Case 67-3
2021年5月1日 完成
2021年5月2日 誤字修正
『友人と話がしたい』という謎の依頼。
友人とは柚月の事であった……
【2月10日(月)・朝(9:36) 太陽喫茶・自室】
彼女らの目的が柚月という事実に頭が痛くなる。
依頼内容が明かに第二異能部向けのものでは無いからである。
「……色々と言いたい事があるが
柚月と話したいだけでここまでやるのか?」
八朝の疑問を前に呆気にとられる二人。
よく、記憶にない過去話にぶち当たった時のクラスメートの反応にも似ていた。
「ねえ、先輩?
先輩から見た柚月ちゃんってどんな感じ?」
「……そんな事を言われてもな」
改めて言わされる気恥ずかしさは二人には通じない。
あの向葉ですら真剣なトーンであるので、少し考えてみる。
「人見知りが激しすぎる節はあるな
ただ、懐けば会話の端々で親切な子だと分かるって感じだな」
残念ながら無言によって返される。
居たたまれない気持ちなのだが、それでも二人の様子を見ることにする。
まるで示し合わせたかのように頷く。
「……何だ、何かあるのか?」
「今言った貴方の言葉を嘘だと思いたくないんです
でも、私達から見た柚月ちゃんは全然違います」
曰く、全体的に冷たい印象だという。
挨拶もしなければ目も合わせない、顔色は窺ってくるけど会話は皆無。
そして、彼女にウザ絡みしたお調子者の男子がその日のうちに大怪我をして運ばれた。
「だからみんな柚月ちゃんは危ないって……」
信じられない内容ではあるが、昨日の出来事があった。
即ち、彼女が飼葉を無感情で抹殺しようとしたあの瞬間である。
その様子を『断罪者の異名通り』と飼葉が断じていた。
(……何をやってんだよ)
ショック以上に何となく想像できたという事実に打ちのめされる。
だがそんな中向葉が困惑の声を上げていた。
「いやでもやっぱりそんな感じには見えんのよ」
「そうなのか?」
「だって先輩の前じゃ大人しかったじゃん
さっきまでのあきちゃんみたいに目を潤ませ……」
最後まで言い切る前に菜端からタコ殴りにされる向葉。
流石に2回目だけあって何度謝っても止まらなかった。
「……それで、依頼と何の関係が?」
「あ、えっと……その……」
何となく菜端の扱いが分かってきた気がした。
気が逸れている内にゾンビの如く向葉が蘇ってきた。
「うん、だからこの豹変ぶり……もしかして後遺症のせいかなって」
「成程な……確かにそれなら第二異能部向きだな」
だが、この考え方には致命的な欠点がある。
確かに本当に後遺症によるものなら手段が0ではない。
だが、それが性格に起因するものなら八朝ではお手上げになる。
「了解した
やや変則的ではあるが後遺症の調査を……」
「あの、そうじゃなくて!」
またも菜端が遮ってくる。
ただ、今回は意を決したようにこっちに目を合わしてくる。
「後遺症の調査は嬉しいです
でも、やっぱり私は柚月ちゃんと仲良くしたいから……」
話してくれたのは柚月が転校してきた2年前の話。
異能力のランクが未定で数か月間彼女らのクラスメートだった頃。
少し変わってはいたが控えめで親切で、良好な関係が結べていたという。
「だから同じクラスになって驚いたんです
全然前と違っていて、誰も近づいてこなくなって……」
どうしたものかと二人して悩んでいる所に、八朝が現れた。
どうやら向葉のストーカー行為にも一応理由らしきものは存在していた。
そして同時に彼女らが『このような手段』に及んだ理由も察した。
「了解した
俺も柚月の二面性は気になってたし、それとなく説得してみる」
今度こそ二人が小躍りするように喜んだ。
そして向葉が依頼書に何かを書き込んで手渡してくる。
「いや、依頼はまだ完了していないぞ」
「えー、だって……ねぇ
もうこの時点で解決したのも同じですし」
「それに私知ってんだよ
それ全部片づけないと先輩が困るって」
向葉の何気ない一言に図星を付かれてしまう。
どこからその情報を、と思って菜端を見ると
彼女まで向葉にどん引きしていた。
「残念だがそこまで落ちぶれてはいない
それに、うちの部長はその程度の欺瞞に騙されやしない」
「それにこの件は嘘で解決したとは言いたくない
折角の柚月の友人達だし、そういう意味でも受け取れない」
そう言って依頼書を突っ返すと、押入れから物音がした。
一転して不穏な気配が漂い始め、二人して涙目になる。
「せ、先輩……あっちで……」
「ああ、見てく……」
「こ、ここは公平にじゃんけんで決めよ!」
動転した向葉が全員を巻き込み始める。
見ると菜端までその気なので、茶番に付き合う事にする。
結果、菜端が貧乏くじを引いた。
「……」
恐る恐る押入れの引き戸を開けていく。
中を覗き込んだ菜端が、一瞬ビクッとなってゆっくりとこちらを向く。
「だ、大丈夫か?」
「………………へん、たい」
奇言を残して菜端が倒れる。
何事かと八朝が更に確認すると顔面蒼白となった。
そして後ろから覗き込んだ向葉が一言で真実を告げた。
「あっ、柚月ちゃんじゃーん!」
続きます




