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Case 70-6

2021年5月20日 完成

2021年5月21日 ストーリー変更(微細)


 左壁(ヘリア)の異能力を探る八朝(やとも)達。

 そこに弘治がとんでもない情報を持ってきたのだった……




【2月11日(火)・朝(11:44) 磯始地区・隠れ家】




『え……篠鶴市に御三家なんてあったの!?』

「無論、あったとも

 この広大な市域を一家だけで治めるのは無理難題であろうよ」


 エリスですら初耳の情報に八朝(やとも)も思わず呆けてしまう。


 そもそもの話、篠鶴市を治める一族というのは

 一般的には『鳴下家』のみで、付け足すように錫沢の『七含人』という構成で伝えられる。


「俄かには信じがたいんだが」

「当然だ、文献からは念入りに削除された

 そうであろう、伝説に名高き金鼬の少女よ」


 弘治が指したのは柚月(ゆづき)であった。

 突拍子のない行動に驚く八朝(やとも)だったが……


 当の本人が神妙に頷いてしまった。


「どういう事だ……?」

「……わたし、ほんとうは(あや)ちゃんと同い年

 でも病弱で、『治療法が見つかるまで眠って頂戴』って……」

「ああ、それもなんだが削除されているというのは……」


 柚月(ゆづき)曰く、あの頃の鳴下家ならやりかねないと断じる。

 その(あや)ちゃんとやらが妖魔と共に家の旧態とも争っていたらしい。


 なお、(あや)ちゃんという渾名と現当主の本名が一致している。

 それだけではなく、更にもう2つ符合点が存在していた。


 まずは彼女の文字の癖である横書きの左右順が逆であること。

 これは金鼬が活躍していた大正初期では普通の筆記方法であった。


 もう一つは、篠鶴市から妖魔を追い出したとされる金鼬銀狐の伝説。

 そのうちの金鼬は、夢想神道の如き杖術を振るい、万物を引き裂いたと講談される。


 天ヶ井柚月(あまがいゆづき)の異能力も、杖による『斬撃操作』なのである。


「或いは彼女も神隠し症候群やもしれぬ

 だが、故に金鼬は我の言った御三家の生き証人であろうよ」


 弘治が鼻高々と自説を証明してみせる。

 そして、おずおずと御三家について語り出した。


「『辻守』のお兄ちゃんは、雄詰(おころび)の一族

 大きな声と音で、魔を祓うって自慢げにいってた」

『それ……神楽の三貌の』


 柚月(ゆづき)はエリスの仮説に頷いた。

 続く説明で『神楽の菜端』は『額垂簾』と呼ばれる布で神を見たと証言した。


 だが1923年、両家は突如姿を消した。

 鳴下家に空位の座が転がり込み、血で血を争う内紛が勃発した。


「だから(あや)ちゃん、いってた

 ……ウチは何の取り柄のない、腐った政治力だけの一族だって」


 柚月(ゆづき)が苦々しそうに述懐する。

 その表情からしても、一族存亡の危機だったことがひしひしと伝わってきた。


『でもだったらどうして鳴下家だけが残ったの?』

「それは我から話そう

 恐らくは、魔術狂の独断であろうよ」

「魔術狂……アルマン=フォン=ベサリウスの事か?」


 八朝(やとも)の返しに是と首を振る弘治。


 アルマンは金鼬銀狐の時代に篠鶴市に招かれた二人のお雇い外国人の片割れである。

 魔術狂……その名の通り篠鶴市の乱れた霊脈を正し、妖魔撲滅に貢献したとされる。


 現在化物(ナイト)が鳥居を潜れないのも彼の残した魔術式に依るものである。


「どうしてそんな事が言えるんだ?」

「それは異能力学集成の記述に何度も現れている、見たまえ」


 彼が近くの平積みから取り出した本を机に広げる。

 ページは全体の目次であったが、妙に気になる記述が目についた。


「黒塗り……?」

「その通りだ眷属よ

 彼の事績は模倣されぬよう徹底的に削除されたが、一つ見落としがあるのだよ」


 その見落としのページを付箋を頼りに開いて見せる。

 それは『紫府大星』……即ち、化物(ナイト)ではなく妖魔との交戦記録である。


 発見日は1924年10月1日、発見者は辻守家と菜端家の当主。

 何の変哲もない内容で八朝(やとも)が益々目を顰め始める。


「そんな顔をするでない

 天気を見たまえ、この日は暴風雨……即ち野分の日であったらしい」


 備考欄に突如晴れ渡った怪現象について

 台風の目が原因であろうと否定していた。


「これのどこが変なんだ?

