Case 72-2
2021年5月27日 完成
向葉から『闇属性』の証拠と壮絶な過去が語られた。
彼女は異能部の致命傷となり得るが、八朝は彼女らの仲間入りを拒否する……
【2月11日(火)・夕方(17:49) 抑川地区・辰之中】
「え……どうして!?」
突然声を荒げて拒否する向葉。
それに対して八朝は一つ一つ理由を説明する。
「まず、親衛隊は排他的な集団だ
それこそ裏切者を躊躇なく殺す、侵入者に対しても言うまでもない」
「で、でも私の方が強いし……」
「そうかもしれない
故に彼等も死ぬ気で抗うだろう、文字通り血塗れになってもな」
その言葉に向葉が一瞬たじろいでしまう。
先程語った通り『日常』を大切にしたい彼女にとって許されざる所業なのだろう。
だからこそ、ここで拒否しないといけない。
「じゃあ、どうやって異能部と戦うつもりなの!?」
「それこそ部外者に教える謂れはない」
「な……!? 部外者って……!」
「そうだ、部外者だ
部外者なら触れない限り親衛隊が危害を加えてくる事は無い」
その言葉と共に八朝は『灰霊』の事件を思い出す。
あの時は彼等と敵対し、彼等は八朝や敵の関係者以外に被害が出ないよう抑えていた。
「今なら引き返せる
それに向葉は俺らよりも先に向き合うべき人がいる」
向葉が途端に怯えた表情になり後ろを振り向こうとする。
それが出来ずに両手を握って震えている。
「……」
菜端からの視線に気づいて彼女の方を見る。
表情は怒りそのものであるが不思議と憎悪の色が無い、こういう時は大抵■■の気持ちである。
「向葉が振り向かないのならそれでもいい
だが、俺達に与したところで真実には届かない、どころか余計に避けられる事になる」
「何しろ俺達は今、篠鶴市の平穏を脅かすテロリストなんだからな」
向葉が途端に沸き上がった否定の気持ちで顔を上げる。
だが、彼女の中でも親衛隊を擁護する理屈が見つからず口を開けられない。
「じゃあどうして私の言う事を聞いたの?」
「ああ、向葉に俺達を脅かす何かがあると思ってな
だが話を聞けば殺戮に耐えきれず脱走する程の臆病者で、皆の輪に混じりたいと願う程に小市民的」
「これなら反故にしても問題ないと思ってな」
その瞬間に向葉が手袋を嵌める。
だが、それよりも早く待針が菜端の身体を貫いた。
「な……!?」
「何を驚いている、当然だろう
本人ではなく、本人の大切な人間を人質に取っただけだ」
そして菜端が身体を振るわせてもがき苦しむ。
まるで八朝の心を読んだかのように演技してくれた。
「やめて……やめて!!」
「俺には『即死』の状態異常があるぞ?」
八朝を砕こうと振るった拳を途中で止める。
実の所『即死』とは依代が崩壊するだけなのだが
今の彼女には文字通り菜端の命を握っているのだと勘違いしていた。
その一瞬の隙に待針の一部を崩壊させる。
「ぐ……!」
「あ、秋穂ちゃん!?
お願い、何でもするからホントに……!」
「そうか
なら、回れ右して元の日常に帰れ」
余りにも無常な返しに向葉が涙を流して葛藤する。
やがて、菜端の苦悶の声に耐えきれずに手袋を解除する。
「……ッ!?
はぁ……はぁ……!」
「秋穂ちゃん!」
向葉が八朝の存在を無視して菜端に駆け寄る。
菜端は心配の声を無視し続けているが、何故か向葉を振り払う事はしなかった。
「最後に、俺達に少しでも味方してくれた見返りに一つ
今の自分の状況を直視するといい、それが向葉の今までの努力に対する答えだ」
そうして八朝が向葉達から去っていった。
柚月も後ろ髪を引かれる思いで彼女たちを見たが、すぐに振り切って付いていく。
「……」
八朝が思い出したのは柚月の日常の断片。
二人に奇妙な方法で追われるも、その他に対する拒否を行わなず『怖がった』あの一幕。
(……まぁ、これぐらいなら彼等も納得してくれるだろう
骨は折れるが、俺の家族を巻き込もうとする彼等にも相応の代価を支払ってもらうか)
そしてアジト前の門番に辿り着き
手筈通りの合言葉を唱えて廃ビルへと帰還を果たした。
続きます
ラストの『あの一幕』とはCase62-1、及びCase67の事です




