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Case 69-3

2021年5月11日 完成


 生徒会長と死闘を繰り広げる八朝(やとも)

 もう既に部外者となった筈の『虹弓』は、何故かそこから目が離せず……




【2月10日(月)・夕方(16:33) 用賀(ようが)所有の廃ビル・辰之中】




(うわ……何だよアレ!?)


 八朝(やとも)が腕の火傷を引き剝がし、そこから依代(アーム)を作成する。

 見ているだけでも激痛が伝染(うつ)ってしまいそうな異様な光景に目を剥く。


(これが、俺の依頼を引き受けた奴の実力か?)


 強くはない、だが何度打ち倒しても起き上がってくる。

 彼につけられた『亡霊(アンデッド)』に、底知れぬ不気味さを覚え始める。


 だが、それでも彼は逃げずにいた。


「……」


 隣には八朝(やとも)に加担しようとした少女の昏倒。

 彼はもう一人の学園五指に頼むことなく、生徒会長(学園五指)に挑みかかっている。


 続いて八朝(やとも)と生徒会長の近接戦闘。

 八朝(やとも)は薄く『黒霧』を纏いながら相手の攻撃を的確に躱し、隙の中に灯杖(alp)の一撃をねじ込む。


 一見すると八朝(やとも)優勢に見えるが、現実はそう上手くはいかない。


(やっぱりダメージが一切入ってない……!)


 八朝(やとも)の異能力の特異さは何もこの異様さだけでなく

 ダメージソースとなるSTRとMGIが共に0という偏ったステータスにもある。


 覗き込むAR鑑定アプリ(RAT_Vision)の中で

 生徒会長側に夥しい量の0ダメージ表示が浮かび上がる。


(こんなん、勝てっこ無いだろ!?

 どうして『あんな奴ら』を見捨てなかったんだよ!)


 聞けば、彼よりも前にいたあの上級生の女子は八朝(やとも)の所属する部活の長。

 本来なら味方の筈の彼女に、八朝(やとも)は牙をむいた。


 それは、『あんな奴ら』と称する親衛隊との共通点を見出すような悍ましい光景である。


 雨止(あめやみ)とその他反半数は

 自分が憑依した本物の精神を殺傷し、その支配権を簒奪した。


 もう半分と飼葉(かいば)は共存を選んだがいまいち信用できない。

 何しろその一人である用賀(ようが)は、逆に転生者を謀殺して道具のように使い潰している。


 虹に関する異能力者がいると聞いて接触したが

 その本人が群を抜いて畜生だった絶望が、今も彼を引き摺っている。


(一体、何がしたいんだよ……?)


 唐突に攻撃が止んだ。

 何事かと八朝(やとも)達を見ると方や膝をつき、方や頭を抱えている。


「もういい、十分分かったよ

 君だけでは勝てない……君はあと一人いないと真価を発揮しない、そうだろう?」


 返答は無いが、それが答えなのだろう。

 あの畜生(用賀)と同類の筈なのに、勝てない戦いに身を投じている。


「今一度君に問おう

 そこの奴らは守るに値する人物なのか?」




「彼らは赤の他人だ、守る必要はないだろう?」




 心臓が跳ね上がった。

 まさに、生徒会長が自分の問いを言語化したのである。


 まるで弾かれるように八朝(やとも)を見る。

 彼は灯杖(alp)にしがみつきながらゆるゆると立ち上がる。


「値するかと言われたらそんな訳はない

 だが、彼らは犠牲にしてはいけない……それが俺の戒めだ」

「戒め、言っていることは高尚だが

 君と違って『2人いる事』に耐えられず殺すような輩だぞ?」

「そうだ、1人だ

 まだ彼らは1人ぐらいしか殺してない」


 何を言っているのか分からなくなった。

 目の前の、ちょっと話を聞かないだけで親切だった八朝(やとも)が恐ろしい事を口にする。




「俺は2つほど思い出した事がある

 俺は間違いなく故郷の島の687人……その全員をこの手で殺した」




「な……!?」

「理由はまだ思い出せない、余程口にも出せぬのだろう

 だが、俺は間違いなくこの中で最も畜生に近い人間だ」


 それは最早畜生な筈が無い。

 100でもおかしいのにその6倍を殺したのなら最早悪魔である。


 開いた口が塞がらない。


「畜生?

