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Case 75-5-2

2021年6月15日 完成



 突如、記憶遡行とも違う『走馬灯』に巻き込まれる

 そう……『記憶遡行』なのだと気付いた




【TIMESTAMP_ERROR ARRAYINDEX_OUTOFBOUNDS】




(これは……まさかミチザネ(アルキオネⅢ)を召喚しようとしているのか!?)


 詠唱(スペル)の内容からしてそれ以外に考える余地はない。

 だが、徐々に見えてきた背景、小物、微かな人の声、風の感覚……それらが特大の矛盾を突き付けてくる。


 そう、ここは鷹狗ヶ島の犬飼神社本殿なのである。

 そして詠唱しているのは間違いなく自分なのである。


 そこから導き出される答えは一つ。


(……島民を皆殺しにしようとしている瞬間なのか?

 いや、それよりも元世界にミチザネ(アルキオネⅢ)なる怪物は……ッ!)


 八朝(やとも)達のいた世界には異能力や化物(ナイト)が存在する余地が無い。

 そう思っていた筈なのだが、唐突に何かに気付いた。


 確かに自分は現代の、科学技術が進んだ日本の鷹狗ヶ島出身で間違いない。


 だが、それがこの篠鶴市(いせかい)と地続きではないという証拠にならない。

 例えばこの鷹狗ヶ島が世間から隔絶されていたり、篠鶴市が隔絶されている可能性。


(……『渡れずの横断歩道(フォレストラット)』)


 だがここで目の前の悲劇に意識が移る。

 自分の元世界の正体よりも、差し迫った害悪が今為されようとしている。


(だが、どうやって止めれば良いんだ?

 俺はこの術式の知識も記憶も無い、ましてや今得られた情報は……)


 清涼とは帝の寝所である清涼殿、厳霊(いかづち)とはそのまんま雷を指す。

 その二つを裏付けるように『自在』という言葉が挟まっている。


 即ち、天満大自在天と名づけられた天神・菅原道真。

 それを呼び寄せる術式、だが具体的にどうやって呼び寄せるのか皆目見当が……


「『いざなみ教』……名前の通りなら伊邪那美大神の事だが

 天満大自在天との接点といえば、間違いなく冥界下りの時の悪神……!」


 女神に纏わりつく八の雷神、心臓に巣食う火の雷はやがて天神として習合された。


 八雷神(やついかづちのかみ)……それは八朝(やとも)にとっては■■(pit)依代(アーム)であり

 字山(あざやま)から恩返しと共に返却された謎の神性。


 依代(アーム)である以上、八朝(やとも)の低いステータスの影響で

 その神霊の全てを再現することは叶わない。


 それは黒雷が発する熱や大きさによっても、この場の『龍』の如き雷と比べ物にならない。


「あれ……

 もしかして、これを使えば……」


 柚月(ゆづき)を助けられるのかもしれない。

 そして過去の自分は、こうして俯瞰している今の自分に一切気付いていない。


 今ならできるのかもしれない。


『……』

「!? 誰だ!?」


 魔力言語を発するように喉を鳴らすと、魔力の発する独特な音が響く。

 だが、そのせいで過去の自分が異変に気付いた。


 全てを悟られる前に、奪いつくすしかない。


■■(Netzak)より袂を分かち、(Hod)へと帰るその名は……』

『……ッ!

 千頭の人草、一夜にして……』


 呪詛の一部を改変し、日本最古の『縁切り』による遮断を発動させる。

 だが、呪詛の完成はこちらの方が早かった。


■■(pit)!』


 まず『大雷神』、その掌握に成功する。

 そして過去の自分が呼び寄せた『本物』の神霊は、八朝(やとも)の体調に激烈な変化を齎す。


(……ッ! 熱い……ッ!)


 内側から焼き爛れさせられる苦痛に耐えながら『火雷神』『黒雷神』の奪取にも成功。

 だが、ここで過去の自分が発動した『縁切り』の呪詛が完遂する。


「……ッ! あと一個……ッ!

 寄越しやがれこの人殺しが!!」


 その瞬間の表情は、緞帳のように分かつ暗闇の先で残像のように焼き付いた。

 まるで今までの狂気から目が覚めたかのように絶望する、そんな自分の顔。


(酷いブーメランだよな

 それに俺は止めきれなかった、だから……)


 この瞬間にもう一つの罪までも犯してしまった。

 今度は自覚していながら救わなかった罪、即ち『見殺し』の業である。


(せめて、一人ぐらいは……ッ!)


 あらん限りの魔力の叫び(スペル)を上げる。

 イメージするのは柚月(ゆづき)の刃にして命そのものである肺の杖(アーム)


 だが、取り込んだ神はそんな八朝(やとも)の我儘に怒り狂うように体内を焼き尽くしていく。


『……ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!』


 だが自分は頑丈なのだと言い聞かせる。

 3ヶ月の不眠に耐え、幾重の罰則(ペイン)に膝を付かず、だったらこの程度の苦しみなぞ……!


■■(Ifebeim)!!』




 ……。


 …………。


 ………………。




『ふうちゃん!!』


 気がつくとエリスの叫び声に叩き起こされていた。

 会議室の窓から見える景色により、あの瞬間から然程時間が経っていない事に気付く。


「!?

 それよりも柚月(ゆづき)……は……」


 聞くまでもなく、視覚と触覚で冷たくなっている彼女の遺体の存在に気付く。

 ああ、これが『見殺し』の報いなのだと固く目を閉じるしかない。


 ふと、頭を撫でる感覚に気付き振り払う。


「部長、止してくれ、俺は……」

「え、いや私は何もしていないわ、それより……」


 部長の返答が微妙に歯切れが悪い。

 どうしたものかと涙目のまま目をもう一度開く。


 そこには霧に巻かれた少女の姿があった。


「貴方、今度は一体何をしたの?

 言うまでもないけど、その化物(ナイト)は間違いなく柚月(ゆづき)ちゃんよ」


 そして半透明となった柚月(ゆづき)が照れくさそうに笑う。

 禁戸(いみど)は疎か左壁(ヘリア)ですら絶句する状況の中で、俺は彼女の無事をこの眼で見た。




◆◇◆◇◆◇




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Interest RAT

  Chapter 75-d   来迎 - Mons Ruptes




END

これにてCase75、『悪因悪果』の回を終了いたします


今更なのですが柚月はDルートにおけるメインヒロインポジであります

まぁ、この場で改めて言ってしまうところに語るに落ちたという状況なのですが……


それにしても、この状況はある意味僥倖かもしれません


篠鶴市民に職員が柚月を射殺した状況を知られる訳ですので

もはや篠鶴機関に逃げ場がありません


さあ、この渾沌の中一体どう収めるのでしょうか?


次回は『帰宅』

引き続きお楽しみくださいませ

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