Case 78-3
2021年6月28日 完成(24分遅刻)
七殺は他の妖魔を知っていなかった。
だが、唐砂は鳴下家の真実と共に妖魔の出所に言及する……
【2月18日(水)・夕方(17:45) 磯始地区・鳴下のアパート】
「完全封印?」
「ええ、完全に御座います
向こう100年は如何なる外力でも解けない結界でございます」
100年、そして封印という言葉に八朝は聞き覚えがあった。
振り向くと柚月が青い顔して俯いている……どうやら思い過ごしでは無いらしい。
「まさか2年前に解けたって言わないよな?」
「……」
唐砂は何も答えず。
何となくその行為はある意味で狸婆の現当主らしいものである。
要は不治の病の友を未来の技術で救う為という大義名分で封印の要石にしたのだろう。
「まあいい、その八卦切通ってのは何処にある?」
「……本家の山深くに
それよりも八朝様、まだ私は『湧いた』としか言っておりません」
唐砂が冷静に八朝の思い違いを指摘する。
だが、八朝にも言い分があった。
「いや、繋がっている
妖魔は恐らく篠鶴市と隣接した何処かと繋がっていた」
「そんな話は……」
「『退魔師』と言えば分かるか?
それか、間割と鍵宮って女の子に」
その瞬間に唐砂が目を見開いて悲しそうに眉を下げる。
何故かは知らないが、今の彼に問うてはいけない内容のような気がしていた。
「取り敢えず八卦切通から妖魔の住処と繋がっている
あの地下通路では墓標の目があるし、出来るなら……」
「前に申し上げましたでしょう、今の貴方は棟梁と会ってはならぬと」
八朝が唐砂にトドメを刺される形で言葉を失う。
確かに八雷神が全て存在していた時でも現当主に勝てたことは無い。
おまけに彼女が妖魔抹殺の志を捨ててないと唐砂が言及したばかりである。
「それでも俺は……!」
そこに地を揺るがす衝撃と轟音が襲い掛かる。
幸いにもこの部屋の誰にも怪我はなかったが、建物全体が振動に見舞われた。
「な……何が……!?」
『ふうちゃん! この反応、雨止くんのだよ!!』
「何だと!?」
親衛隊のリーダーである雨止からの突然の攻撃に面を食らう八朝。
偽天使の石を探っていたのがバレたかと思ったが
次なる遠い衝撃音でそれが偽であると悟る。
(狙いは俺じゃないのか……?)
三撃目、これで漸く放心していた七殺も目を覚まし
『巻き戻す前』の世界で見せた殺気を纏わせる。
「ふうちゃん、その雨止って人がどこにいるか知っている?」
エリスに目配せをすると、高等部部活棟の地図を表示する。
七殺とアイコンタクトをして、八朝もそこへ向かう事にした。
「唐砂さんは地下に隠れてて!」
「承知しました
御武運を、七殺様そして八朝様」
【2月18日(水)・夕方(17:58) 榑宮地区・辰之中】
異能力者は副症状の一つである『身体強化』を持つ。
これは読んで字のごとく己の身体能力や強度を上げる物で、DEXの値に依存する。
これが4を超えていれば特急の評定速度を上回ることが可能となり、最速の移動手段となる。
八朝は超えているが七殺は2しかない。
妥協案として七殺のスピードに合わせる形で最短距離で進む。
「……」
八朝の顔に緊張が走るのは、この場所に碌な思い出が無い事と一般的な評価からである。
即ち異能力者排斥主義の巣窟である榑宮と、化物が蔓延る辰之中。
考え得る限り最も危険なエリアなのである。
「大丈夫よ、何たって元十死の諸力の幹部が付いてますもの」
「前に来た時には篠鶴機関職員に排斥主義者を呼び寄せられたからな、嫌な話だ」
「へぇ……」
小さかったが『誰だろ、後で殺そっかな』と呟いたのを聞く。
その間にも現実世界での破壊活動の反映が水煙として伝わってくる。
『さっきの方向……抑川駅方向だよ!?』
「……ッ!」
それは太陽喫茶からほど近い場所である。
だが、マスターの安否を心配する暇は何処にもなかった……
『■■……ッ!』
罰則と同等の苦痛に耐え、後方から飛来する依代を灯杖で打ち落とす。
衝撃で依代が高速で自転しながら弧を描き、地面に深々と突き刺さる。
「これは村雨の……ッ!?」
続いて横合いからフラッシュの如き一閃が襲い掛かる。
間一髪で灯杖とかち合い、襲撃者と鍔迫り合いになる。
「よォ、会いたかったぞ……亡霊!!!」
「丸前……ッ!」
鍔迫り合いは八朝が打ち勝ち、丸前を力一杯吹き飛ばす。
そこに七殺からの追撃である『遠当ての突き』の三連撃が畳み掛けるが、全て村雨で切り伏せる。
着地した丸前は大層愉快そうに声を上げた。
「貴様は会う度に強くなるよなァ!
