Case 69-1:周囲の電力を掠め取る能力
2021年5月9日 完成
2021年5月10日 ストーリー変更
用賀の主張した協力者は第二異能部の部長であった。
だが、彼女は連れてきた生徒会長に勝てなければ篠鶴機関に売り渡すと主張し……
【2月10日(月)・夕方(16:16) 用賀所有の廃ビル・辰之中】
「そう言うのであれば契約は取り消し
貴方には親衛隊の掟により死んでいただきましょう!」
用賀が黒虹を展開し、第二異能部部長へと差し向ける。
竜巻とも称される黒虹が周囲の空気を巻き上げ、絶対値の正弦曲線を描く軌道で迫る。
「……ッ!」
隣にいた八朝が、追撃を加えようとして躊躇してしまう。
用賀に加担すれば第二異能部部長は間違いなく死に至るだろう。
そして月の館送りも回避され、良い事づくめである。
それは、第二異能部部長の屍を踏みつけにした勝利でもある。
『……■■!』
『Vrzpyq!』
八朝が選んだには身動きを封じる『拘束』の待針。
投擲の力だけでは到底達し得ない速度にまで電子魔術で加速させる。
「そう……」
部長はそんな八朝の選択にただ目を閉じる。
真意は両手の中の斧槍のみ、その穂先を『黒虹』と『待針』に向ける。
『Cshblv』
まず、それだけで待針が叩き落された。
即ち現代人が最もよく見る錯覚である『集中線』
モノが動く時に現れる偽りの線をなぞり、待針と電子魔術の接点が断ち切る。
そして、おまけとばかりに黒虹が7色それぞれにおろされ
まるで千切れた綱のように飛び散って地面をのたうち回った。
「言ったでしょ、貴方では話に……ッ!?」
のたうち回っていた筈の7本の黒虹が、秩序立って第二異能部部長に襲い掛かる。
距離が近すぎたため回避が間に合わず、両手両足に黒虹が巻き付く。
「知っていますか?
虹を白一色と認識する国があるんですよ、それって最早竜巻ですよね?」
「くっ……!」
部長が黒虹を振り払おうと藻掻くが
黒虹が再び風を纏い始めると、手足を外へ外へと引っ張ろうとする。
「今の僕に『妖精被膜』の力はありませんが
代わりに竜巻にて五体をバラバラに引き裂きましょう」
用賀が浮き上がる第二異能部部長を見てせせら笑う。
(エリス、念の為に頼む)
そう言って障壁魔術用の霧を展開し、エリスに食わせる。
だが、それによって刹那的に視界を塞がれた用賀がこちらを睨む。
「何をしているんですか?」
「何をって、障壁魔術用の……」
「この状況を見てまだ私の勝利を疑うというのです!?
しかも、最高のショーに泥を被せた自覚も無いというのですか!!」
余りの慢心に絶句する八朝。
だが、今の彼には『それ』に対抗し得る筈の言葉を思い浮かべられない。
自分の都合で他人の生き死にを決めている、という傲慢と一体何が違うのか?
「ええい、邪魔だ!」
そして八朝は、余っている黒虹の力で投げ飛ばされる。
壁に叩きつけられる音に正気に戻った『虹弓』が手を貸そうとするが、自力で立ち上がる。
傍らには柚月の姿もあった。
「ははははははははははは!!」
こうして遠くで見ると彼らの性格が手に取るようにわかる。
固有名すら告げずに悠然と立つ雨止の決意。
岩猿となりながらも、用賀の攻撃範囲に立ち入らない飼葉の慎重さ。
そして、勝利を確信する用賀の熱狂。
それらは一つの、あまりに大きすぎる雷の衝撃にて
顔面蒼白になる程の危機へと変貌した。
「貴方達、相手が違いますよ?」
響いた生徒会長の声の方には、既に第二異能部部長の姿は無く
閃光と火花と土煙の去った向こう側で用賀が罰則によって伸びていた。
「……ッ!
雨止、俺ごと打ち抜いても構わないぞ」
「心配ご無用、既に我は千眼の天啓を受けた」
たった一言の会話で、弾かれた様に飼葉が前へ。
そこに生徒会長の固有名の明朗な叫びが響く。
「拙い……ッ!」
八朝が落ちていた拳大の石ころを握り、生徒会長へと投げつける。
だが狙いは反れて飼葉との間、どころか突如失速して真下に落ちた。
「……!?」
それだけで生徒会長の顔が引き攣り、防御態勢を取る。
だが飼葉の目的は用賀の回収のみで
それを為した途端に再び雨止の下へ後退した。
「成程、やはり貴方だけしか駄目みたいですね
私の『万物の法則』を初見で見抜かれたのは初めてです」
生徒会長は飼葉達を無視してこちらに目を向ける。
その周りで置き去りになった霧が生徒会長の異能力を暴き立てる。
(תから『ה』と『ח』と『ו』への変化
地の世界での神、いや四大元素ではなかった!)
余りにも有名なיהוהの表示。
それが現実世界でなら四大元素という形を取るのが通説である。
だが、彼は間違いなく『万物の原理』と口にした。
それは物理学の世界にて全てを記述し得る『4つ』の相互作用の統一原理。
そう、元素と同じく4つなのである。
「……あらゆるエネルギーを『電力』に変換しているのか?」
「御名答、故に私は神そのものである息吹の名を頂いているのです」
それは余りにも理不尽すぎる異能力の正体。
であれば、やはり一つの質問にも突き当たってしまった。
「そんな力を持ちながら、どうしてあの時は使わなかった?」
「決まっているじゃないですか
貴方の限界が見たかったのだからですよ!」
熱弁を振るう生徒会長に、何一つ理解できない八朝。
それでも生徒会長は周りの状況を無視して語り始める。
「聞けば君は妖魔と会っては生存し、十死の諸力すら退いてみせた
初めてこれを聞いた時は思わず神隠し症候群を疑っていたが、事実そうだったらしい」
「なのに、幾人かのバラバラな人間が同じことを言った!!」
「私は何よりも君に興味を持った!!
第二異能部に無理を言って依頼を通してもらう最中、あの橋の事件が……」
そこに雷の如き衝撃が降り落ちた。
だが待望の轟音と土煙は、中空で拮抗する鉄杭という現実に押しとどまった。
「な……馬鹿な!?」
「君の先程口にした詠唱の鍵は
1から10の星を通るパスの名だ、即ち……」
愚者、女帝、剛毅、正義、死神、塔、太陽、世界
「成程、これなら天井で塞がれたココにも『裁き』を下せる
中々に良き『魔術』だ、だが惜しむべくは試行錯誤の少なさにある!!」
再び生徒会長の腕に凄まじい雷のスパークが迸り始める。
もう間に合わないと分かっているのに柚月の制止を振り切って駆け寄ろうとする。
「八朝!!」
それを気迫にて止めたのは飼葉であった。
「言ったではないか、勝者こそが全てを得る」
「お前がこの場の勝者となってみせろ」
そうして生徒会長の巻き起こした爆発の如き雷が全てを吹き飛ばす。
すんでのところで障壁魔術の間に合った柚月と『虹弓』、そして八朝だけが難を逃れた。
続きます




