表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
367/582

Case 67-5

2021年5月3日 完成&誤字修正


 何とか向葉(むくば)達を帰す事に成功する。

 その足元で『前の6月』の因縁が蠢動していた……




【2月10日(月)・朝(10:30) 太陽喫茶・自室】




 向葉(むくば)達が去ってから小一時間。

 嵐が過ぎ去ってようやく一息を付いている所であった。


『それでどうしよっか』

「どうしようも何も柚月(ゆづき)が起きるまで待つしかない」


 今の柚月(ゆづき)は狸寝入りかどうか判別がつかない。

 その場合は最悪の可能性を考慮し、彼女が先程の話を聞いていたとする。


 八朝(やとも)がまず初めに取り掛かるのは向葉(むくば)たちへの誤解の解消。

 話の入りの関係で狸寝入りかどうかも判断可能で一番手堅い手段である。


 だが直接彼女たちの擁護をしても上手くいく筈が無い。

 その前に柚月(ゆづき)から普段の学園生活について話してもらう必要がある。


柚月(ゆづき)は話をしてくれるのだろうか……」


 八朝(やとも)の呟きはエリスにすら拾われず空を切る。

 そんな彼らを引き裂くように、下から『ある声』が無遠慮に響き渡った。




八朝風太(やともふうた)はいるか?』




 瞬間に八朝(やとも)達は会話を取りやめて様子を見守る。

 その声の主は『前の6月』で学園を地獄に変えた張本人の一人。


 篠鶴機関治安部門統括者・左壁(ヘリア)


(え……どういう事!?)

(分からん

 まるで『前の6月』を知っているよう……な……)


 そこで八朝(やとも)が継承した『七含人(神隠し症候群)』の性質に気付く。

 三刀坂(みとさか)達にあって沓田(くつだ)に無かったもの。


 『巻き戻し』の瞬間まで生きていると『巻き戻す前』の記憶を保持する。

 いや……『巻き戻す前』から転生(・・)してきたかのように神隠し症候群を発症する。


(……奴らも『巻き戻す前』を知ってやがる)

(え……うそ、どうして!?)

(前の俺では無理だったろうな

 だが、今の俺は『七含人(ミーム災害)』の一人だ)


 ここに来て『七含人』になることの意味を噛み締めてしまう。

 下で対応しているマスターも、娘を人質に取られており余裕が無くなり始めている。




 閨槭″閠ウ繧堤ォ九(耳ある障子怪しきな)※繧九↑縲ら漁謦?(り、これを狙うは賤)&繧後k縺橸シ。(しき死体漁りの瞳)




 瞬間に身体を跳ね飛ばし、その場から離れる。

 八朝(やとも)のいた床から天井にかけて銃弾が音だけ残す勢いで穿通した。


 だが逃げ遅れた片手の人差し指が銃弾の吹き飛ばした破片に突き刺さる。


『そこにいるのだろう、亡霊(アンデッド)

 貴様が掌藤親衛隊(テロリスト)に与しているのは知っている』


『貴様の大切な家族がどうなっても知らんぞ?』


 まるで聞かせるかの如き音量の嘲笑。

 あの時と同じく平常心を失わせて捕まえやすくしようとしているのだろう。


『何を言っているんだァ?

 俺らは八朝風太(やともふうた)なんて人間は知らんぞ?』


 そんな彼らの思惑をマスターの一声が切り裂いた。

 よく考えると今は2月……居候になってから1か月強の短い期間である。


『貴様、詭弁を!』

『詭弁と言われてもなァ

 知っているのはこの上の部屋の住人が出不精なだけだ』


『お前らこそ出るとこに出て貰うからなァ』


 一見意味不明な事を言い立てるマスター。

 だが、八朝(やとも)をわざと他人に仕立て上げる事で逃げやすくしているのも事実である。


(ふうちゃん!)

(……大丈夫だ

 唯では逃げてはやらん!)


