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Case 75-2

2021年6月12日 完成


 (表向き)全権委任としてやってきた八朝(やとも)と出迎えたのは左壁(ヘリア)であった。

 水面下で『彼等』と睨み合いながらこの戦いの『後始末』が始まった……




【2月16日(日)・昼(14:09) 篠鶴駅4F・北会議室前】




「まずは見解を統一させよう

 この場にいる全員はこれ以降戦いを臨まない、それで間違いないよね?」


 左壁(ヘリア)の先手にこの場の全員が静かに首肯する。


 親衛隊としても兵站の関係でこれ以上は戦えず

 かといって異能部・篠鶴機関側も『違法行為』を隠しながらの戦闘続行の夢は潰えた。


 そして、同時に第二異能部にも釘を刺した。

 部長は苦虫を噛みつぶしたかのような表情を堪えて静かに目を閉じる。


(……安心しろ

 この場で『誰一人』として容赦はしない)


 八朝(やとも)は武器を持たない敵達を見遣る。

 少なくとも『闇属性』をこれ以上利用させるわけにはいかない。


 ここで第二の三刀坂(みとさか)が生まれるのを食い止めなければならない。


「良かった、正直僕たちの方もギリギリでね」

「……面目ない」


 2回目でも禁戸(かれ)の憔悴声を聞くのは驚く。

 それは顔見知りの部長であれば更なる衝撃で、これに関しては表情を隠す気もない。


「あら、天下の異能部様にしては素直じゃないの?」


 いつもなら傲岸不遜に返してくるのが、全く無い。

 あるはずの相槌を見失い、まるで迷子のように拍子抜けする部長。


「止めたまえよ、彼もいたく反省しているらしいからね」


 それはまるで八朝(やとも)に言い聞かせるような言い面である。

 だから、この時点で釘を刺す必要があった。


「反省しているからと言って

 十死の諸力フォーティーンフォーセズに関与していたことを不問にするわけにはいかない」


 左壁(ヘリア)は『ほう?』と一言だけ呻く。

 だがそれ以外は期待と憎悪で真っ二つに分かれていた。




十死の諸力フォーティーンフォーセズ・第一席、習坎のブラキウム

 並びに『篠鶴機関』左壁(ヘリア)菜端幸広(なばたゆきひろ)をここで告訴する」




 今度は誰も反応せず静かに聞き届けられた。

 用意した資料を渡すと、全員が静かに内容を改めている。


(……ねぇ、こんなに強気でいいの?

 アイツが『第一席』って証拠も無いのに)

(ああ、これは転生者の『俺達』しか知り得ない情報だ)


 だが『答え』を知っていることは間違いなくアドバンテージである。

 ああ、それは何も『第一席』に関する事とは限らない。


「中立者もいないのに告訴とか

 君たちの方が講和したくないように思えるんだが?」

「当然だ

 お前たちが非を認めるまで殴り続けることを『講和』だと言ったつもりなんだがな」


 その一言に騒然となる。

 ある者は密室なのをいいことに端末(RAT)を構え、左壁(ヘリア)の方は失望と共に目を閉じた。


「話にならないね、ではこの辺で……」

「へ……左壁(ヘリア)様!

 今すぐにこれを確認してください!」

「何だい、僕も忙しいん……!?」


 端末(RAT)を構えたことで露呈したエリスの策略に二人して騒然となる。

 そして、他の人の端末(RAT)にも同じ『不正アクセス跡』が音声と共に表示されていた。




 『異能部・篠鶴機関の密約

  こうして十死の諸力フォーティーンフォーセズは生まれた』




「何故僕たちの話が……!」

「講和といえば周知する為に一般公開するものだろう

 それともアレか? 他の人に聞かれてはマズイ事を取り決めさせようとしてたのか?」

「……ッ!」


 左壁(ヘリア)が先程の失言に苦虫を噛みつぶした顔となる。

 『彼も反省しているのだから』、たったこの一言で両者の繋がりが明かとなってしまったからである。


 そもそもこの会議をブロードキャストする技術の出所は、と考えが巡ってようやく気付く。

 それは『前の6月』で起きたDBの群発バグ、それを魔術師(クラフター)であるエリスが引き起こしていたとしたら……


 ここに来て神隠し症候群(前の6月)を『妄想』と断じていた自分の無策に顔が歪む。


「……大きく出たな?

 だが君たちには証拠が無いぞ?」


「証拠もなしに僕たちを悪者扱いするのかね?」


 ここで八朝(てき)の弱点を突けたとしたり顔になる左壁(ヘリア)

 だが、八朝(やとも)は静かに目を閉じた。




「それを論ずる必要はない

 ついでに、この講和も俺達からは進める事は無い」




 この八朝(やとも)からの敗北宣言にようやく落ち着きを取り戻す左壁(ヘリア)

 だが、そんな彼に一通の連絡が入る。


「あ、はいはいもしもし……ッ!」

「その顔……機関長からだろ?」


 何故という左壁(ヘリア)に、答えを教えてやる義理はない。


 答えは非常に単純な『妄想の群れ』たる『前の6月』を覚えている人々。

 一定数いる彼らがこの『講和』を聞き、あの時の地獄が真実であると悟った瞬間に起こす行動は一つ。


 抗議の電話である。


(ふうちゃん、予想通り電話回線がパンクしたよ!)

(ああ、エリス……本当に助かった、ありがとう)


 エリスが照れくさそうに笑っている。

 彼らの行動は、近くの親しい人間すら巻き込み、やがて『妄想』は『真実』に取って代わられる。


 これで『闇属性』の辻守(つじもり)を犠牲にする必要はない。

 そして、これこそが親衛隊達が最大譲歩した展開(ライン)そのものである。


八朝風太(やともふうた)だな?

 この件について、誠に申し訳ないが君からの話が聞きたい』


 予想通り左壁(つうわ)からスピーカーに取って代わられる。

 ここで彼等を告訴すれば確定で『月の館送り』にできるだろう。


 だが、これは『講和』なのである。


「と言われても、正直左壁(ヘリア)の指摘は正しい

 俺からはこれ以上突き詰めて話すことはできない」




『そうは言うが

 事は既にそれでは済まされない状況となっている』





続きます

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