Case 78-5
2021年7月1日 完成
2021年7月2日 異能力者情報更新
親衛隊部室には変わり果てた雨止の姿があった。
あらゆる攻撃が通じず、絶体絶命の危機に陥っていった……
【2月18日(水)・夕方(18:01) 篠鶴学園高等部・親衛隊部室前】
「また会おうぞ、友よ」
破壊は無音となって襲い掛かった。
余りにも強すぎる力は音すらも置き去りにして、破滅的な熱を伝えてくる。
雨止の異能力は八朝の元世界ではある名前で伝わっている。
即ち、対地質量攻撃衛星『神の杖』……チタンの塊を隕石として発射する衛星兵器である。
但し、衛星の余りにも高すぎる視点のせいで狙いは定まらない。
それを八朝は目を瞑っても当るようカバラを組み込む形で改変した。
その末路がこれである。
「……ッ!」
最早顔を上げる暇もない。
現実の『神の杖』を超える秒速300km/hの裁き。
僅か一秒で部室棟を刺し貫く筈だった一撃が……一向に到達しない。
1秒、2秒、4秒、16秒……漸くここで雨止が異変に気付く。
「どういう事だ?
まあいい、『Jesumn』!」
もう一度神の杖を振り下ろすも結果は同じ。
神の杖による断罪は、何度唱えようが虚しく何も起こらないのみ。
「一体何が……ッ!?」
そして雨止は、異変の主役の姿に気付いた。
……霊体級になっている筈の『彼女』が両の足を地につけている。
その下の魔法陣には夥しくも整然とした漢字の羅列。
もし彼に元世界の教養があるなら、足元の『戊』に気付いたのだろう。
即ちこれは十干と十二支を用いて方位を指し示す『二十四山』。
柚月が得意とする風水刀法の式盤。
『Ifebeim』
呟きは雷速に歪み、煌めく刃は寸分違わず雨止の袈裟を捉える。
八朝の付け焼刃を遥かに超える『脈弓』の神速。
だが、雨止はこれを避ける必要はない。
今の彼は『ある人』曰く、異能力を超える異能力……即ち『天象』による絶対防御がある。
それは星官神杖の逆の、深い海の底から魔物が発する幻の靄。
妖魔天象・蜃気楼
今の彼は『天象』の幻で、触れる事すら叶わない。
なのに、柚月の一閃が深々と胸に傷を残した。
「ぐあぁぁッ!?」
痛みに耐え、もう一度神の杖を希う。
だが無情にも『神』は答えてくれない……只管柚月の刃から逃げ惑う。
そんな有り得ない現象を神釘の重圧から逃れた八朝が目を剥く。
(これは一体何が……?
待て、魔力も無しに魔法陣が……それにこの黒線)
柚月の式盤の文字がブレている……いやそれ以外の影も全て揺れている。
影だけが揺れる現象、何かに気付いた八朝が窓の外の『黒い空』に注目する。
「これは……皆既日食か!?」
「カイキニッショクって何なの?」
「ああ、月が太陽を隠す事で起きる天文現象だ
それにより太陽がまるで食われた様に穴が開き、漏れ出た不安定な光が影を揺らす」
「太陽が……食われるですって!?」
その一言で部長が面を食らった顔になる。
両肩を捕まれ、まるで洗いざらい吐けと言わんばかりの気迫となる。
「一体どうした?」
「本当に太陽が食べられているの!?」
「それは単に比喩表現だ
だが、そう言わざるを得ない太陽の欠け方をする」
「それはどうでもいい!
太陽が食べられる天象……貴方は本当に知らないの!?」
その問いに八朝が静かに否定する。
そして部長が鋭い切断音が続く部室内で明瞭にその答えを呟く。
「天象・蝕……妖魔殺しの金鼬
あの金鼬銀狐の片割れ、現当主に匹敵する伝説の持ち主よ」
そう打ち明けられた八朝の反応は薄い。
柚月があの『金鼬』であることはこれまで2度の繰り返しの世界で知っていた。
だが、埒外の部長にとっては話が違う。
彼女が伝説の一端である事と共に、もう一つの懸念事項が浮かび上がる。
「金鼬は妖魔を必ず殺す
もし貴方が先程用賀に言ってたことが本当なら……」
その瞬間に自分の身体も動いていた。
部長の制止は『脈弓』の独特な魔力高音の後に取り残された。
(何故だが知らないが
彼女にこれ以上の人殺しをさせてはいけない気がする!)
それは自分の贖罪の『都合』と言われても仕方がないかもしれない。
だが、断続的に伝える『頭痛』がこれまでの記憶遡行を徐々に塗り替えていく。
社殿でゆったりと過ごした謎の人物。
『彼女』は柚月と同じ金沙の長髪をしていた。
また、何かの連絡を受けた時も……彼女の控えめな気配がしていた。
あの時彼女は小さい声で何かを言っていた気がする。
『私が代われればいいのに……』
(まだ全部が分かったわけじゃない、それでも俺は……ッ!)
現在柚月はトドメの一撃として首を両断せんと杖を水平に振るう。
反応しきれない雨止は無防備に頸部を晒している。
この時になって悪魔に売り払った四肢を恨む。
(クソッ……! これではどちらかが心停止だ!
それでも俺に力が無いことは知っている……なのに!)
あらゆる手段を探す、小径・柱・三角形・その他の『異世界知識』
その全てが告げるのは『片方を犠牲にせよ』という残酷な神託。
だが、希望は元世界ではなく篠鶴市にあった。
心のままに、思いついた単語を叫ぶ。
『虹の光背、無辺の救済……されど汝は『来迎』に非ず!』
その瞬間に自身になだれ込む魔力の量が増大する。
まるで噴火するように有り余った魔力が立ちどころに霧へと変わっていく。
それらが全て八朝の樹状呪詛を伝える媒質となる。
『■■!』
八朝は頭から大雷神を抜き出し、刀印の先から迸らせる。
いつもならか細い雷速の一撃になる筈が、霧に帯電して二人の動きを止める。
「!?」
雨止も柚月も意識を失ってそのまま倒れ込む。
霧の噴出が止み、静寂が戻ってきたところに部長が駆け寄ってくる。
「貴方、一体何をしたの……?」
「……確証はない、だがこう言うしかないだろう」
「妖魔天象・来迎を使用した」
◆◇◆◇◆◇
使用者:雨止蓮司
誕生日:4月9日
固有名 :Jesumn
制御番号:Nom.112413
種別 :R【!】FATAL_ERROR【!】FATAL_ERR
STR:4 MGI:1 DEX:4
BRK:2 CON:5 LUK:1
依代 :人工衛星/蜃気楼
能力 :樹状神罰
後遺症 :不明
備考
・バックアップ前の種別はT.VENTO
・ステータス出力につきエラー発生中
Interest RAT
Chapter 78-d 激突 - The Collision
END
これにてCase78、妖魔天象の回を終了いたします
多くは語りませんがこれですべての条件が整いました
さて、いったいどうなるのでしょうか?
ヒントがあるとすれば、妖魔と言っておきながら
未だに登場していない人物がいるわけなんですね……
次回は『襲来』
引き続きお楽しみくださいませ




