Case 07-3
2019年9月17日 投稿
2020年5月21日 第一次修正完了
2020年7月16日 第二次修正完了
2021年1月26日 ノベルアップ+版と同期
いつも通りの帰り道。
だが、この日は『彼ら』が待ち受けていた……
【4月24日18時00分 抑川地区・裏路地】
歩く毎に闇が深くなっていくこの裏路地が抑川地区の治安悪化の主原因である。
高い煉瓦が太陽光も街灯も塞ぎ、壁材と同じ物が使われている道路のせいで最早迷宮と化している。
「……アンタまで一緒に来ることは無いだろ?」
「駄目!
八朝君……何度も言うけど彼には気を付けなさいよ」
「……市新野が一体何をしたってんだよ」
三刀坂が口を酸っぱくして八朝に注意する。
こうなった原因も、丁度保健室送りとなった市新野との『新入り』の情報共有を彼女に見られてしまった事にある。
『八朝君! こっち!』
『ちょ……一体何だってんだよおい!!』
『僕は予定があって協力できませんが、情報ならお任せくださいね』
『ああ分かっ……』
『口動かさないで足動かす!!』
未だに引っ張られた耳が赤く腫れている。
恨みがましい視線を投げかけても、どこ吹く風といった感じに三刀坂には効いていない。
やがて目的地の『昨日の変死体発見現場』に辿り着く。
魔力による捜査は、科学捜査と異なり本人の資質だけでほぼ全てが可能であり、こうして1日も掛からず完了する。
停止線は疎か人の気配すらないマンションの通路をつかつか歩く。
「大体、今回は人を殺す可能性もあるんだぞ?」
「……大丈夫」
確かに三刀坂からは覚悟の決まった声色の返事があった。
逆に、その恐ろしいほどの切り替えに背筋が凍えそうになる。
彼女に一体何が……
『エリス、分析魔術を……おい、どうした?』
エリスから何も反応が無い。
画面を叩いても沈黙を守っている。
「何か用事とかあるんじゃない?」
「まぁ、そういう事もあるだろうな」
大人しくエリスが戻って来るまで現場で待つことにする。
それが結果的に災厄を引き寄せる事になった。
『J zv sfekvexh ngeeinc ajpa.』
謎の魔力言語が聞こえて、八朝は周囲を警戒する。
いや、辰之中も起動していないこの状態で異能力を使う馬鹿はいないだろう。
その期待が裏切られる。
「うわっ! なにこれ!?」
「……ッ!」
今まで座っていた床がめくれ上がり、2,3mの人型の形をとるようになる。
だがすぐに崩れていく。
そしてまた八朝の足元が隆起する。
「これ……もしかして俺を捕まえようと……!?」
普通このような異能力犯罪の被害を受けた時、取るべき行動は2つある。
1つ目はお近くの非能力者に助けを求める事。
だが、こんな魔窟に人助けをしてくれる奴がいるなんて考えない方が良い。
2つ目は辰之中に逃げる事。
だが、八朝は触手茸にタゲられており、下手に展開すると更なるリスクを負う羽目となる。
応戦は以ての外。
だが、背に腹を代える事は出来ない。
『Libzd!』
そんな中三刀坂が床を対象に重量増加を発動させる。
現在変化している土自体を重くして攻撃を鈍らせようとする彼女の企みは功を奏す。
「助かった!」
八朝達は現場から速やかに逃げ、三刀坂の能力の範囲を調整しながらエレベータを目指す。
丁度八朝達の階にやって来たエレベーターを捕まえて乗り込む。
だが、警告音が鳴り響く。
「何が……!」
「ごめん
私の後遺症も重量増加なんだ……」
広範囲に重量増加を使用したツケが回ってくる。
「そうか……すまんが解除してくれると……」
「分かっ……」
「待て! 一気にはやるな!
潜水病で肺が潰れるぞ!!」
八朝の注意が間一髪で届いたのか、三刀坂が能力解除を取りやめる。
「な……なんでその事を……」
「家にあった『家庭の医学』で見た
急な気圧の変更で呼吸困難になる症例があるって」
相変わらず八朝が何を言っているか分からなかったが、それで冷静さを取り戻す。
このままエレベーターで逃げても待ち伏せされたら全滅、このまま能力解除を続けてもいずれ追いついてくる。
ならばと、三刀坂が手を握ってくる。
「八朝君! こっち!」
「な……!?」
三刀坂が階段まで駆けると、下階でなく上階の階段を選択する。
登り終えた一つ下のフラップが大量の土塊と土の人形で埋まる。
「そうか! 能力で浮けば……!」
「そゆこと」
最上階まで駆け上がり、騎士槍で施錠された屋上の扉をぶち破る。
だが、その瞬間に八朝が思い出す。
No.19:『新入り』、土を操る能力
No.01:リーダー、必中の雷を落とす能力
そして索敵用に展開していた霧が『弓矢』と『光輪』に一部変化する。
「三刀坂……ッ!」
「わっ!!」
三刀坂を屋上前のフラップの扉に面していない側に引っ張る。
追いついた土石流が扉から勢いよく吐き出される音と、一撃でマンションを破壊しかねない轟音が響き渡る。
「これって……」
「間違いない
親衛隊のリーダー……雨止の能力だ!」
だがこの瞬間八朝は2つの事実に直面する。
一つは先程の霧が『光輪』『弓矢』に変化した事。
即ち雨止の能力は八朝の使う『異世界知識』に関係している可能性が高い。
もう一つは屋上・下階への出口を塞ぎ、一斉にこちらを睨む土塊たちの瞳である。
目の上に刻まれている文字に八朝は心当たりがあった。
(אמת……
いや、微妙に違う……あれだと『Oze』に……)
だが土を操る能力を考察する暇は与えられていない。
土塊たちが各々に身体を生やして八朝達に襲い掛かる。
そんな状況に飛び込んできたのは、流星の如き光の矢であった。
お久しぶりです、斑々暖炉でございます
また2週間掛かってしまったよ……本当にすいません
今回は日常回です
久々にタイトル詐欺回避ができたような気がして、割と上手く行ったような気がする
そんな調子の良い文体で良いのであれば
暇つぶしに読んでいただけると幸いです
次はまぁ、今のところ(結果的に)有言実行になっているので
9月23日に投稿したい! したいんです!(願望)
14:40分:補足事項
今回の話、三刀坂さんがメインに据えられていますが、一回だけ激烈な反応を見せている場面があります。
さて、彼女は主人公に対してどう思ったのでしょうか?(好意的 or 否定的)
なお、ここを読み間違えますとデッドエンドルートに分岐してしまいます




