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Case 71-2

2021年5月22日 完成


 鳴下家の現当主が突如割り込んできた。

 そして彼女が口にしたのは魔術狂アルマンへの疑念であった……




【2月11日(火)・昼(15:06) 磯始地区・鳴下のアパート】




「辰之中を消す……?」


 それは篠鶴市の異能力者共生都市宣言の根幹為す閉鎖空間であった。

 端末(RAT)の生みの親であるアイリス社が製作に関わっているがそれだけの話ではない。


 よりにもよってあの『墓標(メトセラ)』に頼んだと語った。


「その通りじゃよ

 辰之中の『アバター』とやらはアルマンが作ったらしいからの」

「いや、そうじゃない……本当に『墓標(メトセラ)』に頼んだのか?」


 その一言には『巻き戻す前』で起きた悲劇に対する複雑な感情が込められていた。

 だが鳴下文(なりもとあや)は一顧だにせずこう言い放った。


「考えてみるがいい、辰之中は今の篠鶴市に必要不可欠

 誰が壊そうと思うか……いや、1人だけ相応しき憎しみを育んでおる奴がいたのじゃよ」


 その後、語ったのは彼に対する数々の支援の内容と策略。


 あの隠れ家を与え、辰之中のブラックボックスであるENIAC(アルキオネ0)の存在を仄めかし

 もしも、暴走したのならいつでも息の根を止めれるよう『属性』を変えたのだという。


 それは八朝(やとも)も疑問に思っていた。


 彼が持つ光属性は闇に強くその他四属性に弱いというピーキーな性能をしていた。

 それは、彼が十死の諸力フォーティーンフォーセズを裏切るように仕向けさせるためだけでしかない。


「……完遂させた後はどうするつもりだ?」

「無論、共生都市宣言の破壊者としてわし自らが賜死(しょり)するつもりだわい」


 そう言ってのけた鳴下文(なりもとあや)の無慈悲さに

 先刻の言葉を思い出してしまう、そして言わざるを得なかった。


「……政治しか能のない腐った血の一族」

「ほう、わしの作った楽園の上で鼻垂れるだけの小僧がよく言うわい」


 鳴下文(なりもとあや)は笑顔のまま

 こちらの全てを握りつぶさんとする威圧を放ってくる。


 だが、『巻き戻す前』を知る八朝(やとも)にも譲れる所はなく

 唯一自らを『鬼』にできる記憶を頼りに、目の前の圧政者へと対峙する。




「いい加減にして、(あや)ちゃん!!!」




 全員の虚を突くように柚月(ゆづき)の絶叫が差し込まれる。

 あの鳴下文(なりもとあや)ですら、できそこないの威圧に狼狽を見せている。


柚月(ゆづき)や、これには訳が……」

「訳って何、アルマンが憎いのは分かるけど

 その為に他人を使い潰そうとしてるんでしょ?」

「他人と言っても奴は……」


「ふうちゃんの言う通りだね

 もう(あや)ちゃんはすっかりお母さんになっちゃったね」


 そう言って柚月(ゆづき)が部屋から飛び出した。

 一瞬彼等から得られる情報を思い躊躇ったが、八朝(やとも)もドアに手を掛ける。


「待ちい、小僧」

「……」

「これは忠告じゃよ、わしによく似ておるお主に言うべき事がある」


「不殺とやらが通る程世の中甘くはない

 貴様は篠鶴機関との抗争で夥しい屍を担う、分かるじゃろ?」


 憎むべき相手の言葉が心の中にずしりと入り込む。

 この言葉に彼女の生涯……即ち理想・努力・妥協・後悔・悲嘆・苦痛・学習の全てが込められている。


 誰も彼女の『現実』を避けて通ることはできない。

 ましてや数多くの『火薬庫』を抱える篠鶴市で、理想を掲げるのは自殺行為に等しい。


 つまり彼女は、ここは大人しく妥協して軍門に下れ、と手を指し伸ばしている。


「……それでも俺は、失敗をお前らのせいにだけはしたくない」


 八朝(やとも)鳴下文(なりもとあや)の提言を一蹴し、部屋から出る。

 まるで両手で収まらぬ報酬を抱えるような浅ましさで、柚月(ゆづき)の後を追った。




【2月11日(火)・昼(15:23) 磯始駅・辰之中】




『ふうちゃん、全然見つからないよー!』


 エリスが余りの痕跡の少なさに悲鳴を上げる。

 柚月(ゆづき)が陰陽道に通じているとは予想できていたが、まさかここまでの精度だとは思わない。


 下手をすると八朝(やとも)以上に魔術の適性があるのかもしれない。


「エリス、すまない

 もう少しだけ頑張れるか?」

『うん、でも絶対これが終わったら何か一つ言う事聞いてはくれるよね?』

「……ああ、約束する」


 エリスと悪魔の取引を済ませると、段々と頭が冷えていく。

 魔術による追跡が無理なら、魔術を使わなけらばいい。


 例えば、『本物』の能力(ギフト)である『千里眼』を使えば……


(ああ、そういや俺は2回ほど報酬(きおく)を取り零している!)


 その記憶に何らかのヒントがあるのではと、強引に思考をフル回転させる。

 必死に思い出そうとしても瞼裏の毛細血管しか見えず、堪らず周囲を見渡す。


 この磯始(いそはじめ)駅は北部の海水浴場の為に防風林が設置されていた。

 辰之中で建物が廃墟になったことで、防風林の姿が瓦礫の峰から見えていた。


 『お前の記憶は身近にあるからな』


 唐突に思い出したのは『巻き戻す前』の世界でのマスターの一言。

 藁にも縋る思いで防風林を注目すると、突如として白昼夢が現実を覆った。




 『ねぇ、ここいいよね■■ちゃん』

 『単なる森なんだけど……』

 『ううん、水瀬の鎮守の森にすっごく似てるの

  友達と初めて会った思い入れの場所で、辛いときにはいっつも……ね』




 不意に視界が元に戻る。

 明瞭だった記憶の中の声で、漸く誰の声か悟ることができた。


柚月(ゆづき)だと……!?

 いや、何故柚月(ゆづき)が鷹狗ヶ島に……!)


 だが、それよりも優先すべきことがあった。


「エリス、場所が分かった」

『え!?』




「水瀬神社の森の中だ」




続きます

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