Case 69-2
2021年5月10日 完成&誤字修正
2021年5月11日 誤字修正
生徒会長との戦闘が始まってしまう。
そして掌藤親衛隊の幹部は、彼の宣言通りそのまま地に伏せてしまう……
【2月10日(月)・夕方(16:25) 用賀所有の廃ビル・辰之中】
辰之中を満たす冠水すら乾ききった異変の中心で
生徒会長が、今度は八朝に問いを投げかけた。
「さあ、これで君の望み通り邪魔者が消えた
大人しく投降するなら君たちのみは見逃すよう進言してあげよう」
その言葉に一番反応したのは『虹弓』であった。
彼の心は殺戮行為を肯定する親衛隊から既に離れてしまっている。
彼の身の安全を考えるのであれば親衛隊を売り渡した方が良い。
だが……
何故か心の奥底が引っ掛かって、そう動かすことができない。
(いや、投降すべきだ!
だが……俺だけは、■■■■■の俺だけはしてはいけない……!?)
思い浮かんだのは混乱の原因となった『謎の記憶遡行』の一場面。
全てを為そうとした瞬間、彼に襲い掛かった余りにも無慈悲すぎる現実。
■■■■にはもう人はいない
だが、取りこぼした『3人』がまだ生きているではないか
「……ッ!?」
余りの吐き気に身を屈めてしまう。
だが、それで初めて自分を理解した気がした。
殺人者でありながら仲間の絆を重んじる精神異常者。
或いは、異世界に『逃げて』までも贖いを求め続ける愚か者。
(ああ……だから三刀坂達が散々言ってただろう)
己の身すらぞんざいに扱うのは殺人に等しいのだと。
それは『鳴下家』から見捨てられ、投げやりに生を消費し続けるのに等しい。
ならばやるべきことは一つである。
「どうしたのですか、まだ心は定まらないのですか?」
「いや、もう決めた
俺はお前の提案を却下する!」
その返答に『虹弓』が非難の目を向ける。
だが、それに屈しては真意すらも伝えることはできない。
「代わりにそこの二人は見逃せ
元々これは俺達だけの戦いだ、それでいいよな?」
生徒会長は短く『よかろう』と言って八朝の提案を受け入れる。
だが、柚月が杖を構えて食い下がろうとした。
『■■』
そんな彼女に睡眠の霧を巻かせて意識を失わせる。
「これでいいな?」
「ああ、では引き続きお願いいたしますよ……僕の請負人よ!」
先程残しておいた雷を腕に迸らせる生徒会長。
エリスが障壁魔術が必要かどうか目配せするが、静かに首を振る。
『■■■■■』
『1110010110』
灯杖に更なる詠唱を加え、強化する。
だが、こちらの場合対象指定が無ければ無用の長物、ましてや目の前には正体不明の能力。
故に、片目をもう一方の手で覆う。
「……」
一見意味の無い行動に見えるが、この片目こそが雷を生みし神の模倣。
即ち神の側面に隠された象意を捉える。
(苗木、手錠、蛇、布、喇叭……)
これらは第八のセフィラである『栄光』に接する小径である。
そして『栄光』は、この世界においてはもう一つの意味を持っていた。
神託及び『伝達』を司る風属性
そう、この世界の属性とは四大元素ではなくセフィラなのである。
即ち『火』が全てを圧倒し、『水』が為す術の無きは『力の降下』によるもの。
そして、これを貶めるのにうってつけの星座が存在する。
即ち水星の『障害』にして『下降』の座であるうお座。
八朝の現在の知識では『単独』でそれを指定することはできない。
そう、他の依代のように単独では無理なのである。
『勅令を為し、この身に勝利を!』
詠唱の終わりと灯杖のスイング、そして放たれた雷が重なる。
そして雷をまるで杖先で受け流すように軌道を変え、遥か後方に吹き飛ばした。
「な……!?」
それからは八朝が生徒会長へと距離を詰め、近接戦闘に入る。
だが生徒会長は依代が無く、代わりに『簒奪発電』をシールド代わりに攻撃を防ぐ。
『■■■■■!』
八朝の攻撃を十分に防ぎきったと見切り、能力を発動させる。
だが、雷は生徒会長の想定を大きく下回る威力で八朝を打ち据えた。
「……ッッッ!!」
この一撃で残り三枠が一気に砕かれ、八朝が窮地に陥る。
その状況を見た生徒会長が興醒めしたかのように言い放つ。
「ええ、ここまで粘ってくれたのは褒めてあげます
しかしその酷い火傷では次が最後になるでしょう」
酷い『火傷』
それに対応するのは『理解』から『峻厳』へと走る■■。
ぶよぶよと骨まで焼き尽くさんとする痛み。
更に向こうは隠し持っていた電力を開放した。
もう時は待たない、痛みを以て道を切り開く。
『我は反転する
即ち我が痛みを以て■■の証明とせよ』
焼け爛れた跡が凄まじい勢いで黒化し、皮膚から剝がれていく。
激痛に耐える事3秒程度、右手にはフリスビーサイズの歯車があった。
「自分のダメージから依代を!?
……そうか、そういえば貴方の能力は『状態異常付与』か!」
生徒会長が天啓のように得たのは八朝の能力の別側面。
依代が状態異常を与えるなら、逆に状態異常から依代を生み出す荒業。
気絶無効という稀有な後遺症が無ければ不可能な彼独自の解釈。
『1110010110』
今度は突きで雷を弾き返す。
自分の能力の直撃を受けた生徒会長は砂煙の中で苦しそうに咳き込む。
「そうだ……これだ!
もっとだ、もっと可能性を魅せてくれ!!!」
続きます




