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Case 68-1:陰陽を反転させる能力

2021年5月4日 完成


 左壁(ヘリア)からの襲撃から辛くも逃れる八朝(やとも)

 宿を無くした彼が最初に向かったのは用賀(ようが)家の所有する廃ビルであった……




【2月10日(月)・朝(10:41) ARRAYINDEX_OUTOFBOUNDS】




 少し落ち着いてから周りを見渡す。

 あの時は急いで設定したため、自分がどの位置にいるのかが分からない。


 周囲が暗いので地下のどこかだとは判明した。


「エリス、場所は分かるか?」

『うーん……座標は水瀬地区なんだけど……』

「成程、神社の洞か」


 それは水瀬神社に存在する御神体にして篠鶴地下遺跡群の入り口の一つ。

 また、八朝(やとも)が『迷宮(チュートリアル)』から抜け出た脱出口でもあった。


 見上げると洞穴にしては果てしなく高く暗い天井。


「ここは東岸(とうぎし)の……」


 そう言ってエリスの灯りがある存在を映し出す。

 そこにあったのは頭の存在しない死体……服装からして東岸(とうぎし)のものだった。


 迷宮(チュートリアル)の件は元旦、つまり40日は経過した。

 本来なら骨しか残らないのだが、魔力が何かをしたのか死んだ瞬間のままであった。


『……』


 エリスが力なく浮いているのを回収する。

 彼らは八朝(やとも)とエリスを騙してはいたが、確かに仲間であった。


 前の、その前の世界での学園生活で得た感覚。

 転生したての頃は全てが目一杯で、化物(ナイト)に変生した事もあって気づきもしなかった。


 殺戮の熱は、たった一つの仲間の死によって冷たき恐怖へと変わる。


(ああ、なんて事だ……

 死にたくなかったのは俺だけじゃなかったのに)


 何故そう思ってしまったのかは分からない。

 七殺(ザミディムラ)を人間に戻せる力が故か、或いは未だ思い出せぬ記憶の叫びか。


 しかしここで足を止めてしまっては追っ手に足元を掬われてしまうだろう。


「エリス、彼を殺すと決めたのは他ならぬ俺だ」


 そう言ってエリスを慰め、地上へと向かう。

 あの時と同じように壁には階段があり、一段ごとに外の光が強くなっていく。


 やがて、壁に注連縄が張られた出口が見える。


(さて、もう俺は太陽喫茶には戻れない

 篠鶴機関(アイツ等)をどうにかしない限り危険が及び続ける)


 ならばと候補地をいくつか考えてみる。


 まず鳴下(なりもと)のアパートは太陽喫茶と同じ理由で却下。

 三刀坂(みとさか)沓田(くつだ)等の知人に頼るのもNG。


 弘治の隠れ家は、安全かもしれないが彼自身が問題だ。

 その分岐先の退魔師たちの家は、妖魔がうろつく魔境なのでアウト。


 残るは掌藤親衛隊、そういえば彼らは用賀(ようが)の廃ビルをアジトに使っていた筈だ。


(深入りすることにはなるが、致し方はない)


 八朝(やとも)が出口への一段を踏みしめた所で異音が響く。

 それはあの空間に架かった橋の先から、うぞうぞと何かが蠢く気配を感じる。


 そして、八朝(やとも)の初めて犯した罪が、牙を伴って飛び掛かってくる。


「……ッ!」


 階段は諦めて広い空間へと逃れる。

 外の光に照らされたのはRE(レーシュ・ヘー)の犠牲者たる牙を持つ巨大なダンゴ虫。


 偽りの1つ目(アステローペ)級を表す赤い一つ目がこちらを睨む。




谿コ縺励◆縺ェ(殺したな?)


遘√?蠖シ繧呈(私の彼を)ョコ縺励◆縺ェ(殺したな?)




 声帯無きダンゴ虫では魔力を震わせる事でしか言葉を発せない。

 だが、魔力を震わせるが故に一音に込められた殺意が八朝(やとも)の身体を貫く。




險ア縺輔↑縺(許さない!)




 化物(ナイト)2撃目(チャージ)に対し、その巨体を利用して躱す。


 展開した灯杖(alp)で勢いを殺し

 余った力で真上へと跳ぶと為すすべなく壁に激突する化物(ナイト)の姿が見える。


 着地と轟音が同時に起きた。

 砂煙の中で化物(ナイト)が大地を震わせる鳴き声を放つ。


「……ッ!?」


 それは八朝(やとも)の平衡感覚を奪ったが、それが本質ではない。

 ぐらぐらとする視界の中で、足裏から伝わる『音』だけは本物であった。


(仲間を……呼んでいるのか……!?)


 土煙が晴れるとダンゴ虫は既にいなかった。

 代わりに影よりものっぺりした黒い人影が何十も折り重なっている。


 徐々にブレながら、いや手を繋いで加速しながら踊り、その輪を広げていく。

 触れた岩の壁が、彼らの舞踏に耐えきれず、砂を吐き出しながら削れていく。


『な……なんで!?』

「アレが1つ目(アステローペ)級であるかよ

 化物(ナイト)でヒトの形……紛れもなく5つ目(メローペ)級だ」


 通称『霊長級』とも呼ばれる彼ら(メローペ級)の最大の特徴は『群体形成』である。

 仲間を呼んで、手をつなぎ、折り重なり、輪になって狂ったように踊り、万物を引き裂いていく。


 『骸散る繋手(メローペダンス)に逃げ場無し』

 ありとあらゆる異能力者が口をそろえて5つ目(メローペ)級を嫌がる理由が現実のものとなった。


(ta)……ッ!?』


 八朝(やとも)(taw)を呼び出そうとして急に腹部を押さえて苦しみだす。

 滲む視界の中で自分の手が黄色に変色している様子を確認する。


(しまった……!)


 昨日の無茶により八朝(やとも)は病に冒されていた事を忘れてしまう。

 エリスが恐慌の声を上げながら、自分たちを切り裂く黒き嵐(メローペダンス)が眼前に迫る。




『■■■■■』




 突然嵐が真っ二つに断ち切られる。

 薄れゆく視界の中で、控えめな『あの子』の振り返りが見えた気がした。


続きます

今話(第368部分)での敵はCase1にて登場しています

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