Case 70-5
2021年5月19日 完成
2021年5月20日 誤字修正
篠鶴機関の情報を求めて弘治の隠れ家を訪ねる。
探すべき情報は倭文神であるが、八朝は左壁の素性をまだ知らない筈である……
【2月11日(火)・朝(11:05) 磯始地区・隠れ家】
棚から何冊かの空白の書をピックアップしてくる。
ジャンルとしては古神道、特に星神の信仰に言及しているものが多かった。
それは倭文神の逸話にはある星神がセットとして語られているからである。
即ち天津甕星、国譲りの段で最後まで抵抗した地神を征討したというものである。
『ところで思ったんだけど
私たちって左壁の情報を一切持ってないよね』
「そうだな」
『太陽喫茶襲撃の時は上手くいったけど
だからと言って倭文神が正しいとは限らないよね』
つまるところ、どうしてその方向に調べようとしているのか
その確信はどこから湧いてきたかの問いである。
「……実は俺にも分からない
あの時は菜端の依頼が引き摺っていたと思っていたが」
「どうやらそうも言ってられない証拠が出てきたんだ」
見せたのはこの本達と同じ名前で呼ばれている八朝のメモ帳である。
彼の記憶に応じて内容が勝手に増えていくという曰く付きのアイテムである。
その中に、記憶にない人物の詳細が記述されていた。
菜端■■・左壁
篠鶴機関三幹部のうち、治安部門の長を努める人物
別名『倭文之神』、織機を司る日本神話の神より命名された
十死の諸力の第一席と影で通じている
『これって……!?』
「ああ、『前の6月』では知り得ない情報だ
だとすれば、過去の記憶関連の筈だが俺の記憶には引っ掛かりもしない」
「それに俺は思い出せない『記憶遡行』を何度か起こしている」
それは飼葉に襲撃される直前と昨日の連戦の直後である。
この二つの共通点に、後ろにいる柚月が傍にいたというものがある。
そして後者に至ってはどうやっても無理だった■■と■■の瞑想が成功した。
(柚月に何かがある筈だ
とはいえ、それを直接彼女に聞くことも憚られる)
視線を向けると柚月が無邪気に笑いかける。
今はまだ、彼女に根掘り葉掘り聞くわけにはいかなかった。
「エリス、代わりと言っては難だが教えてくれないか」
『な……何をかな?』
「記憶を失う前の俺がやっていた事だ」
『それは……Ekaawhsに追われながら辻守君を勧誘して』
「それじゃあ言葉を変えよう
辻守朱音は一体誰が作ったんだ?」
その言葉に柚月が思わず閉口する。
それが凡その答えになっているのだろう。
まず依代と妖精は似て非なる存在である。
どちらも魔力の塊であるが、妖精には魂という自立機能が存在している。
それを作る技術は当時の八朝の技術どころか人脈ですら不可能である。
何しろ『妖精作成』の掌藤とは親しくなく、依頼を出すのは不可能に等しい。
それを2月中に完遂したのである。
ならば八朝の知らぬ人物による干渉ぐらいしかない。
「……答えられないぐらいにヤバい事なのか?」
エリスが無言で機体を傾ける。
もしかすると、現在の自分は今までフリーライドしていた『ヤバい事』へのツケを払っているのかもしれない。
「話を戻そう
彼の異能力が倭文神関係であることは名字からも分かる」
『うん、秋穂ちゃんとほぼ同じだもんね』
名字だけでなく異能力も『織機』関連で共通していた。
ここから何か探れると思い、3人で手分けして探すも予想通りの結末となった。
倭文神には刃と布の二面性が存在する。
即ち武、或いは芸によって天津甕星を征討したという学説。
そして天津甕星は金星の神と称されて久しいが
全国の信仰……即ち神仏習合の跡から、北極星である尊星王妙見大菩薩であるという説もある。
新しい発見は無かった。
「根を詰めすぎるでないぞ眷属よ
偶には息抜きをするべきだろう」
「……それ、カラバル豆のコーヒーじゃないよな?」
「御名答だ、眷属よ」
カップを台所まで戻し、冷蔵庫からお茶を取り出す弘治。
全員をテーブルに呼び寄せていったん休憩することにする。
『にしても、菜端が鳴下レベルの名門だったらなぁ』
エリスが理想論を口にする。
確かにそこまで強い異能力の家系なら権力者の座も夢では無い筈。
ましてや傍流でも生徒会長に匹敵する能力を得ることができる。
だが、現実はそう簡単にはいかない。
どれも規模がC級でもなければ無理な異能力構成に頭を抱える。
「そういや道中にEkaawhs居なかったよな」
『うん、それも不思議だったね
魅了に別の機能でもあったんかな……』
「魔眼関係なら石化との関連もある
だからと言って人払いとは関連も付かないしな」
「いや、関係があるかもしれんぞ眷属よ」
そこにお茶を持ってきた弘治が割り込んできた。
恐らく魔眼の事だろうと高をくくっていたらとんでもない事を口にした。
「菜端、そして辻守と鳴下は篠鶴の御三家
とくに菜端は『神楽の菜端』の昔は呼ばれていたぞ?」
次でCase70が終了いたします




