Case 75-5-1
2021年6月15日 完成
Case75-4の最後の選択肢にて①を選んだ方はこちらからお読みください
一瞬でこれが過去の記憶なのだと悟る。
抗えぬ記憶遡行を前に、八朝は膝をつく。
【TIMESTAMP_ERROR 鷹狗ヶ島・犬飼神社本殿】
(そうか……これは記憶遡行なんだな)
八朝は全身から力が抜け、崩れ落ちるように座り込む。
やがて呪詛が完成して過去の自分がそのまま血を吐いて絶命する。
それは、自分が今まで求めてやまない『死の瞬間の記憶』そのものであった。
(これがあれば……エリスだけでも……)
だが、いつの間にか自分の意識が過去の自分の身体へと移ってしまう。
喉奥の鉄錆の混じった灼熱感に耐えながら、ゆるりと起き上がる。
「……ッ! ……!」
声が出せない、ここまで自分の身体が壊れているのは初めてだった。
体感する死の気配に無意識に震えながら、周囲の状況を観察する。
(雷が……やけに五月蠅い……)
それは先程過去の自分が放った詠唱に関係ある物であった。
即ちミチザネの元ネタとなった平安の大怨霊、右大臣菅原道真。
(いや待て!
おかしい……俺の元世界に化物はいない筈だ!?)
唐突に沸き上がった疑問が体中を焼き尽くす。
余計な考えすらも致命的になる今の体調に震えが止まらない。
それでも、今の自分は周囲の状況が知りたくて思考を続ける。
(この術式は……魔術というよりも陰陽道
いや、式占に使う特別な木材が使われてる……)
即ち天盤に楓、地盤に棗。
それらが果たして鷹狗ヶ島の狭い山林に自生しているかの疑問は隅に置く。
だが、これでは霊を呼び寄せるには足りない。
(いや……そうか、今は無い降霊占術である『雷公式』なら!)
それは式占の代表たる三式の番外として名高いものである。
しかし、現代において失伝しており、神を呼び寄せる手段なのではという学説のみの存在である。
(……外の様子が知りたい)
そんな好奇心に負け、扉に打ち付けられた板を一個ずつ剥がしていく。
そして最後の一個と共に、支えを失った扉が独りでに開いた。
「……ッ!?」
最初に感じたのは猛烈な死臭と焦げた悪臭である。
続いて、先程まで遠雷の如くささやかであった雷鳴が爆弾の如き轟音に豹変する。
「な……何が……」
混乱する頭の中、血にまみれた遺体をものともせずふらふらと賽銭箱へと目指す。
引き戸を開いた先には、青い空の代わりに星月夜よりも暗い黒雲と荒れ狂う雷龍の如き迸り。
あと一歩で『雷の雨』に焼かれる、そんな地獄。
『た、たすげ……』
また一人幸運な誰かが雷に射貫かれて煙を吐き出す。
まるで魂のように漂うそれから、猛烈な苦痛を感じてしまう。
気がつくと直前の食事を吐き出してしまい、途中の細胞不全により喉が詰まってしまう。
「か……はっ……!」
今度は火傷ではなく窒息による苦痛が襲い掛かる。
まるで、現実世界の『彼女』を見捨てた罰のように因縁が返ってくる。
(い……息が……!
誰か、助け……ッ!!)
この『雷の雨』からして八朝の寿命は幾許も無かった。
その死期がほんの少し早まっただけである。
焼き付く思考が段々と鈍っていき、筋肉すら悲鳴を上げるのを止め始める。
それは全力疾走をした後の喉の痛みに近い。
違いがあるとすれば、身体を休ませる程に苦痛が増していく所である。
(だが、ここまで情報が得られれば……!)
後に、別の選択をした自分に全てを託す。
これが自分の死に様であり、そして創造神の課した『使命』の答え。
(だが本当は……)
本音を心の中で呟くよりも先に、唐突に意識が途切れる。
この瞬間に八朝は異物性の呼吸不全で死亡した。
そんな彼の遺体を、しゃがみ込むように眺める影が一つ。
『あーあ、やっちゃったね
本当はキミに恨みがあるあの人々に殴り殺させる予定だったけど……』
『もっと長く、幸せに生きたかっただって?
キミはとんでもなく厚顔無恥で残虐非道な輩だよ!』
『この大量殺人鬼が』
創造神は急降下するトーンで八朝の死に様に唾を吐く。
それでも、ここに来た理由は一つ……まだ彼の『身体』に用があるからである。
『とはいっても、もう使い物にならないかもね
それでも僕の目的の為に、そしてキミの最後の願いの為にそうしよう』
そして創造神が複雑な魔法陣の中に遺体を収容する。
その中で遺体が複雑に分解と生成を繰り返し、どんどんと修復されていく。
『あ、一つ言い忘れてたけど
それ死の瞬間の記憶じゃないから、無駄骨だねぇ』
創造神が誰もいない島の中で笑う。
そして八朝は再び創造神の力で時が戻されたのだった。
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Interest RAT
Chapter 00e-0 Error
DEADEND 15 転生失敗 - Gespenst
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