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Case 71-3

2021年5月23日 完成


 八朝(やとも)柚月(ゆづき)を探しに話しを中座させる。

 そして、忘れていた記憶遡行から彼女の居場所の手掛かりを掴んだ……




【2月11日(火)・昼(15:40) 水瀬神社・辰之中】




 

 辰之中の廃墟化の影響を受けない静謐な森がそこにあった。

 地図上では狭い筈の鎮守の森は、その密度によって鬱蒼と閉じた気配を漂わせる。


 錫沢(すずさわ)ですら迷う魔の雑木林の中

 (taw)とエリスの妖精魔術(エルフグラム)により、一瞬で姿を捉える事が出来た。


「ふう……ちゃん!?」


 柚月(ゆづき)八朝(やとも)の気配に驚く。

 いや、驚愕を通り越して絶望の色すらもある。


 青ざめた顔になった柚月(ゆづき)にゆっくりと近づく。


「探したぞ」

「あの……うぅ……」


 何かを言おうとして口ごもってしまう。

 そんな彼女の心裡の疑問に、一言で答えられる言葉を八朝(やとも)は持っていた。


「確かに俺の実家並みに暗い森だな」

「!?」


 その一言に顔を引きつらせる柚月(ゆづき)


 何を恐れているのか知る由もないが

 恐れていた事態は起きてないと八朝(やとも)は顔の力を緩めた。


「安心しろ、それぐらいしか思い出せなかった」


 それを聞いて柚月(ゆづき)は安堵の溜息を漏らす。

 彼女が何らかの記憶の鍵を握っているのは間違いないのだろう。


「その……話、大丈夫なの?」


 おずおずと、唐砂(からさ)の話を中断したことを心配される。

 エリスに目配せをすると、どうやら考えていることは同じであったらしい。


「情報が古くて使い物にならなかった

 これ以上聞くのも無駄だと思っていた」

「で、でも……(あや)ちゃんが……」


 柚月(ゆづき)の返しに無言で否定する。


 確かに鳴下家のサポートがあれば最も良い形で戦いを終わらせられるかもしれない。

 だが、彼女は弘治(復讐鬼)に武器を与え、用済みになれば殺すと言ってのけた。


 だが、柚月(ゆづき)は俯いて静かに涙を流していた。


「すまん……俺にも譲れないものが……」

「そうじゃないの

 もうわたしの知ってる(あや)ちゃんじゃないって……」

「あの時は流したが

 どうして柚月(ゆづき)は100年前を知ってるんだ?」


 柚月(ゆづき)が拾い上げた石を見せてくれる。

 ■■(taw)にて通したところ(tet)Q(クォフ)が現れた。


 その状態異常(ギフト)は余り使用しなかったが、そらんじることは出来た。


「100の結界……?」

「うん、百年結界

 これが鳴下家の本当の力、封印の一族の奥義」


「相手を100年間石の中に封じ込める

 (あや)ちゃんはこれで私を肺病が治せる未来まで生かそうとしたの」


 言外にそれだけ優しかったのだと訴える。


 だが柚月(ゆづき)曰く

 彼女の封印の力は歴代でも最低の部類に入る程であった。


「最弱……?

 あれで最弱なのか……?」


 柚月(ゆづき)が静かに首を横に振り、後ろを指差す。

 何の変哲もない鬱蒼とした木々の中に、透明な石の柱が紛れていた。


 その中には、明かに現代の格好ではない人が封じ込められていた。

 よく見るとその人間は上半分しかなかった。


「な……!?」

「水瀬神社、昔は水瀬刑場って呼ばれてたの

 ふうちゃんは意味わかるよね、ここの木々が一体何なのか」


 言うまでもなかった。

 鳴下家に楯突いた政敵を封印し、その樹を両断することで殺す。


 曰く鳴下文(なりもとあや)柚月(ゆづき)の封印しかできなかったのだという。

 それ以外は先程口にした先代当主、即ち鳴下文(なりもとあや)の母による封印(しょけい)の跡であった。


 そして彼女はその母を打ち負かし、鎮魂の為に水瀬神社を建てた。

 去り際に聞いた忠告も、恐らくはこの顛末からなのだろう。


「ずっと(あや)ちゃんはここに来て、皆に謝ってた

 それが分かるぐらいに封印の力が弱かったの、でも……」


 曰く、彼女には別の才能が存在していた。

 相手の技の模倣、即ち鳴下家が殺した神楽(菜端)雄詰(辻守)の保存。


 どうやら人生の後半は、この2つの技の復活に尽力をしていた。

 柚月(ゆづき)はその時の彼女の顔を思い出しているのか穏やかに笑っていた。


 だが、それも長くは続かなかった。


「本当は言いたくなかったの……

 でも私、『天使の石(アンゲルスリシオン)』も6月の暴動も知ってるから」


「友達に……戻りたかったのに……」


 柚月(ゆづき)が再び手で顔を覆う。


 折角友人の生きている世界に戻れる奇跡がもたらされたのに

 彼女はすっかり変わり果て、あれだけ忌み嫌った母の暗黒政治に染まりつつある。


「それでも俺は相容れない」


 その喪失に寄り添う事はできない。

 100年前のまま時が止まってしまった彼女たちの悲しみを癒す術はない。


「だが、それは今のに対してだ

 決して柚月(ゆづき)を救おうとしてくれた昔まで憎むことはできない」


「幸いにも俺は彼女と決別した

 なら、俺ができる事は一つしかない」




「不殺で講和を成して、見返す

 甘ったれた理想の方が正しい事を証明してみせる」




 それで昔の関係に戻ってくれたら、という言葉が空回りする。

 余りにも自分に言い聞かせるような物言いで、実感が消え失せてしまったからである。


 重要な意味が薄れていく焦燥感に思わず手を伸ばす。

 そして、あの記憶遡行で何回も繰り返したであろう行動へと変わる。


「俺は鷹狗ヶ島で柚月(ゆづき)に何度も助けてもらった

 だから今度は俺の番だ、鳴下文(なりもとあや)の優しさを取り戻そう」


 その時、柚月(ゆづき)が向けた表情を理解することはできなかった。

 複雑過ぎて結局泣き崩れた柚月(ゆづき)の頭を撫で続けた。

続きます

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