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Case 70-3

2021年5月17日 完成


 『記憶遡行』の連続発動により大量殺戮の動機を知った八朝(やとも)

 用賀(ようが)から体調を心配され、今日の所は休むことにした……




【2月10日(月)・夜(23:55) 抑川地区・廃ビル】




『ただいまー!』


 エリスが親衛隊の定例会議から戻ってきた。

 八朝(やとも)の体調不良によりエリスが代わりに出席していた。


 今回からは『敵』の情報が飛び交うので特に重要であった。


「それで、どんな話が出ていたんだ?」

『えっとね……』


 エリスが覚えている限りの情報を話し始める。

 要約すると以下のような物となった。




  ①世論は異能部側に傾いている

   親衛隊員を精神異常者と見做し、『月の館』に送れとの主張

  ②異能部も情報収集を行っているのか町中をうろついている

  ③丸前(まるさき)という部員が22時付けで異能部から追放されたとの噂

  ④職員が小銃を装備しなくなった

   配備先が何故か鳴下地区山麓で、鳴下家と小競り合い

  ⑤異能力者同士で辰之中に入るのは危険との噂




『こんな感じだったよ』

「ふむ……」


 ①は埴堂(じきどう)三刀坂(みとさか)の態度からある程度察することはできた。

 自分の周りが神隠し症候群に対して理解のある人物ばっかりだった事に感謝するしかない。


 だが、世論はそうはいかない。


 突然別人になり、それまでの人間関係を破壊する転生者は

 傍から見ても不興を買いかねない。


 そういった意味で彼等を悪者のできる組織の存在は、極論をのさばらせる原因となり得る。

 橋の上での事件もあって、篠鶴市全体がピリピリしており②の動員理由も頷ける。


「鳴下地区山麓……?」

『うん、それ用賀(ようが)って人も疑ってた

 まるで親衛隊のアジトが見つかってないような振る舞いで、罠の可能性がって』


 確かにその見方もできる。


 辻守(つじもり)を逃がしたことで総攻撃も秒読みの筈がそうでもない。

 どころか真反対の東の果てである鳴下地区に動員されている意味が分からない。


 ④で小銃(コープスピッカー)を装備していない事から陽動と見做した方が自然だ。


「一つ聞く、その小競り合いの詳細は分かるか?」

『えっと……確か

 現当主まで出てきて一触即発の危機だったって』


 エリスの報告に目を剥く、それは最早小競り合いですらない。

 とすると、この動員を陽動と見做すことはできない。


 親衛隊との対立の裏に、何かが動いている?


「そうか、ありがとう

 パワーバランスを考えて陽動はあり得ないと伝えてくれ」

『うん、明日そう言っとくよ』


 エリスが冷蔵庫を開けて徐に夜食を探る。

 誰も買い出しをしていないので案の定空っぽであった。


『うえ~酷いよこれ!』

「俺なんて夕食すら食べてないぞ」

『え、どゆこと……あっ』


 エリスが漸く八朝(やとも)の正面まで漂ってきて察する。

 正座している八朝(やとも)の膝を枕にして柚月(ゆづき)がすやすやと寝息を立てていた。


妖精魔術(レビテーション)で何とかならんか?」


 八朝(やとも)からの願いに唸るだけのエリス。

 この期に及んで何か考える必要が、と八朝(やとも)が訝しむ。


「どうした?」

『えっとね、ゆーちゃんって不眠だったのは知ってるよね?』

「ああ、マスターがそう言ってたな」

『それでね、ゆーちゃんが寝ているのって大体ふーちゃんの近くだったよね』

「……まさか俺が近くにいないと起きるとか言わないよな?」


 エリスは非常にぎこちなく機体を傾けて首肯する。

 その程度で引き下がる訳にはいかず機体(エリス)を捕まえて手動で妖精魔術(レビテーション)を発動させる。


 ベッドにまで運んで布団をかけ立ち去ろうとする。

 だが、服を引っ張られてこれ以上離れることができない。


「……」

「済まないが、離しては……」

「やだ」


 いつの間にか起きていた柚月(ゆづき)に拒否される。

 エリスに助けを求めようとしたが、だから言ったのにと呆れられてしまう。


 仕方なくエリスに座布団を投げてもらってベッドの側面を背もたれにして座る。

 その気配を察したのか裾を掴む手はいつの間にか外れていた。


 振り向くと、柚月(ゆづき)は大きな枕を抱いて顔を隠していた。


(最悪、このまま7時間でも問題ないだろう

 それよりも気になるのは丸前(まるさき)の追放だ)


 曰く、あの戦いの後に用賀(ようが)が煽動目的で彼のステータスを周囲に触れ回った。

 時刻からも彼の煽動が功を奏したらしく、無慈悲な足切りに巻き込まれた。


 だが、彼の性格からしてその程度で止まるような男ではない。

 神隠し症候群の対象外であるにも拘らず『八朝(やとも)への憎悪』だけで記憶を保持した。


 そういった意味で彼が無主物(ブラックボックス)に陥るのは非常に拙い。

 何か、誰も知り得ぬ悪意と結託して、忘れた頃に災いと共に蘇ってきそうな確信があった。


(明日からが本番だ

 雑多に集めてもいいが、俺にはパイプがあるからな)


 即ち『弘治』と『唐砂』という組織の裏切り者達。

 彼等から異能部・または篠鶴機関の動向を聞き、今後の方針に役立てる。


 残り6時間と50分強。

 魔術の鍛錬とはイメージに始まり、イメージに終わる。


 冷たく、石の硬さと退廃の臭いしかないここではできる事が限られる。

 二つの柱の次元移動(シフト)からも得られない死神(nahs)悪魔('yn)のパス。


 目を閉じて、それらのイメージを固めていく。

 次は女教皇(gaml)と同じ失敗を冒す訳にはいかない。




 だが、その二つの状態異常(ギフト)を明かすのに7時間弱は余りにも少なすぎた。




続きます

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