Case 72-4
2021年5月29日 完成(36分遅れ)
まもなく定例会議のある23時。
持っていける情報があるとすれば取るに足らない『2つ』ぐらいしかなかった……
【2月11日(火)・夜(23:00) 磯始地区・親衛隊のアジト】
「連れはどうしたんだい?」
「……」
フロアに入り次第雨止から柚月がいない事を咎められる。
だが、彼等にとって脱走は死活問題であった。
あの時、柚月が二人を頻りに心配している様子が見て取れた。
試しに彼女に自由行動をさせたが、未だに帰ってこない。
だが、考えてみれば当然の事である。
(俺が巻き込んだ形だからな……
今頃は無事に太陽喫茶へと帰ってくれると良いが)
問題は目の前の複数人から向けられた殺意である。
こちらが何も武装していない状況に対して、部屋の中の数人は既に依代を構えていた。
垂簾偽月、御霊碑文、贄銅泳天、火峰権現
それぞれの性質と弱点を把握しているが如何せん数が多すぎる。
助けた筈の異能力者に牙を剥かれ、窮地に追いやられる。
「だから言ってたではないか
俺を安易に信用してはならないと」
「その通りですね、ですが放免の理由にはなりませんよ?」
用賀が畳み掛けて逃げ道を封じる。
だが、それを押し通る為の武器を八朝は持っていた。
「じゃあ俺が得た情報は要らんという事か
『頭痛付き』で左壁の異能力の詳細を掴んだのに」
「何が頭痛付きですか……寝言は寝てから……」
『■■』
八朝が手錠を4人に向かって投げ飛ばす。
いち早く『御霊碑文』の柱が幾重にも貫き、手錠を破壊した。
「ぐ……ッ!?」
「周りも見えないとは貴方らしくもない
情報があるというのであれば力づくで吐いてもらいましょう」
八朝は用賀を睨み、お断りだと呟く。
「No.06、No.2の名の下に処刑せよ」
用賀の冷酷な決定がNo.06の固有名によって現れる。
2秒、4秒、8秒……何故か何も起きてない。
「あ、あれ……!?」
「一体何ですか!
躊躇するんじゃありませんよ!?」
「ち、違います! 発動できません!!」
用賀が慌てて端末の分析結果を睨む。
だが、得られた結果は不発の『魅了』一つのみでそれ以外の情報が無い。
(まさか……能力封じか!?)
気づいた時には全てが手遅れとなった。
用賀の目の前には八朝の構えが待っていた。
即ち『マイヤキュボス』の名前に現れた二人の女神。
いずれも神に敗れた神の娘であり、悪魔を弱点とするのは必然。
既に勅令の乗った拳が用賀を捉えようとする。
「ふうちゃん!!」
そこに柚月の絶叫が割り込んできた。
八朝の知らぬ彼女の気迫に、親衛隊たちですら肝を抜かれている。
「お前……帰ったんじゃ……」
「ふうちゃんこそ、どうしたの?
ふうちゃんを放って帰るわけないのに……」
顔色からして問題は解決したのだろう。
だが微妙な嫌な予感がする、それは後に聞くとしよう。
そして、彼女の存在により状況は変化した。
要は八朝の『脱走手引き』がここに否定された。
「……次からは私達にも話を通してください」
「それができる雰囲気だと思ってるのか?」
八朝が武装している四人を暗に揶揄する。
用賀は言い返すことができず、頭を抱えている。
「……一先ずは会議を始めようではないか
新入りたちも席に着くがいい、忌憚なき情報を頼むよ」
雨止に促されて席に座り、情報交換が始まった。
八朝も、最大の収穫である左壁の異能力の情報を共有する。
「ほうほう、それでつけ入る隙はあるのかね?」
「基本はない
装備として蔓延している以上は、止める手立ては無い」
「だが、製造元を断つ事は可能だ」
そしてもう一つの情報も加える。
それは移動中にエリスに指示した分析内容を基にした座標である。
「遠海口交差点……?
ここから1分も掛からない場所とは僥倖なり!」
「ああ、今の戦力でも制圧可能だ
時は急いだ方が良い、全員に配備される前に叩けば」
その一言に全員が首肯する。
気迫で眠気を吹き飛ばし、各々が準備をしようと席を立つ。
「し、失礼します!」
「何事です?」
「そ、それが入り口にあの異能部員が……!」
八朝が急いでアジトの入り口に向かう。
そこには見覚えのある影が、昏倒したまま伸びていた。
「辻守……晴斗……?」
次でCase72が終了いたします




