Case 78-2
2021年6月27日 完成(65分遅刻)&修正
八朝達が向かったのは鳴下のアパート。
偽天使の石の話と『本題』のどちらにも対応できる人物に会う予定であった……
【2月18日(水)・放課後(17:39) 磯始地区・鳴下のアパート】
鳴下のアパートの前には唐砂の姿があった。
どうやら『彼女』と話すにあたっての監視役なのだろうが、自分がそこまで酷い人物という自覚は無かった。
「鳴下とでもないのに必要か?」
「御自分の胸に手を当ててお考え下さい
強いて言うのであれば、些か異性の友人が多過ぎではありませんか?」
図星過ぎて上手く言い返せなかった。
だが、彼が居たところで話の邪魔になるわけではないので大人しく従う事にした。
そして十分後、七殺が帰ってきた。
「元気にしてた?
ふーちゃん、それと『偽物』さんに『妖精』さん?」
一瞬空気が悪くなった気がした。
体調不良なのかと目を閉じたら既に不穏な気配がしない。
思ったよりも疲れているらしい。
「それにしても随分と哀れよね
肉体を失って、躱すことしかできなくなるなんて」
「……ふうちゃんの側がうらやましいの?」
柚月の小声の煽りに七殺が彼女を睨みつける。
これ以上脱線すれば話にならないので八朝が無理矢理話を切り出す。
「いきなりで済まんが、偽物の天使の石が出回っている事は?」
「勿論知ってたわ」
返答が過去完了形で猛烈に嫌な予感がする。
最も最悪な想定である『親衛隊よりも前に蔓延があった』にリーチが掛かる。
「……いつからだ?」
「そもそも『前の6月』でも起きてた事なんだけど
元々天使の石って2月の事件で使われてたアイテムを基にしているのよ」
「な……!?
辻守と関係が……」
「ううん、ガッツリある
ふうちゃんが悪魔を縛ったことで悪魔が何らかの策略を巡らせるようになったの」
「それが今出回っている天使の石なんだよ
それで石を回収したのは4月にポッと出の転生者……ふうちゃんが良く知っているあの人だよ」
それは状況からして鹿室の事なのだろう。
ここに来ても自分の選択の失敗が影響しているとは思ってもみなかった。
「そうか……まさか偽天使の石の方がオリジナルだとは」
「へぇ……アレにそんな名前を付けたんだ」
「……知っているのか?」
「ふうちゃんが教えてくれたんでしょ?」
七殺が思わず口を押さえてしまう。
恐らく、彼女もまた『別の世界での記憶』で話してしまったのだろう。
「まあ、俺なら言いかねんな」
「ふうん……ま、そういうことだから
多分墓標にはもう聞いたんだろうけど、結果は同じだったでしょ?」
「大まかにはな」
七殺が怪しく笑い続ける。
元が童顔の柚月であるせいで随分とアンバランスな印象を受ける。
「話は以上? だったら晩御飯も食べていかない?」
「いや、今からの話が本題だ」
調理の支度をしようとする七殺を引き留める。
その空気に感応したのか柚月も緊張の面持ちで、即座に七殺も何かを察した。
「何? 偽物を元に戻すことなの?
おあいにく様、私はふうちゃんに助かられた身だから寧ろ教えてもらいたい位で」
「いや、聞きたいのは妖魔についてだ」
その一言で唐砂すら固まってしまう。
ああ、この場には鳴下の人間と柚月……妖魔退治の関係者である。
彼等なら『妖魔』について一言も口にしない柚月よりも語ってくれるだろう。
「何が聞きたいの?」
「その前に俺の仮説を聞いてもらうが良いか?」
七殺が首を縦に振ったのでこれまでの事を話し始める。
異能力の不自由の事、偽天使の石の事、そして紫府大星と現当主の共通点。
即ち『天象』という名を口にした事。
「それで、それが一体……」
「俺の症状と偽天使の石はほぼ同一だ
そしてそれ関連の事件を解決した鹿室の異能力名は知っているか?」
「天象封石……つまり妖魔天象を封じられる石だ
それと同じ症状の俺は、これ以上言わなくても分かるだろう」
静かに七殺が首を縦に振る。
信じがたい話だが、この瞬間に八朝は己を真に人間でなくなったと悟った。
「八朝様、今の貴方は棟梁に会ってはなりません」
「そもそも会う予定はない
みすみす殺されるつもりは無いし、人間に戻りたいとも思っている」
それは自分が人間ではないという疎外感からだけでなく、巻き込まれた彼女の為である。
あの時、肺を砕かれた柚月に代替品を与える企みは成功した筈だ。
そうでなければ肉体は死後硬直により即座に冷えて固まり、弓なりに折れ曲がることになる。
だが、柚月の肉体は搬送される最後まで血色よく穏やかであった。
つまりは生きているのに何かが邪魔をして元に戻れなくなっている。
それは言うまでもない、状況証拠から八朝以外に有り得ない。
「俺が知っている妖魔は紫府大星と地下迷宮の主、そして飯綱
前の二人は言わずもがな、飯綱は一週間前から家に帰ってきていない」
「……他に、知っている妖魔はいるか?」
その問いに七殺が沈痛な面持ちになる。
ああ、彼女は……『金鼬』の柚月は確か妖魔を……
「残念だけど何処にもいない
多分私が見てきた世界に期待してたみたいだけど、そこにもいなかった」
「そう……か……」
「いえ、妖魔は全滅しておりません」
そこに唐砂が爆弾を投下する。
未だに100年前の悪意が健在しているという事実に七殺が震え上がる。
「ちょっとそれはどういう事なの!?」
「金鼬殿は篠鶴市の妖魔を鏖殺しました
ですが、篠鶴市は妖魔の本拠ではございません」
「……封印の一族」
「左様でございます八朝様
我々は代々妖魔の湧く『八卦切通』を見張る一族でございました」
「そして金鼬銀狐の時代
即ち我らの棟梁が『八卦切通』の完全封印に成功いたしました」
続きます




