Case 73-4
2021年6月3日 完成
悪魔と契約を取り交わそうとする八朝。
だが、度重なる脅しに堪えかね実力行使を選んでしまう……
【2月12日(水)・深夜(0:24) 親衛隊のアジト1F・北東フロア】
「くっ……!」
八朝が罰則の頭痛にうめきながら敵の姿を見据える。
悪魔は汗の一つもかかず、随分と余裕そうなのである。
『■■!』
八朝が選んだのは異能力の一時的使用を封じる『封印』の大鋏。
だが、それを真っ二つに分けてそれぞれに違った依代を展開させる。
それをエリスの初速度変更魔術に乗せて放つ、だが……
『■■、■■』
たった一言で飛翔途中の依代が霧散する。
彼女が唱えたのは生命の樹に対する死の木のパス。
或いは『トンネル』と呼称される22の呪い。
それは『照応』を利用したカバラ魔術用のカウンターであり
八朝の魔術の上から発動し、意味を根こそぎ奪い去った後に自壊。
まさしく『あらゆる魅了を防ぐ術に長けた』悪魔の面目躍如である。
この数十分間はひたすらこの劣勢の繰り返しである。
既に、大勢は決していた。
『既に彼我の力の差を痛感したであろう?』
「それは……どうだろうな……ッ!」
『無理をするでない
今のが貴様の最後の依代であろうよ』
八朝は悪魔からの指摘に奥歯を噛む。
自分が使える攻め手は先程の歯車と帽子で尽きてしまった。
そして残る枠も1つ。
後ろを見ると今も昏々と眠り続ける辻守や、再び呪縛された部長たち。
もう一度敵を見据え、喉に魔力を込める。
『今なら汝の無礼も不問にして……おや?』
八朝が悪魔からの甘言を無視して大鋏を再度展開する。
一方は『灯杖』で、もう一方は『八雷神』……どちらも既に放った依代であった。
『そうか、お望み通り死をくれてやろう!』
悪魔が選択したのは『灯杖』に対する■■、そしてもう一方への■■。
だが、悪魔は八朝のように異なる『トンネル』を同時に使う事はできない。
よって、灯杖から処理し、不足したリーチの外から魔術をぶち込む事にする。
後は人間にしては速い間合い詰めに舌を巻きながら『トンネル』の名を唱えるだけ。
灯杖を受け止めた右腕から物凄い勢いで凍り付いた。
『な……に……ぃ!?』
『勅令を為し、この身に勝利を!』
そこに実体化した攻撃力と、凍結の状態異常が引き起こすダメージ2倍が悪魔の身に刺さる。
一瞬だけよろめいた隙を見逃さず、更に灯杖から霧に変じさせる。
『汝、創造の星を巡り、大地への路を切り開かん』
『無駄な事を!』
悪魔が■■に対する■■を唱える。
だがまたしても『照応』が失敗し、カウンターに放った魔力が虚空を漂う。
(何が起きてる、という顔だろうな)
ほくそ笑む八朝が再び敵を見据える。
そこに鳴下家で教わった歩法・脈弓にて大地を蹴り、もう一度悪魔の懐に。
今度は■■を右足から影へと流す。
即ち転倒の呪いを伴った肘打ちが悪魔を一撃で打ち倒す。
だが、悪魔も倒れ切る前に手で身体を跳ね飛ばし、更に距離までも稼ぐ。
『……見えたぞ
その雷で依代を構成しているな!』
流石は悪魔である。
常人を超えた洞察に舌を巻く余裕はない。
もう一度脈弓で逃げる悪魔の間合いを捕まえ
目の前の悪魔に『勝機』となる5つの霊を押し込もうと震脚を使う。
『■■!』
展開したのは『霊障』の手裏剣。
流石に相手もそちらではなく、左足から影へと向かう雷の動きを捉える。
『■■!』
『……ッ!』
この一瞬だけが、悪魔が八朝の仕掛けた罠に気付けない唯一のタイミング。
ああ、物凄く単純に引っ掛かってくれた。
『■■■■■■■■■■』
『な……!?』
それは■■の最大展開の詠唱。
一度に5つの雷を放出し、それぞれの身体の部分をお互いに麻痺させる。
即ち右手、左手、右足、左足、■■。
「お前がセトのトンネルを纏う事は知っていた
随分と防御的で、咄嗟の変更に対応できないその舐めっぷりを利用させてもらった」
互いに四肢が麻痺し、崩れ落ちる。
そこにエリスの浮遊魔術が間に合い、二人とも椅子に座らされる。
「早速だがその雷神をお前にくれてやる」
その一言が契約として成立し、お互いから四肢を封じる麻痺が消えていく。
同時に八朝の位階もS級からQ級にランクダウンした。
『正気か貴様……そうか、そういうことか!』
「分かってくれたなら助かる
俺もこれ以上糞尿を垂れ流す訳にはいかないからな」
『戯言を言うなよ『亡霊』
最初から神霊を我に捧げるつもりの茶番だったのだろう?』
だが全ては手遅れに。
三界を見通すが故に、人間を見下して検証しなかった傲慢。
何も悪魔に打ち勝たなくても、先に代償を払ってしまえばこちらから願いを押し付けられる。
契約のイニシアチブは既に掌中となった。
「ああ、その通りだ」
次でCase73が終了いたします




