Case 76-4
2021年6月19日 完成(50分遅刻)&誤字修正
演習途中に倒れた八朝。
皆に心配されながら保健室へと運ばれていった……
【2月16日(月)・朝(9:30) 篠鶴学園高等部・保健室】
呆然と保健室の天井を見続ける。
それは突然の出来事に驚いたというよりかは、想定以上のダメージに呆れ果てたかのような。
「エリス……前はこうならなかったよな?」
『ううん、そうでもないよ
そもそもアレが出来たのもこれのお陰っていうか……』
エリスが歯切れの悪い返し方をする。
彼女の言う『アレ』とは睡眠の術式に関する事であるが、確かに手順は多かった。
まずは日ごとに変化する八朝の魔力属性の偏りの調査。
そして、それらを中和する為に『大きさ』を調整する作業、即ち小径同士の増幅・抑制。
やることは多かったが、翌日にスッキリと目覚めれた時は色んな意味で達成感があった。
「何だ、あの術式以外に何か関係があったのか?」
『うん、じゃあこれ見て欲しいんだけど……』
エリスが見せてくれたのは八朝の今朝のステータス画面である。
フォントの乱れ等は見られなかったが、CON以外の数値の横に『※』表示があった。
「何だこの数値は?」
『えっとね、それ備考に書いているんだけど……』
「……10……倍……?」
『うん、ふうちゃんのステータス……
実際の出力がCON以外で10倍になってるの』
八朝は今一ピンと来ずに首を傾げる。
そもそもステータスの数値は数量的変化ではなくランク的なものなのである。
大きいからと言って定量的に予想し得るものではない。
「10倍ってのは具体的には?」
『まず規格外のステータス……5以上の数値は
1増える毎に5のステータスを基準に1倍ずつ増えていくの、だから……』
『今のふうちゃんのステータスは表示の5~35倍の出力になってるの
もしSTRとMGIがこの影響を受けたら、間違いなくふうちゃんでもドカンしてた』
さらりと恐ろしい事を口にするエリス。
だが、何となく自分が睡眠に至れた理由を察することが出来た。
要は能力の暴走の余波で気絶していたのであろう。
「起きてるか?
まあ、聞かんでも分かるけど」
どうやら話は埴堂にも聞かれていたらしい。
八朝は上体を起こして彼の元へと歩み寄る。
「それで転生者に何の用だ?」
「拗ねんなよ
確かに転生者はクズだが、お前は違うって言ったぞ」
図星ではあるが、どうしようもないすれ違いを感じる。
まるで大量殺人鬼を友達と見ているかのような気の軽さを感じる。
「まあいい、お前は俺に勝った
勝者は全取り……まあでも1つぐらいなら聞いてやらなくも無いぞ?」
不敵に笑う埴堂。
彼に対する疑惑が一つあるのだが、それよりも聞きたい事があった。
「では三刀坂の安否については?」
「ああ、いいぜ……それじゃあ……?」
相手が答える前に八朝が制止する。
多分、内容を答えるまでもない……YesかNoで済むように八朝が二の口を告げる。
「俺の勝手な予想だが、彼女が『検査』の代償として連れていかれたんだな?」
「……お前、意外に鋭いんだな
まあ正確には鳴下って2年の女子も連れていかれたんだがな」
どうやら八朝が親衛隊で何かしている間に『抜き打ち検査』が実施される筈だった。
だが、事前に三刀坂達が自らを実験体として差し出す事で検査を不実施にした。
それは、講和時の機関長が素直だった理由も頷ける。
あの日には既に全ての『取引』が終了していた……講和は単なる消化試合に過ぎなかった事を。
「何だよ、そんな顔してよ
お前、結構色んな奴から一目置かれてんだぞ、しっかりしろよ」
「……三刀坂達も必ず取り返す」
思えば八朝の人生にはいつも誰かしらの『犠牲』が生じている。
それに恥じないよう生きたつもりが、いざ実際に身内が犠牲の憂き目に遭うと心ここにあらず。
余りにも惨めで、中途半端。
「だから、そんな顔すんじゃねえよ
俺は認めなくても他が居るんだ、誇れよ」
それは冷たく突き放すようで彼なりの激励の言葉でもあった。
実際にそう突き放す事で、八朝の中の闘争心に火を付けてネガティブな考えを吹き飛ばすのが狙いなのだが。
「言われなくてもそうする」
「だったら顔に出すよう努力しろよ
お前、冷静な癖に表情には出てんだよ、自覚しろ」
狙い通り八朝の意識が本題へと戻り始める。
三刀坂達の安否は心配だが、それよりも確認したい事が何個もある。
それとは別に、埴堂との会話を楽しいと思っている……口には出したくは無いが。
「もう一つ聞いていいか?」
「駄目だ、一つだけって言っただろ」
「まあいい、反応しなくてもいい
だがお前……何かのアイテムで急激に強くなりやがったな?」
埴堂が途端に黙り込む。
何か後ろ暗い事でもあるのか、そんな感じの表情であった。
「強くなることは悪い事ではない
だがさっきの話を聞いていたなら『急激』ってのは、いつか代償を支払う事になる」
「気をつけてくれよ」
そう言って八朝が保健室の先生に書置きを残して去る。
残された埴堂は一人、拳を握りしめて呟く。
「……結局強い奴はそう言いやがるんだよ」
次でCase76が終了致します




