Case 68-5
2021年5月8日 完成&文章修正
ひとまずは追手の辻守を沈黙させることに成功する。
だが、根本的な問題が解決していなかった……
【2月10日(月)・昼(16:04) 当海地区・廃ビル】
戦闘が終了した事で、再びアジト内に静寂が戻る。
だがそれは休息などではなく、敗戦寸前の憔悴と言った方が良い。
辻守は異能部の『平部員』。
それ相手に辛勝という結果は思った以上に悪い。
彼がここに来れる以上、援軍の到着は秒読み。
拠点を移さねばならないが、誰一人として伝手が無い。
「この後どうするつもりだ?」
「一応、もうすぐ協力者がやって来ますが……」
用賀が苦い顔で答える。
チートを得ている筈の転生者達がこうも苦戦させられるとは
誰も想像することができなかったのだろう。
ふと、一つの疑問が浮かび上がる。
「お前ら全員『転生者』だよな?」
「ええ、そうですが……まさかそう見えないとでも?」
用賀からの返しに無言で首肯する八朝。
呆れの溜息を吐きながら用賀から話し始める。
「まず、前提として僕たちの言う『女王の恩』が何か分かりますか?」
「そりゃあ、親切にしてもらっただけで……」
「そんな訳ありませんよ
大体、貴方だって女王の恩を受けた筈なのに……」
自分もその対象なのだと言われ、八朝が首をひねる。
女王こと掌藤千景との会話を思い出してみて、何かに気付く。
(そういや、掌藤からのアドバイスで
あの危険な便利屋まがいの事を始めたんだっけか)
となれば、答えは自ずと一つに定まった。
「身の振り方とかか?」
そんな問いにも似た返答に
用賀が、大体そんな感じですねと答えてくれる。
「『転生者』は誰しも何故か魔王討伐を求め、辰之中に消える
それを押しとどめ、この町での生き方を教えてくれたのが我らの女王なのです」
自信満々に用賀が掌藤を語る。
何となく自分の知っている転生者達を列挙してみる。
鹿室は正に先程の言葉通りで、箱家は元依頼者。
この二人も八朝がアドバイスをしているという点で共通している。
(それは流石に妄想が過ぎるか)
だが、他の転生者との違いといえばこの『会話』にある。
特に『妖精』を作成する力を持つ掌藤であれば尚更である。
何も知識のない『妖精』が長生きできるよう助言を与え続けた彼女なら
同じくこの世界に属してない『転生者』にいい影響を与えられるであろう。
「我々は女王の恩によって身の振り方を定めた
我の場合は、この体の持ち主を殺して奪い取った」
雨止が恐ろしい事を口にした。
だが、彼曰く親衛隊の半分以上が『本物』を殺して平穏を取り戻していた。
「僕の場合は返り討ちにしてやりました
ただ、彼の知識は有用なので生かさず殺さずそのままです」
「そうか、じゃあ飼葉も返り討ちの方か」
「いや、俺は黙認かつ共存だ
そういう意味で一番貴様に近いかもな」
何となく、彼らが親衛隊を結成した核心に触れた気がした。
だが八朝の次に入ってきた虹弓は、恐ろしい顔でこちらを睨む。
「な、なに平然と殺すだなんて……狂ってやがる!」
「ほほう、部外者らしく吠えるじゃねぇか」
「お前らこそ、病気でできただけの偽物の癖に!」
幹部たちが冷めた目つきで虹弓の異能力者を睨む。
ここの人間から言われ続けた言葉に、今更湧いてくる感情などはない。
「お取込み中の所失礼するわ」
そこに用賀の言っていた協力者が現れる。
余りにも聞き覚えのある声に八朝が驚愕する。
「あれ、貴方もいたの?」
「成り行きでな」
部長も少しは驚いていたが、やがて目を瞑って感情を覆い隠す。
そしてここの責任者である雨止の方へ向き直る。
「それで、どういう状況なのかしら?」
「ああ、端的に言えばそこの輩に壊滅寸前まで追い込まれた」
雨止がこれまでの経緯をかいつまんで話す。
16人が5人に減る程の敗北の積み重ねと
八朝がいなければこの時点で殲滅させられていたという所感。
最早部長でなくても頭が痛くなる。
「ここまで弱いとは思わなかったわ」
「いや、向こうはとある事情で俺らの素性を知り尽くしていた」
「どういう事なのかしら?」
「……俺達がこの2月を少なくとも2回繰り返してるだなんて言っても信じないだろ?」
八朝が冗談交じりに返したが、部長は考え込んでいる。
彼女はあの時死亡しているため『前の6月』の記憶が無いのだが、妙な反応である。
「いや、冗談なんだが?」
「その冗談をもう4人ぐらいから聞いたわ」
もう既に協定が破られている事実に頭を抱える。
考えてみれば三刀坂といい鳴下といい
独立心の高い面子ばかりが揃っていたなと回顧する。
「一先ずは本題に入るわ
私達第二異能部は貴方達を支援するわ、条件付きで」
「条件とは何だね?」
部長が入口の方に目配せをする。
すると、これまた数日振りの人物が姿を現す。
「やはり、あの時の戦友で間違いないようですね」
「な……!?」
『簒奪発電』が姿を現す。
この場に似つかわしくない人物の登場に、八朝以外は『別の意味』で驚愕する。
「生徒……会長……!?」
「そう、生徒会長
学園五指の筆頭たる『厳霊』本人よ」
意外な正体にまたも驚かされる八朝。
だが、それにしては妙に殺気立った気配の登場に嫌な予感を覚える。
「『破線』殿、彼らが鍵となるんですか?」
「ええ、そうよ
丁度貴方の依頼を受けた八朝と『断罪人』もいるわ」
依頼、という言葉で八朝は彼らが何をしに来たのかを悟る。
灯杖を展開したところで、用賀が食って下がる。
「僕たちを無視するとは良い度胸ですね?」
「実際、どうでもいいわ
異能部を潰す切り札があるって聞いたけど、この体たらくではね」
「彼に負けたら貴方達の身柄を篠鶴機関に引き渡すわ」
部長と最後に合った視線から、八朝も例外でないと悟る。
全員が依代を構えると部長の端末から辰之中が起動した。
「ではお願い致します、親衛隊の皆様
僕の果てなき『探求』の為に、良き戦いを致しましょう」
◆◇◆◇◆◇
DATA_ERROR
Interest RAT
Chapter 68-d 放浪 - Glvt
END
これにてCase68、火中の親衛隊の回を終了いたします
にしても八朝君、家に戻れなくなる事態に遭いすぎですね
これで少なくとも3回目になりますが、今回はゴールがあります
治安部隊の闇を暴いて元の日常に戻れるのでしょうか?
或いは、『厳霊』にやられて月の館の奥底に閉じ込められてジ・エンドでしょうか?
次回のテーマは『転生者の底力』
それでは引き続きお楽しみくださいませ