 確かに暴風雨の中討伐は骨が折れそうだが、だからといって止める訳には……」

「うん、雨風のひどい日は家にこもるの

 雨風は妖魔の強さの証だって(あや)ちゃんがおしえてくれた」


 柚月(ゆづき)の一言により

 漸くこの報告書の異常性を察することができた。


「……待て、1924年だと!?」

「そうだとも、その前の年に彼等は消えた筈なのに

 どうやらこの本によると、呑気に報告書を作成していたらしい」


 柚月(ゆづき)の話と食い違う点に八朝(やとも)が目を剥く。

 柚月(ゆづき)もまた心当たりがありそうな顔で閉口していた。


「これが魔術狂の仕業だという証拠は?」

「まず状況からして有り得ないだろう

 妖魔の特に強い暴風雨の中御三家の筆頭が2人して討伐している」


「操られているようには見えないかね?」


 それは二重の意味を持つ言葉であった。

 文字通り魔術で使役されていたか、或いは権力によって従わされていたか。


 いずれにせよ有り得ない話である。


「時に眷属は『アルキオネの大魚』を知っているな?」

「……ああ」


 八朝(やとも)が苦虫を噛みつぶしたかのような表情で頷く。


 七不思議の番外にして、大魚を完成させたものは会いたい人1人と再会できるという噂。

 実は大魚とはENIAC(アルキオネ0)の亡骸であり、かの復活手段でしかなかったものである。


化物(ナイト)から零れる鱗を集め、大魚と為す

 そこに思慕の情というパスで魂を引き寄せ、乗っ取ることで復活する」


「……汝から灰霊(グラフィアス)の顛末を聞いた時は小躍りしたものだ」


 灰霊(グラフィアス)とは『巻き戻る前』にて襲い掛かった十死の諸力フォーティーンフォーセズの幹部。

 親衛隊を乗っ取り、ゴーレムとして召喚した悪魔(オセ)の名を『削る』事で掌握を試みた愚者。


 ああ、小躍りとはまさに次のような事である。


「ソロモンの契約魔術……!」

「そうだとも、大魚の噂がそうであるなら

 七不思議に数えられぬ筋も通るだろうよ」


 だが、弘治が断じた通りだけではない。


 鳴下の一族は異能力の混在を厭い、嫡子であった鳴下雅(なりもとみやび)を追い出した。

 その際に当主は『汚染』と称し、まるで契約魔術に対して恐れを為すような振る舞いをしていた。


 危険性……いや、契約魔術によって菜端と辻守が消されたとしたら。


「……ああ、これで俺もはっきりと断言できる

 左壁(ヘリア)の異能力は『シトリ』という名を介した二重契約だ」

「ほう……」

倭文神(しとりのかみ)、織機を司り、芸或いは武を以て星神を倒した英雄

 そして小さな鍵(ゴエティア)の序列12番、刹那的快楽を司る公子シトリー……」


「奴の能力(ギフト)は『外法尊星』、星を織り込む異能力だ」


 倭文神(しとりのかみ)の敵である天津甕星は妙見信仰が付いて回る。

 それは仏教における星の信仰の代表例といえば妙見菩薩であったからである。


 また倭文神(しとりのかみ)と共に語られる天棚機姫命は織姫と同一視され

 大陸より伝来した『七夕伝説』と共に星神を懐柔したという異説が形成される土台となった。


 それを伝えた菜端(なばた)の一族が布の中から()を見出したのは当然ともいえる。

 だが、そこに異物が紛れ込んだ事で術式が瓦解した。


 即ち公子シトリー、女性を誘惑する魔術を持っているとされるこの要素が

 倭文神(しとりのかみ)の逸話を『武』の伝承から『芸』の伝承へと捻じ曲げてしまった。


「星を見るのではなく星を織り込む秘術……それが『外法尊星』だろう」




◆◇◆◇◆◇




 xxxx.lang.OutOfMemoryError




Interest RAT

  Chapter 70-d   侵略 - Invasion




END

これにてCase70、外法尊星の回を終了いたします


そういえば最後のメッセージがメモリリークでしたね

システムを破壊する程の情報流入とは、いったい何だったのでしょうか?


にしても次は『御三家』ですか

十死の諸力の14人に学園五指の5人、更には七含人の8人と札付きがまあ多い多い


ですが、御三家はこれ以降の話で重要な鍵を握ります

あと80話(実質140話)もありますが、乞うご期待下さいませ


次回は『封印の一族』

それでは引き続きお楽しみくださいませ

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