Case 67-5
2021年5月3日 完成&誤字修正
何とか向葉達を帰す事に成功する。
その足元で『前の6月』の因縁が蠢動していた……
【2月10日(月)・朝(10:30) 太陽喫茶・自室】
向葉達が去ってから小一時間。
嵐が過ぎ去ってようやく一息を付いている所であった。
『それでどうしよっか』
「どうしようも何も柚月が起きるまで待つしかない」
今の柚月は狸寝入りかどうか判別がつかない。
その場合は最悪の可能性を考慮し、彼女が先程の話を聞いていたとする。
八朝がまず初めに取り掛かるのは向葉たちへの誤解の解消。
話の入りの関係で狸寝入りかどうかも判断可能で一番手堅い手段である。
だが直接彼女たちの擁護をしても上手くいく筈が無い。
その前に柚月から普段の学園生活について話してもらう必要がある。
「柚月は話をしてくれるのだろうか……」
八朝の呟きはエリスにすら拾われず空を切る。
そんな彼らを引き裂くように、下から『ある声』が無遠慮に響き渡った。
『八朝風太はいるか?』
瞬間に八朝達は会話を取りやめて様子を見守る。
その声の主は『前の6月』で学園を地獄に変えた張本人の一人。
篠鶴機関治安部門統括者・左壁。
(え……どういう事!?)
(分からん
まるで『前の6月』を知っているよう……な……)
そこで八朝が継承した『七含人』の性質に気付く。
三刀坂達にあって沓田に無かったもの。
『巻き戻し』の瞬間まで生きていると『巻き戻す前』の記憶を保持する。
いや……『巻き戻す前』から転生してきたかのように神隠し症候群を発症する。
(……奴らも『巻き戻す前』を知ってやがる)
(え……うそ、どうして!?)
(前の俺では無理だったろうな
だが、今の俺は『七含人』の一人だ)
ここに来て『七含人』になることの意味を噛み締めてしまう。
下で対応しているマスターも、娘を人質に取られており余裕が無くなり始めている。
閨槭″閠ウ繧堤ォ九※繧九↑縲ら漁謦?&繧後k縺橸シ。
瞬間に身体を跳ね飛ばし、その場から離れる。
八朝のいた床から天井にかけて銃弾が音だけ残す勢いで穿通した。
だが逃げ遅れた片手の人差し指が銃弾の吹き飛ばした破片に突き刺さる。
『そこにいるのだろう、亡霊!
貴様が掌藤親衛隊に与しているのは知っている』
『貴様の大切な家族がどうなっても知らんぞ?』
まるで聞かせるかの如き音量の嘲笑。
あの時と同じく平常心を失わせて捕まえやすくしようとしているのだろう。
『何を言っているんだァ?
俺らは八朝風太なんて人間は知らんぞ?』
そんな彼らの思惑をマスターの一声が切り裂いた。
よく考えると今は2月……居候になってから1か月強の短い期間である。
『貴様、詭弁を!』
『詭弁と言われてもなァ
知っているのはこの上の部屋の住人が出不精なだけだ』
『お前らこそ出るとこに出て貰うからなァ』
一見意味不明な事を言い立てるマスター。
だが、八朝をわざと他人に仕立て上げる事で逃げやすくしているのも事実である。
(ふうちゃん!)
(……大丈夫だ
唯では逃げてはやらん!)
八朝は人差し指を犬歯で刺し、机にある『文字』を記す。
脳裏に過るのは先程の会話……であればこの依代の星辰が有効な筈である。
『汝は『慈悲』と『調停』を駆る人なり
即ち、九贄の果てに見出されし真なる人の形』
この詠唱では依代に形を与えることはできない。
故に黒い霧となって家中を覆い、全員の目を晦ませることは可能である。
そして八朝は押入れの奥の通路を用い
柚月の部屋から吹き抜けに出ようとする。
問題は八朝の部屋の前に陣取っている筈の職員の存在。
だが奴らは既に『刑法』を犯しており、ある『大力』の発動条件を満たしていた。
『勅令を為し、我等に勝利を!』
「な……!?」
狭い通路に立っていた職員を、蝶番が破壊される勢いのドアで押し潰す。
グシャという濁った音を確認したのち、手すりから一気に1階へと飛び降りる。
目指すは飯綱の残した『回廊』の扉。
「そこか!」
ドアに手を掛けた瞬間、銃声が響き渡る。
……だがお構いなくドアを開き『回廊』をランダム発動させる。
そして追手が来る前にドアを乱暴に閉める。
次にこの『回廊』を破壊しなければならないが、手だてが全くない。
(瞬間移動と言えば神出来の『祇園界宮』
つまりはワープ用の閉鎖世界で光速移動の軌道調整を行う……)
そこで何かに気付く。
ありとあらゆるものに決められし『耐用年数』という概念。
そして祇園、ひいては八坂の社に『寿命を減らす謂れ』が存在することに。
『■■!!!』
八朝が何度も『転倒』の状態異常を重ね掛けする。
次々と失う依代の枠に冷や汗をかきながら祈り続ける。
四回目の発動と共にドアノブがバキッと快音を上げて壊れた。
その瞬間に緊張から解かれた八朝がその場に座り込む。
「エリス、一つ聞きたいが」
『回廊の耐用年数は11年だって』
「そういや実験用途だったの忘れてた」
まるで思考を読むようにしてエリスが答えてくれる。
だが、最初に残していた思惑にはどうやら気付いてくれなかったらしい。
『そういや皆どうなったんだろ……』
「安心しろ、奴らはあの霧で自滅した」
『え……!?』
「まず『左壁』についてだが、奴の異名は『倭文之神』
あの霧に奴が贔屓にする魔神の星辰が最も悪くなる処女宮を使った」
『それじゃあ小銃は?』
「そこで最初に刻んだmの意味である人体だ
『死体漁り』が人体に留まる性質上、あの霧の中ではジャムる」
そこまで説明するとエリスが押し黙ってしまう。
ああ、この先は銃撃の不発と暴発による夥しい『血の惨劇』の開演のみ。
『ふう……ちゃん……?』
「奴らは前でも俺の友人達を『消費』した
奴らが『前の6月』を持ち出すなら、俺も因縁を返してやるだけだ」
八朝が清々しく自らの殺戮を語る。
その顔に浮かんでいたのは、決して人間が使ってはいけない表情であった。
◆◇◆◇◆◇
使用者:菜端秋穂
誕生日:9月21日
固有名 :Iaokm
制御番号:Nom.173648
種別 :S.TERRA
STR:3 MGI:2 DEX:5
BRK:1 CON:2 LUK:0
依代 :服
能力 :技能変装
後遺症 :職業病
Interest RAT
Chapter 67-d 天衣無縫 - Perfection
END
これにてCase67、柚月の友人の回を終了いたします
凄まじい早さで拠点を失ってしまった八朝。
身の振り方をどうすべきか、気になるところですね
残る二つの依頼もどうするのでしょう?
それよりも親衛隊は?
次回は『流星雨』となります
引き続き楽しんで頂けたら幸いです