 八朝(やとも)は人差し指を犬歯で刺し、机にある『文字』を記す。

 脳裏に過るのは先程の会話……であればこの依代(アーム)の星辰が有効な筈である。


『汝は『慈悲』と『調停』を駆る(yad)なり

 即ち、九贄(きゅうし)の果てに見出されし真なる人(Mannaz)の形』


 この詠唱では依代(アーム)に形を与えることはできない。

 故に黒い霧となって家中を覆い、全員の目を晦ませることは可能である。


 そして八朝やともは押入れの奥の通路を用い

 柚月(ゆづき)の部屋から吹き抜けに出ようとする。


 問題は八朝(やとも)の部屋の前に陣取っている筈の職員の存在。

 だが奴らは既に『刑法』を犯しており、ある『大力』の発動条件を満たしていた。


勅令を為し(QOPH:)我等に勝利を(Waw-Kap)!』

「な……!?」


 狭い通路に立っていた職員を、蝶番が破壊される勢いのドアで押し潰す。

 グシャという濁った音を確認したのち、手すりから一気に1階へと飛び降りる。


 目指すは飯綱(いづな)の残した『回廊』の扉。


「そこか!」


 ドアに手を掛けた瞬間、銃声が響き渡る。

 ……だがお構いなくドアを開き『回廊』をランダム発動させる。


 そして追手が来る前にドアを乱暴に閉める。

 次にこの『回廊』を破壊しなければならないが、手だてが全くない。


(瞬間移動と言えば神出来(かんでら)の『祇園界宮』

 つまりはワープ用の閉鎖世界で光速移動の軌道調整を行う……)


 そこで何かに気付く。


 ありとあらゆるものに決められし『耐用年数』という概念。

 そして祇園、ひいては八坂の社に『寿命を減らす謂れ』が存在することに。


■■(ras)!!!』


 八朝(やとも)が何度も『転倒(ras)』の状態異常を重ね掛けする。

 次々と失う依代(アーム)の枠に冷や汗をかきながら祈り続ける。


 四回目の発動と共にドアノブがバキッと快音を上げて壊れた。

 その瞬間に緊張から解かれた八朝(やとも)がその場に座り込む。


「エリス、一つ聞きたいが」

『回廊の耐用年数は11年だって』

「そういや実験用途だったの忘れてた」


 まるで思考を読むようにしてエリスが答えてくれる。

 だが、最初に残していた思惑にはどうやら気付いてくれなかったらしい。


『そういや皆どうなったんだろ……』

「安心しろ、奴らはあの霧で自滅した」

『え……!?』


「まず『左壁(ヘリア)』についてだが、奴の異名は『倭文之神』

 あの霧に奴が贔屓にする魔神(シトリー)の星辰が最も悪くなる処女宮(yad)を使った」

『それじゃあ小銃(コープスピッカー)は?』

「そこで最初に刻んだm(マンナズ)の意味である人体だ

 『死体漁り(コープスピッカー)』が人体に留まる性質上、あの霧の中ではジャムる」


 そこまで説明するとエリスが押し黙ってしまう。

 ああ、この先は銃撃の不発と暴発による夥しい『血の惨劇』の開演のみ。


『ふう……ちゃん……?』

「奴らは前でも俺の友人達を『消費』した

 奴らが『前の6月』を持ち出すなら、俺も因縁を返してやるだけだ」


 八朝(やとも)が清々しく自らの殺戮を語る。

 その顔に浮かんでいたのは、決して人間が使ってはいけない表情であった。




◆◇◆◇◆◇




 使用者(ユーザー)菜端秋穂(なばたあきほ)

 誕生日:9月21日


 固有名(スペル)Iaokm(イアオクム)

 制御番号(ハンド)Nom.173648(ダブル・ダブルスター)

 種別(タイプ)  :S.TERRA(中級・地属性)


  STR:3 MGI:2 DEX:5

  BRK:1 CON:2 LUK:0


 依代(アーム)  :服

 能力(ギフト)  :技能変装

 後遺症(レフト) :職業病




Interest RAT

  Chapter 67-d   天衣無縫 - Perfection




END

これにてCase67、柚月の友人の回を終了いたします


凄まじい早さで拠点を失ってしまった八朝。

身の振り方をどうすべきか、気になるところですね


残る二つの依頼もどうするのでしょう?

それよりも親衛隊は?


次回は『流星雨』となります

引き続き楽しんで頂けたら幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