 自らを神と称する愚か者のこさえた人身御供の大鍋』


『それが、渡れずの横断歩道(フォレストラット)であるぞ?』


 彼女の口から最後のピースが齎される。

 そして、彼女が篠鶴市に拘る理由も判然となった。


「お前……『七含人』の……!」

『ああ、あの錫沢(イタコ)の猿真似であるな

 我が蔵書を後生大事にして、一体何を得ようとしたのか』


『我等の通る穴を開けていただけなのになぁ!』


 妖魔が口角を上げて妖しく笑い続ける。


 確かに錫沢(すずさわ)の『七含人』は『疑似異世界知識(オカルト)』を頼りにする杜撰なシステムであった。

 それは英丸(えいまる)の享楽によって引き起こされたのではなく、最初から穴だらけの構築物であった。


『じゃが、愚か者は愚かなりに頭が回る

 我欲を満たし、確かな成果を臨み、その果てに夥しい屍を築く』

「……」

『我が目的は元より『同胞』を増やすのみ

 即ち卵である異能力者より孵化した汝の如き者を八卦切通の先に連れ出す』


 どうやら彼女は自分の仲間を増やすために

 候補となる異能力者の覚醒を気長に待ち続けていたらしい。


 だが、八朝(やとも)以外にも人の枠を外した存在はいくつか存在する。


「……十死の諸力フォーティーンフォーセズ柚月(ゆづき)は?

 此奴らの方が俺よりも余程腕が立つぞ?」

魔人(アンブラ)は所詮人でしかない

 そこの『蝕』に至っては我等の天敵である、論ずるに値しない』


『だが、欲を言えば汝も残念である

 愚か者の宣う『最高傑作』の汝では、常人の孵化すらも遠い訳だ』

「そうか、偽天使の石(アルキャッザーブ)も……」

『ああ、そうだ

 そこの『小さき者』に『石災』を齎したのも我だ……』


 『石災』という言葉に、思い浮かべるのはメモの内容。

 最重要監視対象者の三刀坂(みとさか)に付された『石災』……


 アレは弘治による鏖殺計画を指していた筈だが、ここに来て意味が豹変する。

 もしも鹿室(かむろ)が石から危険性(ブラックボックス)を除外しなければ、三刀坂(みとさか)闇属性電子魔術(グラムアンブラ)を放置していたら……


 石災とはこの妖魔が2月から撒いた異能力者の妖魔化を指していた。


『だが、ここで漸く結実した!

 新たなる同胞、『蝕』を招く悪しき『来迎』の妖魔!』


 世界を破壊した妖魔が、八朝(やとも)に手を差し伸べている。

 まだ『魔女の大鍋』について聞いてはいないが、八朝(やとも)の心は決まっていた。


 ふと柚月(ゆづき)を見ると、小さく頷いてくれる。


■■(taw)!』


 非常に重い苦痛に苛まれる。

 その代償に、妖魔殺しの『蝕』が霧の中より生成される。


 そして、妖魔が準備した北極星(コカブ)が欠けていく。


『そうか、貴様等の答えは把握した

 我を試したいのであれば存分にするがよい、だが……』




天象(北極星)を潰した程度で我に勝ったと思うなよ!!!』




 苦痛で滲む視界の中で、両者の激突が映る。

 只の異能力者同士では有り得ない『魔力の暴風』が、衝突点から溢れだす。


 一合毎に、世界が捻じ曲がっていく。

 一方が遠当ての斬撃による包囲を仕掛ければ、もう一方は正面突破で凌ぐ。


 相剋は相侮へと変じ、影すらも当たり前のように実体を引き裂いてくる。


(これが妖魔同士の戦いか……!)


続きます

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