まさか七殺まで仲間にするとは恐れ入る!」
「最初からお前らの仲間になった覚えはない」
「知っていたさ、部長より何度も貴様には注意しろと聞いていた」
普段の彼なら戦いに愉悦を見出し、常にテンションを上げ続ける。
だが、段々と静かになる丸前から底知れぬ恐ろしさが漂い始める。
「お前、部長を殺したな?」
「……月の館の隔離病棟に送っただけだ」
「それは殺したと同義だと言わんのか?」
「刑期満了まで大人しくすれば出られる、それまで徳を積めばいい」
その一言で丸前が大爆笑するが、漂う殺気の量が更に濃くなる。
ふと振り返ると、七殺まで信じられないという顔でこちらを見ていた。
猛烈に嫌な予感がする、確かあそこには……
「大人しくだと?
きっかり8時間で努力が水泡に帰すというのにか!?」
「どういう事だ?」
「どういう事だ、だと?
こりゃ傑作だな! やはり貴様も異世界転生者であったようだな!!」
「隔離病棟は辰之中に作られているぞ?」
その一言に八朝の表情が凍り付く。
辰之中とは連続で8時間以上潜れば化物化して二度と人間には戻れなくなる。
そこでの収容は即ち死。
だけではない……同じく収容された三刀坂や鳴下も既に……
「……」
更なる喪失に心を折られる八朝。
滑り落ちそうになる灯杖だけで精一杯である。
「……不愉快であるな
戦意無き木偶に価値は無い、それが貴様もであったことが心底残念だ」
一瞬初速度変更の高音が鳴り響いたのち、彼の姿が消えてなくなる。
棒立ちの八朝を両断しようとして振り抜いた村雨が別の金属と衝突する。
「……七殺?」
「私も珍しく同意見、ホント心底残念だよ
私以外の子に心を折られて何もできなくなるふうちゃんなんて見たくなかった」
七殺が『水切村雨』の弱点である水気の無い金属で薙刀を覆い
村雨の透過を防ぎながら鍔迫り合いに打ち勝ち、返す刀で胴体を切り裂こうと身体を回転させる。
薙刀の一閃は躱されたが、これにより一瞬だけ猶予が生まれた。
「少なくとも、あの三刀坂は生きてるよ
こんなことで死ぬような人間じゃないって知ってる、だから!」
七殺の檄で、残り少ない気力を振り絞って戦線を離脱しようとする。
だが、そんな浅はかな企みを丸前が見逃す訳は無かった。
「逃げるな卑怯者!」
「五月蠅い! 俺にはまだやるべき事がある!!」
両者の主張の食い違いは、割って入った七殺によって雌雄が決した。
みすみす八朝を逃がしてしまった丸前が目の前の相手に向かって吠える。
「七殺ァ!!!」
「お前の相手は私、後輩としてたっぷり遊んでやるからかかって来なよ」
続きます




