Case 70-1:万物を織る能力
2021年5月15日 完成
『報告は?』
『……』
『おい、『悪魔遣い』!
報告はと言っているではないか!!!』
『アジトは……発見できませんでした』
【2月10日(月)・夕方(17:13) 抑川地区・廃ビル】
「……そうか
改めて思うが、どうして勝てると思ってたんだ」
状況が落ち着いたところで雨止からこれまでの経緯を改めて聞いた。
だがその内容というのは『転生者』の強みである能力に寄りかかったゴリ押しでしかなかった。
その作戦には用賀が反論したものの、多数決で押し切られてしまった。
結果、無策のまま十倍以上の『篠鶴機関・異能部連合』に全滅寸前まで追い詰められてしまった。
「ああ、我も気付かなんだぞ
掠っただけで魔力を奪い去る銃撃があるなんて……」
用賀とほぼ同じタイミングで溜息を吐いた。
どうやら用賀の方は『死体漁り』の存在を知っていたらしい。
「言いたいことはあるが、まずやるべき事は情報収集だ」
「……とは言うが、我等5人でどうするというのだね?」
我等と強調する辺り雨止は現状の劣勢を受け入れていた。
幹部三人は言わずもがな、八朝と柚月は既に交戦し敵と見做されている。
これが十死の諸力相手ならお題目が存在した。
だが、今回の敵は学園の守り手とこの篠鶴市の守護者の連合。
誰一人として味方する可能性が少ない。
「……これで『月』のNo.7が起きてくれれば」
用賀が呟いたのは『妖精被膜』の片割れたる部下の安否である。
彼の異能力が竜巻を操る雷神の加護であるなら
『虹の根元で攫った人間を変化させる』という逸話も再現可能である。
だが、単なる虹であるなら埴堂と同じ難点を抱えることになる。
そこで彼が目を付けたのは、同じく七層の世界モデルである『天道説』であった。
大地に浮かぶ『偽りの月』から放たれる月暈の七色を天の七層と見做し
虹に触れた全員を『妖精』に変化させるという荒業をやってのけた。
これを用いたのが、親衛隊唯一の強みである正体不明の『円卓』なのである。
「回復か、できなくはないぞ」
「そうですか、流石にキーマンの貴方でも……え?」
「都合上5人までなら可能だ
なに、化物の反応を人間に変える事よりかは簡単だ」
都合というのは元の3枠を維持するための数である。
だが、そんな事よりも親衛隊たちは『可能』という文言に反応した。
「できるの……ですか?」
「ああ、その為には異能力の情報も必要だが……」
「それぐらいならいくらでもどうぞ
……よかった、希望の芽は潰えなくて」
「当然だ
今は無き友の盟友だ……それぐらいできないと困る」
飼葉が暗に鹿室の存在を仄めかす。
それに反応した八朝の視線を『まあ記憶には無いんだがな』と切って捨てた。
そしてNo.7のステータス情報を参照する。
(成程、これは『御来迎』と同じ原理か)
それは霧深きブロッケン山にて観測された虹と影の巨人である。
西洋では『魔物』と称されるそれは、極東の地では『御仏』の姿だと信じられた。
そしてエリスによる分析結果には月光菩薩の真言が示された。
『暦を踏みて、我等は糧を得る』
そして、完全となった『中庸の柱』の魔術を実行する。
起動した状態異常は『憑依』……だが■■とは趣が異なる。
即ち、切り売りした『概念』で依代を改修し、強化させる。
寧ろ付加に近いそれの別側面である『補修』を行った。
(……これが『死体漁り《コープスピッカー》』か
ご丁寧に『吸血』の状態異常を付与してやがる)
(だが、それが命取りだ)
即ち、先程と同じように『状態異常』を剥がして自らの依代にする。
しかも先程とは異なり無機物への付与であるため苦痛を考慮する必要が無い。
施術時間1分程で、No.7の回復死の治癒が成功した。
それは皆の端末からでも確認することができた。
「ここは……ッ!」
No.7は目を覚まし次第周囲を警戒し始める。
やがて争いの気配がない事を悟り、俯き始めた。
「そうか僕は……」
「まだ諦めるの早いですよ」
「ですが……ッ!」
「貴方が起きた事で『円卓』は再使用できます
確かに私達は負けましたが、全滅はしていません」
用賀が部下であるNo.7を励ます。
何とか彼の根性も叩き起きたところで今後の方針と注意点を提言した。
①異能部、篠鶴機関の情報を無差別に集める事
②できるだけ戦闘を避ける事
③23時に全員で集まり、都度方針を決めなおすこと
①は言うまでもなく、雨止の無策のツケであった。
マイナススタートの自分たちができる事は、先攻にて一撃で仕留める事。
その為には情報が必要であった。
「戦闘を避けるというのは?」
「再建された依代の耐久値が俺基準になっているからだ」
その一言で全員が察した。
『並列』によってCONが1となっており、脆くなっているのである。
凡そ戦闘には耐えられない。
それこそ八朝のような独自の戦法に頼らなければ不可能に等しい。
「それに相手は『死体漁り』を持っている
異能力者なら一撃必殺の弾幕を前には十死の諸力ですら抗えない」
「そう……ですね」
用賀の呟きと共に各々が苦々しい敗北を思い出す。
そういった意味でも『戦闘を避ける』事については全員が同意することができた。
「それではNo.16には引き続き治療に当ってもらおう」
「ああ、その見返りで柚月を家に帰してくれるか?」
「構わない……だが」
いつの間にか柚月が背後で裾を掴んでいた。
むくれ面で『離れたくない』と無言で告げていた。
「本人の同意は得られそうにないだろう
それに学園五指の一角たる『断罪者』だ、協力を願いたい」
今度は弛緩した顔で何度も頷いていた。
止めるよりも先に決断され、八朝が困惑したまま固まった。
「では皆の衆、23時まで己の本分を果たしたまえ」
続きます




