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Case 77-4

2021年6月24日 完成(71分遅刻)



 立ち塞がるのは酒気の火炎を吐く地竜(ナイト)

 積層構造の装甲によって鳴下(なりとも)の『烏落とし』を無傷で防いでいく……




【2月17日(火)・深夜(1:36) 不明・辰之中】




「くっ……!」


 地竜(ナイト)が踊り場から酒気の火炎を吐き出す。

 接近を諦め潔くバックステップする鳴下(なりもと)の髪先が炙られる。


 火の性質上階段を駆け下りて全体を攻撃することは無いが

 通路に対して面攻撃と化した炎では後退以外の行動が許されず、これを侵せば肺を焼かれて則気絶。


 だが、火にならない余剰の『酒気』が鳴下(なりもと)を少しずつ侵していく。


(DEXが減ってる……!?)


 ステータス自体を減らす方法は『地属性異能力』か『状態異常』の2つのみ。

 今現在鳴下(なりした)をそのようにするのは『酩酊』の『状態異常』であった。


 DEXを減らすのと、一定確率で行動を失敗させる。

 授業で教わった時はその他の『行動阻害系』と区別して覚えるのに苦労したが、今は身に染みて分かる。


三刀坂(みとはか)はん……支援(ひえん)をぉ……」


 強靭な鳴下(なりもと)の精神力を以てしても『酩酊』による精神異常を防ぎきれない。

 先程の着地すら覚束ない様子で、戦闘開始時と明らかに動きにキレが無くなっている。


 確かにこれは非常に厄介な『行動阻害』の状態異常(バステ)であった。


「……鳴下(なりもと)さん、聞いて

 本当に、今のままで倒せるの?」

「倒へまふよぉ」

「そうじゃない! 3時に間に合うかって聞いてんの!」


 それは鳴下(なりもと)にも冷や水となる衝撃を以て認識された。

 だが、彼女は何も答えない……まるで何かに迷うかのように。


「……間に合わないっぽいね」

「でも一つだけ、姉の『遊魂八掌』がありまふ……わ……」

「じゃあそれ最初から使えば……!」

「あの火炎をどう切り抜けて拳を入れますの?

 それに私は……結局『竜眼』しかマトモに使えませんの……」


 『脈弓』の瞬間移動と矢の刺突による近接攻撃のキレ、トドメの『烏落とし』。

 三刀坂(みとさか)には信じがたい告白なのだが、ちゃんとした訳が存在していた。


 この『遊魂八掌』、現当主の『天象』と同じく姉しか使えない奥義であった。


 特にこちらは『龍脈を引き千切る程の速さ』が核になっており

 DEXが2しかなく、しかも『酩酊』によるDEXダウンを受ける彼女には手の届かない存在であった。


神経掌握(ギフト)でどうにかならないの?」

「『酩酊』を抑えるのに精一杯でふわ!」


 目の前に横たわる問題は二つ。


 あの地竜(ナイト)酒炎(ブレス)を避け

 更に鳴下(なりもと)に『遊魂八掌』を可能にするDEXバフを継続させるか。


 言うまでもない。


八朝(やとも)くんなら、どうやったんだろ?

 『異世界知識(オカルト)』に頼りきりのようで、そうじゃない彼みたいに……!)


 ここで何かに気付いた三刀坂(みとさか)が一つ確認する。


「ねえ、その『竜眼』がゴミって事は無いよね?」

「……貴方この期に及んで喧嘩を売っていますの?

