Case 77-1:異世界に漂流する能力
2021年6月21日 完成
第二異能部に埴堂の異変について任せる。
一方そのころ、三刀坂達は『ある手段』で隔離病棟の拘束から逃れていた……
【2月18日(火)・深夜(0:00) 月の館隔離病棟・G区画廊下】
月の館・隔離病棟。
ここは治療困難な異能力者、或いは犯罪異能力者を収容する監獄。
ドア一つ一つに異能力封印手錠と同じ機構が仕掛けられ
通路の角ごとに『渡れずの横断歩道』と同じ浮遊型端末の監視の目が光る。
本来ならば人影を見るなり警報を鳴らす浮遊端末が
この時は何故か二人の人影に何の反応も示さなかった。
(……相変わらずどういう原理なのよ)
(貴方もおばあさまのご指導を受けてるんですから、出来て当然の筈です)
(はいはい、テキトーで悪うござんしたね)
互いの端末による筆談で会話するのは三刀坂と鳴下。
彼女たちは上記の理由ではなく、ここ最近篠鶴市で頻発する新型の神隠し症候群の研究の為である。
新型と振り分けられた理由として、改変された思い出や常識が『未来』という逆方向の病態を為しているためである。
そして、その全員が半年後の6月に十死の諸力によるテロ攻撃が行われると口を揃えて言うのである。
機関長を含む治療部門はその現象に好奇心を、治安部門は密約の『組織的漏洩』として警戒心を向けた。
そして学園を含めた三者の落としどころが『彼女達を検体として譲渡する』という悍ましいものであった。
事実、彼女たちの殺処分まで24時間を切っている。
(別に良いですわよ
貴方が居なければあのドアを突破できませんでしたから)
(どうってことないよ、同じようなモノ持ってんだし)
三刀坂が封印手錠を人差し指に掛けてくるくると回す。
それは陸上部所属の彼女にとって大会出場権に等しいアイテムなのだが、様子が少し違っている。
この手錠には能力の発生を封じる『生贄』が取り外されている。
よってこの封印手錠によって異能力を封じることはできないのである。
(生贄に加重狙撃を当てて、機構の強度を超える質量で自然脱落させる……)
(何か問題でもあるの?)
(いえ、貴方も十分八朝さんに毒されましたね)
皮肉を言ったつもりが三刀坂は喜色満面に威張ってみせる。
すると彼女たちの端末にあるメッセージが受信された。
『今日の報告
ふうちゃんが第二異能部に『進化』を任せたよ、明後日に七殺ちゃんに会いにいくよ!』
それはエリスからの定時連絡であった。
これによって三刀坂達は外の状況を把握し続け、この地獄での地道な作業に全力で取り組めている。
だが、二人の顔が余り晴れていないことに気付く人間はいなかった。
(……ねえ、やっぱりですけど)
(私は最後まで信じたいな
でも、こんな閉鎖空間にも飛ばせるエリスちゃんの『裏』が怖い)
まず、この空間には犯罪異能力者が収容されている性質上、二重の隔離処置が施されている。
そのうち、端末のローカル通信強制に割り込んで飛んでくる『定時連絡』に二人が寒気を感じる。
それが単に彼女が天才級の魔術師なら納得できるところはあった。
だが、彼女は『前の6月』にて篠鶴機関のDBに侵入してみせた……これがその延長線だとすればある可能性が浮上する。
エリスが十死の諸力以外の篠鶴機関敵対勢力の斥候であるという最悪の想定が脳裏を過る。
(それを確かめる為にここに来たんだから、ね)
(そう……ですわね)
二人が当初の目的を確認し合う。
恐らく敵対勢力であれば治安部門でマークされる筈なので、その情報の確認。
即ち、篠鶴機関本部の制御端末まで辿り着き、所定の情報の検索を行う。
その後に、月の館から脱出して八朝に合流、後にアパートに籠城。
(それにしても、どこに本部に繋がる連絡通路があるのやらですわ)
隔離病棟の通路は無機質で狭く、マッピングに適さない程複雑に入り組んでいる。
これは篠鶴地下遺跡群の一部をそのまま利用している事によるものなのだが、脱獄難易度を上げる意味で相応しい作りである。
篠鶴機関の冷酷な合理性に打ちのめされようとする鳴下に三刀坂が肩を叩く。
(大丈夫、伊達に元実験体だった私の記憶に任せてちょうだい
この先の治安部門本部の縁を進み続ければ中枢に辿り着く筈だから)
(それはどのくらいの時間で、ですの?)
(……前はエレベーターで最短距離だったから、多分1日ぐらい?)
三刀坂の衝撃発言に鳴下が頭を抱える。
彼女に『脈弓』を覚えさせられなかった自分の未熟さに恨む暇も、少なすぎる制限時間の前では無力であった。
続きます