 いや、それが事実なら君は悪魔だよ」

「強靭な身体も持たないのに悪魔な筈が無い

 例えるなら、ちょっと運の良かった野犬か何かだろう」


 故に畜生なのだと言いたいのだろう。

 悪魔よりも人間よりも、いや虫けらよりその下の、ただ生きているだけの生物(なにか)


 その絶望が声音から僅かに伝わっていく。


「……もう一つは何だい?」

「当たり前の事だ、因果は巡る

 俺はその殺戮の果てに、恐らく『守りたかった人』すら手に掛けた」


 本当に当たり前すぎて『虹弓』からすれば興味の失せる話だった。

 だが、八朝(やとも)は腹の底から笑いながら話を続ける。


「そんな俺がどういう訳か転生した

 『創造神』は力が目当てと抜かし、同じ因果に陥らせようとしたのだろう」


「だが、そういう訳にはいかない

 俺はもう1人も殺さない、どんな誹りを受けようが『犠牲』を許容しない」


「その為に『女王』から人を助けろって言われ、依頼を受け続けてたのにな」


 そんな事の為に、と暗澹とした気持ちとなる。

 良い印象となって残り続けていた記憶が穢された気持ちになる。


「それが彼らを生かした理由ですか

 そんなことをしても貴方の罪は消えることはありませんよ」

「当たり前だ、報われる謂われは無い

 大体これは俺の『戒め(自己満足)』だと言った」


 そうして再び激しい剣戟が始まる。

 それは頑強なシールドに当る音、チャージした雷の迸る音。


 またも、勝利なき戦いへと身を投じる。


「勝者は全てを得る……

 まずはここで勝利を納め、この場の全員が犠牲にならない道の始めとする」


 この瞬間に八朝(やとも)の戦いが豹変した。

 それまで『気絶無効』を頼みにしたゾンビ戦法だった彼の動きがより鋭くなる。


 詠唱(スペル)を間断なく唱え続け、攻撃が当たる前に依代(アーム)を引っ込める。

 (taw)も回避と『謎の体術』の一瞬にしか出さなくなり、どんどんと隙が減っていく。


 そして、唯一ダメージが入るスリップダメージ系(火傷・呪詛など)を的確に当ててきた。


「くっ……!?」


 塵も積もれば山となる、そんな拡大した被害に生徒会長が呻く。

 失望したはずの八朝(やとも)の戦いから目が離せなくなる。


 宣言通りの戦い方(奇跡)が為されたからなのか?

 いや、最後の一言が無ければ自分も彼を見捨てていたのであろう。


 だが、やはり八朝(やとも)に立ち塞がる現実はそんなに甘くはなかった。


『だが、君の動きが変わったことで溜まりやすくなった

 それでは君の悍ましい罪と共に消えるがよい……■■■■■!』


 あの親衛隊達を一掃した一撃を上回る火花の奔流。

 この一瞬、あの攻撃が遠距離攻撃ではなく雷の力を乗せたタックルなのだと知る。


 そういえば『彼』は『虹弓』をこう使えと言った。




『Ektht』




 虹の根元から伸びた弦の糸に生徒会長が絡めとられ

 張力の揺り返しでパチンコのように後ろへ、何度も壁や天井・障害物にぶつかりながら遠くに飛ばされた。


「な……!?」


 あの間抜けな面がもう一度こちらに向く。

 八朝(やとも)に言いたいことは沢山ある。

続きます


言うまでもなくこの部分がターニングポイントとなります

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