 私の『竜眼』は『龍脈の撓み(たましい)』すら見通すぐらいには鍛えていますわ」

「良かった……

 ねえ、光速で吹っ飛ぶ覚悟はある?」


 三刀坂(みとさか)からの問いに今度は無言で首肯する。

 鳴下(なりもと)に与えられた行動は一つ、地竜(ナイト)酒炎(ブレス)をもう一度させる事。


 その為にもう一度微細な龍脈を踏みしめ

 まるで自身をパチンコの弾のように地竜(ナイト)との距離を詰める。


『Ogrmglakil!』


 その進路を阻むように三刀坂(みとさか)が過重領域の電子魔術(ギフト)を放つ。

 漆黒の帳が下り切るよりも早く地竜(ナイト)の目と鼻の先にまで詰め、そこからむせ返る火気と酒気を浴びる。


『Isfjt! Isfjt!』


 一発目は『減重狙撃』として鳴下(なりもと)からほぼ全ての質量を簒奪し

 もう一発の『加重狙撃』に今の自分と鳴下(なりもと)の質量を込めた弾丸を後方に放つ。


 その結果として後方の階段が抉り取られるように大穴を開け、二人の姿が半透明になる。

 あの時の身体が消え失せる恐怖を噛み殺し、当たり判定が無くなるよりも先に横へと地面を蹴る。


 そして電子魔術(グラム)を中心にして三刀坂(みとさか)鳴下(なりもと)の立ち位置が入れ替わる。


 即ち、惑星が太陽を中心に公転するように……

 光が空間の曲率から抜け出せないように真円を描いて三刀坂(みとさか)地竜(ナイト)と対峙する。


「来て! 城壁陣!」


 そして地竜(ナイト)が放つ酒炎(ブレス)を縦に展開した城壁陣(まほうじん)で受け止める。

 酒炎(ブレス)によって発生する筈だったダメージを魔力に変換し、簒奪する。


『Ogrmglakil!』


 今度は自分に過重の電子魔術(グラム)を掛け、失った質量分を補填する。

 だが、この回避劇だけが作戦の肝ではない。


 遥か後方、全ての体重を失った筈の鳴下(なりもと)が未だに大地を踏みしめる。


(成程ですわ、これは確かに私にしか出来ませんわ!)


 鳴下(なりもと)は頼りない自分の足先に龍脈を掴み、勢いよく撓ませる。

 即ち『脈弓』による瞬間移動……これを何度も繰り返す事で散逸する筈の身体を現世に繋ぎ止める。


 それに加えて三刀坂(みとさか)が目論んだ地属性異能力の『特色』が身体に宿る。

 即ち『強化・封印』の地属性は『状態異常』と近しい存在で、文字通りそれを軸にして戦う。


 であれば八朝(やとも)のような偽物の『状態異常』に非ず。

 三刀坂(みとさか)能力(ギフト)である『過重』、即ち『鈍足』の状態異常を引き起こす力の逆。




 謂わば『逆鈍足』によるDEXの強制引き上げ。




(この速さなら……足先の龍脈が引き千切れるこの軽さなら……!)


 三刀坂(みとさか)なら成す術なく散逸していく質量ゼロの境地を

 鳴下(なりもと)は『遊魂八掌』の要件を満たす速さを維持したまま縦横無尽で駆けまわる。


 そして地竜(ナイト)の先の踊り場に着地し

 『烏落とし』を現当主から盗んでみせたように、姉の雄姿を重ねながら……




『無号せよ』




 地竜(ナイト)に一撃拳を入れて吹き飛ばす。


 『遊魂八掌』……姉曰く『魂を弾け飛ばせる殺人の一撃』。

 そして篠鶴市での『魂』が『龍脈の撓み』であるなら、それが弾け飛ぶとは龍脈の寸断。


 地竜(ナイト)の身体は、内側から迸る竜の息に耐え切れず、着地することなく爆散した。


『Ogrmglakil』


 そして有り余る魔力で過重の電子魔術(グラム)を掛けてもらい鳴下(なりもと)も元通りになる。

 失敗した場合の大穴から寒気のする風の唸り声が響く。


「どうして、私が失敗しないとでも思いましたの?」

「だって『烏落とし』って鳴下(なりもと)さんのおばあちゃんの技だからね」


 その一言で鳴下(なりもと)は目の前の相手に心の底から見透かされている気がして身震いする。

 彼女が『前の6月』で部長を任される理由、その一端を身を以て思い知った。




「全く貴方って人は……」




次でCase77が終了致します

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