Case 71-5
2021年5月25日 完成
エリスにより二人の異能力者が襲われていると知る。
謎の記憶と混濁しながら現場へと急行する……
【2月11日(火)・昼(17:19) 水瀬海岸・辰之中】
「くっ……!」
息を切らして現場へと辿り着く八朝。
そこで目にしたのは化物に対して劣勢の異能力者の姿である。
まず化物であるが、事前の報告とは違い複数存在している。
全員が同じ人の形で長柄武器を持ち、特徴的な動きをしていた。
即ち、全身を酔拳のように脱力させ相手の攻撃を伺い
接近した相手に致命的な一撃を与え、その余波で砂が高く巻き上げられる。
「鳴下……神楽……?」
柚月が驚いたのは化物がそれを使っている事ではなく
その完成度が自分とほぼ変わらないという事実である。
「アレもなのか?」
「うん、文ちゃんがとくいな『陽華』の対の型
かみさまを身体にむかえて、かみさまになる『陰流』の型」
「わたしが、得意なほう」
恐らくは鳴下文が模倣した二家の流派に対する名前である。
魔力を吹き飛ばす『哮』を主体とする辻守の雄詰。
神様もとい世界と一体化し、その理を振るう菜端の神楽。
それが齎した技は圧倒的である。
異能力者が放つ電子魔術を僅かな動きで回避、または跳ね返す。
その度に異能力者達の弱点が露呈する。
1人は手袋による近接攻撃。
素早さに振って手数で攻めようとしても化物の大雑把な一撃が全てを吹き飛ばす。
それに彼女は何故か力をセーブしているような節があった。
もう一人は服で篠鶴機関職員に成りすまして戦う。
『死体漁り』や各種暗器で応戦するも
小銃は出したハナから吹き飛ばされ、そのついでに防弾チョッキを凹ませるほどの一撃を送られる。
圧倒的にリーチが足りていない。
『■■』
八朝は状況確認の為に霧を展開する。
それと同時に柚月が前線へと弾丸のように近づき、化物の長柄武器を吹き飛ばす。
「八朝さん!?」
「そ、それに柚月ちゃんも……」
「向葉、菜端……今すぐここから離れろ!」
「でも……!」
柚月を追うように近づいた八朝の真横から化物が襲い掛かる。
霧が映した影はחとמ、即ち峻厳の柱のパス。
右からの攻撃に警戒し、左足を軸に半身となり右足で蹴る。
化物から放たれた斬撃波をスレスレで避けながら急速に距離を詰める。
化物の接地面に対して龍脈は3時・8時方向、最も龍脈が乗るのは回し蹴り。
「……ッ!」
龍脈からの追い風を前に出た右足で踏みつぶし、勢いのまま左足で回し蹴り。
だが相手も八朝の未熟な神楽に対して片手のみで受け止める。
それが、命取りだと言っているだろうに。
『■■!』
衝撃と共に『部分麻痺』の土雷を展開する。
その瞬間に全ての化物が急に失った左足の感覚に対応しきれずに転ぶ。
そこを狙いすましたかのように柚月の杖の閃きが走る。
「待て柚月!
そいつらだけは殺すな!!」
その声に反応した柚月が杖の一撃を僅かにずらし
化物を群れの中に吹き飛ばす。
「……!」
「すまん、だが奴だけは殺すな
非常に嫌な予感がする……」
思い起こしたのは神出来が従えた化物の『Minomotoboshi』。
その正体は終ぞ知ることはできなかったが、アレと同じ臭いを目の前の化物から感じた。
まるで、肉体と魂のどちらかしかない抜け殻が動いているような。
『彼こそが、三階で魂を無くして眠り続ける■■■■の……』
「エリス
殺すなとは言ってしまったがどうすればいいだろうな?」
『そんなのわたしに言われても知らないよー!』
だがその裏では確実にこの化物を隔離する方法があった。
それは『転生の間』に続く『迷宮』の入り口、岩橋の縦穴に押し込む事。
その上で入り口を崩落させれば、この手の化物は外に出られない。
そこまで押し込む手段も、トドメとなる落盤も八朝には持ち合わせていない。
「せめて水瀬神社の御神体の下まで押し込められれば……」
それを聞いた柚月が杖を構え直す。
その向こうで化物達が手をつなぎ、高速で回りながら全てを削り飛ばしていく。
黒い嵐が八朝達を粉砕しようと唸り声を上げる。
「あの、押し込むだけでいいの?」
そこに不釣り合いな向葉の素っ頓狂な質問が飛んでくる。
無論、それに越したことは無いので無言で首肯する。
彼女達が傍にいるのは別の危険が付きまとう。
学園生という立場から、親衛隊と相容れない……敵と認識してもいい存在である。
「だったら、一つだけ言う事聞いてくれたら頑張る!」
「……善処する」
それは間接的な否定なのだが、彼女には関係が無い。
意気揚々に両手の拳を打ち鳴らし、明後日の方向に向き直って力を溜める。
「おい……一体何を!?」
「みんな、着陸にご注意だよ! 『Fntesh』!!」
拳が空を切る、それだけの筈だった。
だが突然吸い込む様な突風が吹き荒れ、化物諸共全員が南方向に吸い込まれる。
「……ッ!」
受け身でも避けられない激しい打ち身に苦悶しながら頭を回す。
彼女が『結晶破壊』で壊したのは大気中の窒素分子。
その中心が水瀬神社になるよう調整を行い、急減圧によって目的の場所まで吸い込んだ。
目論見通り、化物達が御神体の岩の下の洞窟に吸い込まれた。
「後はこの岩壊したらいいんだね?」
「待て! 岩とは言ってくれるがそいつの物質構成は……!」
「だいじょーぶ!
今まで何度もやってきたからね、『Fntesh』!」
地面に叩きつけた拳の一撃と共に扇形に大地が崩壊する。
巻き込まれた御神体が雪崩を打つように洞穴を塞ぎ、化物達の閉じ込めに成功した。
「な……!?
そうか、容量節約の為に表面以外は全て均一にしてるのか!」
それは『巻き戻す前』の世界で体験した『渡れずの横断歩道』外の辰之中。
あの時は『いしのなかにいる』という言葉通りの状況であったが
本来の岩石にあるべき結晶ごとの不均一な感覚が全く無かったことを思い出す。
「あ、それで崩れてたんだ!」
向葉が努めて茶化してみせる。
そう、『努めて』する程に状況が悪くなっていた。
友人の菜端からの視線に頭を掻きながら八朝に話しかける。
「それでさ、約束覚えてるよね?」
「……ああ」
「良かったあ!
だったらなんだけど……」
「先輩を匿ってるアジトに私達も付いて行っていいよね?」
◆◇◆◇◆◇
DATA_ERROR
Interest RAT
Chapter 71-d 贖罪 - Atonement
END
これにてCase71、鳴下家の真意の回を終了いたします
散々な目には遭いましたが結構有用なものを手にしたのではありませんか?
ここでは詳しくは言えませんが、八朝は切り札を手にしています
但し、未だに油断することはできません
相手は圧倒的な兵力を誇り、その気になれば人海戦術で圧し潰す事も可能
残された時間をどう使うのでしょうか?
次回は『脱走兵』となります
それでは引き続きお楽しみくださいませ




