Case 73-1:【契約に基づき非公開/Xaprah】
2021年5月31日 完成
2021年6月2日 ストーリー変更(作戦部分)
回避できぬ死の運命の瀬戸際。
自分を善意で殺す者がついにその場に現れた……
【2月11日(火)・夜(23:16) 遠海地区・辰之中】
「これは……!?」
駆け寄ってきた親衛隊員が倒れている人影に息を呑む。
無理もない、彼こそが親衛隊を粉々に砕いた異能部の先鋒。
『占師』、辻守晴斗。
「待て、ここは俺に任せてくれ」
武器を取り、仇を討とうとする親衛隊員達を止める。
八朝に数多くの不信の視線が降り注ぐ。
「戦法は今伝える
それで納得してくれ」
八朝は製造所となった化物の詳細を語る。
重要なのは平凡な者に対するありったけの支援である。
化物……恐らくは『紫府大星』に化けたEkaawhsの死相反映を利用して
弱い方の死因を押し付けて弱体化させ、外から雨止の『狙撃』を浴びせかける。
それを確認するには1人ずつEkaawhsのいる閉鎖空間に潜る必要がある。
時間はあまり残されていないので、平凡な死因が見つかり次第その者にできる限りバフを掛けて送り込む。
そして八朝は支援ではなく弱体化、しかも死因が最悪である。
八朝の死因はミチザネ、今の『紫府大星』よりも遥かに強い。
故にそっちには行けないと説明を終える。
「分かった、リーダーに伝えるよ」
幸いにも親衛隊員達は理解してくれたらしく、持ち場へと走っていった。
だが、風水刀法によって支援も可能な柚月がこの場に残っていた。
「柚月、お前は討伐側に……」
「やだ」
まるで遮るかのように拒否する。
いつもの甘え癖なのかと思って彼女の顔を見る。
そこには、見た事もないほどに真剣な眼差しがあった。
「……理由を聞きたい」
「言えない、でもふうちゃんからはなれたくない」
その一言で想起するのは、恐らく柚月であろう協力者との記憶。
未だに思い出せない過去の因縁が、彼女から合理的な判断を奪い去っている。
だが、それを覆すほどの実力を八朝が持っていないのも事実であった。
「次は彼等の方も気にかけてくれ」
うんと頷いているが、恐らくは形だけ。
自分の弱さを痛感しながらエリスの浮遊魔術で辻守を建物内に運ぶ。
その途上で気になったことを柚月に聞いてみる。
「そういえば、話はどうだったか?」
柚月がピースサインをしているが顔が引き攣っている。
詳細を聞くような時間ではないが、平時でも酷すぎて問い詰める気すら無くなる。
「そうか、だが彼女らが別に悪い人間じゃないことは分かっただろ?」
「……うん」
これで一歩前進だと思いたい。
自分に過剰に依存している柚月が自分の意思を得る為には必要な体験だ。
「それより、もしかして……」
「ああ、今から辻守朱音を取り戻す」
それは4月以降の辻守との相違点であり
ひいては、自分側の陣営に彼を引き込むための切り札であった。
現在、彼は単独で発見され、しかも昏倒している。
これ以上に無い好機の筈であるが、妙な違和感も覚えている。
辰之中による追跡回避は撒いた、テスト用の魔法円も抜かりなし。
(……まず、俺はどうやって朱音を取り戻した?
彼女は『悪魔』だ、一筋縄ではいかない筈なのだが……)
その疑問を飲みこんで魔法円の敷いたフロアに辿り着く。
だが、そこには先客がいた。
「あら、一昨日ぶりね
相変わらずのしかめっ面で、苦労しているように見えるわね」
魔法円の中心から苦言を呈したのは部長であった。
対人折衝をやっているだけあって表情を読むのは難しい。
「何の用だ、今は立て込んで……」
「貴方、全部の依頼を正式に達成したみたいね
ということで貴方の望みの『青銅人』を呼んでおいたの」
「今やる事なのか?」
「今しかないの、全員が出払ってある程度時間が稼げるのは」
そう言って部長が浮かされている辻守の姿を確認し
それまでのポーカーフェイスを崩して苦々しい顔になる。
「私は反対するわ」
「それでも彼は第二異能部に必要な戦力になる」
「……」
珍しく反論してこなかった。
後々に考えてみると、この時の辻守の二つ名は『占師』。
恐らくは『巻き戻す前』にて部長が言及した『占い師』なのだろうと察する。
「それはそうと、ほら入ってらっしゃいな」
部長の一言で、部屋の隅の掃除箱がガタリと揺れる。
観音開きする筈の扉が上手く開かず苦労しているらしい。
「……だから言ったのに」
「■■■■■■!」
すごく怒っているようだが、どうやら女性であるらしい。
歪んでいる枠を無視して扉を蹴っ飛ばし、ようやく『青銅人』が姿を現す。
だが、彼女は最近見た顔なのである。
「ええ、紹介するわ
篠鶴学園高等部生徒会副会長、山祀佐奈」
「あの毒水の依頼者が『青銅人』よ」
続きます
毒水についてはCase63、占い師はCase13及び14辺りに出ています




