Case 78-4
2021年6月29日 完成
丸前の妨害を七殺に任せて学園へと向かう。
そして、恐れている事態が現実のものとなっていく……
【2月18日(水)・夕方(17:53) 篠鶴学園高等部・親衛隊部室前】
「おい、これはどういう事なんだ?」
親衛隊の部室前で見たのは罰則で伸びている親衛隊員の数々。
その中には篠鶴機関職員も含まれており、事態が思った以上に進んでいる事に言葉を失う。
そして、用賀と部長が何やら口論していた。
「そこを通しなさい! 手遅れになる前に早くッ!」
「そうはいきません……我らの主をみすみす殺させるつもりはありません」
「殺すって……ただ月の館に送るだけじゃないの!?」
どうやら交渉は失敗し続けているらしい。
珍しく部長が声を上げている現場に偶然居合わせる事になった。
そして、すぐに八朝の存在に気付いた。
「あら、丁度いいところに! 早速だけど」
「如何なる交渉にも応じません、たとえそれが我々の恩人であっても」
だが二人は直ぐに八朝の様子がおかしいことに気付く。
常に逆境に立たされ、それでも失わない希望の光がやけに鈍い印象。
思わず黙り込んでしまう。
「ああ、まずは前提を確認しよう
今の状況なら雨止は隔離病棟行きが確定だ、違うか?」
「……成程、その言いぶりで納得致しました」
「何の……話をしているの?」
「隔離病棟は辰之中に作られている」
その瞬間に部長の顔まで凍り付いた。
どうやらこの話は篠鶴市でも秘匿事項であったらしい、道理で誰も知っていなかった訳だ。
「俺は彼が開放病棟で済むよう交渉する為に来た」
「分かりました、でしたら通します」
「彼女も連れて行っていいか?
俺一人では最初の『止める』に関しても絶望的だ」
「……構いませんよ、ですがもう既に無駄ですけど」
立て続けに3つの距離の違う轟音が大地に突き刺さる。
もしも雨止がこれを引き起こしているなら、この時点で人間の範囲を超えている。
「何だ? いくら強くてもこちらには」
「残念ですが我らの主には如何なる攻撃も届きません」
「……」
それは雨止の異能力には無い力である。
二重で能力を発現させる方法は3つ……電子魔術で作るか、闇属性電子魔術か、妖魔天象。
彼の異次元の強さは後ろで転がっている屍たちが雄弁に告げていた。
「分かってはいました
Ekaawhsに辛勝したあの時から、これ以上の責務に我々が耐えきれるのか……」
「そうか……ところで飼葉は何処に行った?」
「彼は三日前から『円卓』すら応じません」
唯一この状況を覆してくれる存在の不在に妙な違和感を覚えた。
だが、時は一刻も争う……死人が出る前に彼を止める必要があった。
そして扉の先には悪夢の光景が広がっていた。
机も椅子も部位単位で壊され、黒板を真っ二つにせんとくっきりとした罅が走る。
ありとあらゆるゴミが壁際で圧死していく中、中央に強いオーラを漂わせる人物がいた。
掌藤親衛隊長 雨止蓮司
「これは……ッ!」
「その声は八朝ではないか、久しいな!」
「久しい……?」
あの事件から一週間ぐらいしか経っていない。
強すぎる異能力で時間感覚が狂ったか、激務によって精神が削れてしまったか。
いずれにせよ尋常の表情をしていないのは確かである。
「それよりも朗報だ
我は遂に『魔王』を見つけ出したのだ!」
「魔王……?」
「そうだ『魔王』だ!
禍々しい気に恐ろしき力、まさに転生時に聞いた魔王そのものであろうよ!」
「汝のくれた魔術により
この世を破壊せんとする害悪を見つけられたのだ!」
八朝はここに来て自分の善を完全否定された。
もしも自分が雨止の異能力に手を加えなければこの事態に陥らなかった。
これは善行ではなく、目先の為に彼を利用しただけに過ぎないのだと……
「貴方正気なの!?
掌藤さんに助けられたなら分かっているけど、魔王なんて只の妄想よ!」
「であれば、その女が嘘を吐いただけの事よ」
まさか親衛隊員の口から掌藤を貶す言葉が出るとは思わなかった。
どうやら、本格的に正気を失っているらしい。
「俺達はこの町を破壊する雨止を止めに来た
今なら開放病棟で留められるよう俺達も努力する、だから……」
「それには及ばない、魔王討伐こそこの世界の最善
最善の為の犠牲とは、後の世の名誉になると相場が決まっていよう」
八朝が一歩引いて戦闘態勢を取る。
それを見た雨止が寂しそうな顔をした後、目を閉じる。
「そうか、汝等の正義も認めよう
だが、アレを見過ごすことは我が矜持が許さぬ」
そして八朝が罰則に耐えながら大雷神を呼び出す。
状態異常である頭部麻痺は気絶と同義、その一撃を雨止に差し向ける。
だが、大雷神は雨止に触れることなく窓にぶつかって四散する。
「ぐ……ッ!? 『■■』!」
初手が外れたので、その原因を探ろうと霧による象意炙り出しを行おうとする。
だが、霧は一向に現れてくれない。
「な……!?」
「ほほう、何たる僥倖か
我が正義に感服せし神々よ、我が技を照覧あれ」
その瞬間に三刀坂の加重調整とも異なる超重力が襲い掛かる。
部長、柚月は疎か、部屋中の全ての物体が床の上に縛り付けられ這いつくばる。
この感じは知っている。
『知恵の天球』より『慈愛の天球』に至る、厳かなる神の諸力。
謂わば神釘の一撃であった。
「これは汝の『異世界知識』を模した弾丸だ
安心するがいい、汝等が異能力者である以上、我が一撃を受けても死には至らない」
そして上空から大地を串刺しにせんとする殺意が走る。
狙いは言うまでもない、この場の全員だ。
「ではさらばだ
魔王無き理想郷でまた会おうぞ、友よ」
次でCase78が終了いたします




