Case 70-4
2021年5月18日 完成
2021年5月19日 Case70の構成変更(5部方式→6部方式)
用賀の言われた通りに一日中休んだ八朝。
いつも通りに魔術の鍛錬をしていると異変が起きた……
【2月11日(火)・朝(9:55) 抑川地区・辰之中】
「……」
『……』
今日は弘治、及び唐砂の下を訪ねる予定であった。
その道の途中、地下通路へと向かう道の途中に叩かれた足音は2つですらなかった。
見慣れぬ松明を手にする八朝の後ろに
夥しい数の化物が大人しくついてきていた。
柚月が杖で突いても何の反応も示していない。
『ホントに機能してる……』
エリスが感嘆と困惑の狭間で呆けている。
それには今朝の出来事を辿る必要があった。
要約すると以下の通りである。
①鍛錬の途中に寝落ちした八朝の前に2つの依代があった
②片割れの旗に触れた鼠がそのまま死んでいた
③もう一方の松明の周りに夥しい量の蟻が集っていた
(有り得ない……7時間程度で残りの依代が見つかるかよ?)
八朝の問いには誰であれ否を唱えるだろう。
彼が時間だけを問題にしているが
それ以外にも瞑想を含む内と外の『質』が圧倒的に不足しており、不可能に等しい筈だった。
だが、蟻と鼠に起きた怪現象を説明する為には魔術以外に適任な概念は無い。
無論それをエリスたちに話し、危険との噂でもぬけの空の辰之中を進もうと提案した。
無論、酷い反論が出たが何とか押し切って今に至っている。
結果としては想定以上に安全な道程となった。
(問題は起動方法か……
烙印のように押し付けて火傷を負わせないとハーメルンのようにはいかない)
だがそれは些細な問題であった。
剣と同じく振り回しやすい形の松明であれば鳴下神楽の技法で何とでもなる。
少々手間ではあるが、それを抜きにしても魅了の状態異常は強い。
『でもどうして松明なんだろ……
『悪魔』って言ったれ角とか翼とか他にもあるのに』
「俺の依代はタロットの図柄から取られているからな」
『あっ! なるほど、それじゃあ松明もあるよね』
エリスに見せたのは『巻き戻す前』の咲良から貰ったタロットのうちの1枚。
逆五芒星の悪魔が上下逆の松明を持ち
繋がれていない鎖で身動きのできない男女の絵。
15番、調停と尊厳を繋ぐパスである『悪魔』。
「……」
それを興味津々にのぞき込む柚月。
そういえば、このタロットの持ち主は彼女の姉であった。
「ああ、ゴタゴタが収まったら咲良に返すよ」
そう言って柚月の頭をなでてあやす。
これまで彼女が抵抗しないのに疑問を覚えていたが、その表情から理由は一目瞭然であった。
「先を急ごう」
喜色満面の柚月に対して八朝からは緊張が取れない。
この『魅了』がEkaawhsにも効くのか、それだけではなく左壁の脅威も健在だ。
再び地下通路の入り口を目指して走り始めた。
【2月11日(火)・朝(11:00) 磯始地区・隠れ家】
「成程、手土産が多いと思えば……」
口振りに反して口角を上げる弘治。
彼を訪ねるのは以下の理由からしても真っ当な選択であった。
即ち彼は『正規』の十死の諸力に通じており
悪疫以上に篠鶴機関への憎悪を抱いている。
そんな彼に復讐の機会があると持ち込めば歓迎するに違いない。
結果として、八朝の皮算用は現実のものとなった。
「それで条件をもう一度整理しよう
俺は左壁の能力情報を、そして弘治は篠鶴機関の警備体制」
「ああ、願ってもいない
だが『あの時』とでは状況は大きく異なるぞ?」
「そうでもない」
弘治の忠告を切って捨てる八朝。
ここで、現在の篠鶴機関の動きを伝えてみる。
「鳴下家との一触即発の騒ぎは
『天使の石』事件の時の社会不安と似てはないか?」
「……成程な、流石は眷属よ」
弘治は既に乗り気であった。
寧ろ何かをしでかす可能性がありそうな気もするが、今重要なのは篠鶴機関の情報である。
そして、次は八朝の番である。
「その前に、本棚を使ってもいいか?」
『ああ、構わんよ眷属
汝の閃きは我が復讐の糧となるからな』
弘治の許可を得て八朝は目当てのジャンルの棚へと向かう。
探すべきは『日本神話』、特に倭文神と関係のある織機の神である。
続きます




