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Case 67-1:服を降ろす能力

2021年4月29日 完成


 飼葉(かいば)との戦いのダメージで1日安静を言い渡される。

 本日は咲良(さくら)飯綱(いづな)と妙に客の多い日であった……




【2月10日(月)・朝(8:55) 太陽喫茶・自室】




『あ、これ片付けていくねー』


 エリスが空の食器を浮遊魔術で運んでいく。

 マスターの言う安静は食事ですらここに運んでくるほどに徹底していた。


 動ける範囲は室内のみ。

 幸いにも、元々が民宿用の建物だけあって室内用の洗面台があり外に出る必要が無い。


「さて、それじゃあ……」


 八朝(やとも)は残りの依頼書を机の上に広げる。

 残り3枚はそれぞれに難しい内容のものであった。


 『高すぎる依代(アーム)に触れたい』

 これは最初に対応したもので、その性質上『触れてはいけない』との結論に達し失敗。


(彼の拘りの先には何があるのだろうか?)


 その答えを求めるには、彼の出す虹弓(アーム)の逸話ぐらいしか無い。

 ある意味では星を獣に見立てて矢を射掛る、即ち星を狩る弓矢という見方。


 だが、それを篠鶴市民が知ることは無い。

 一度だけ触れられたという体験の裏で彼は何を見たのだろうか。


(……彼を運んだ友に聞く必要があるな)


 そうして依頼書を裏返す。

 隣には『自分の限界を突破する為に手合わせしてほしい』という依頼書。


(……いやこれ無理だろ)


 改めて部長の傍若無人に震え上がる。

 この依頼書を書いたのは篠鶴学園高等部の『生徒会長』。


 その異名は『躍龍(ヴィタール)』。

 挑む者に死を厭わぬ勇気(エラン・ヴィタール)を要求するという皮肉から付いた。


(一応、こちらから日時を指定していいってのだけは救いだな)


 という事で最後に回すことにしている。

 だが、ここでも一考してみることにする。


(踊龍と言えば乾の九四だな

 龍ですら進退を強いる……か)


 それは周易六十四卦の一つで、龍にも見立てる乾為天。

 九四が変じれば『集えば(ひそ)かに止まる』と称する風天小畜。


 そちらでは進退の苦労を『血去惕出』と称している。


(駄目だ、情報が少なすぎる)


 そうして2枚目もひっくり返す。

 残る依頼は『友人と会うために一緒に考えてほしい』である。


 あまり要領の得ない書き方に首をひねる。


(友人の癖に会えないのか

 市外に引っ越したか、喧嘩別れしたのか)


 いずれにせよ能力(ギフト)分析に関わらない内容である。

 そして、この依頼書のみ備考に友人の様子が記述されていた。


(……刀を持った治療術師?)


 一瞬過ったイメージは外科医なのだが、アレではナイフである。

 とすれば中世の魔術医療の一つである『武器軟膏』。


(傷つけた武器に軟膏を施して傷を癒す……

 現代では否定された似非科学だが、魔力のある篠鶴市なら或いは)


 非常に興味をそそられるテーマである。

 だが続く『風の如く避ける』『鋼鉄を易々と切り裂く』『未来予知する』という言葉に否定される。


 だが、もしも特定の異能力者を記述したいなら相応しい単語(・・・・・・)がある。


(『異名』がどこにもない……

 友人を知られたくないのか?)


 探してほしいと指定した対象にプライバシーが発動されている。

 余りにもちぐはぐな内容で八朝(やとも)も思わず首をひねる。


(これも日時指定可か……)


 優先度を2枚目と同じにする。

 そして当面は『虹弓』の異能力者の依頼に注力することを決める。


(明日は彼の友人を紹介してもらうか)


 そうして最後の1枚に手を伸ばそうとして、エリスが騒がしく戻ってきた。

 端末(きかい)の身体で疲れ知らずの筈なのに息を切らしていた。


『ふうちゃん! 電話だよ!』

「誰からだ?」

『えーっと……わっかんない!』


 エリスがお手上げと言わんばかりに頓狂な返しをする。

 ここまで来るとエリス以上に情報管理を徹底するプロか、本当に意味不明な輩か。


 警戒しながら通話ボタンを押下する。


『もしもし、もしかして先輩っすか?』


 第一声で通話相手が八朝(やとも)を混乱させた。

 記憶喪失の彼を揺さぶるに『記憶を失う前の知人』を称すればいいと知っている相手だ。


「その先輩だが、こんな休日に何か用か?」

『ちょっと頼みたい事があって、学校まで来てくれないかな?』

「すまんが、今日は絶対安静なんで出られない」


 テキトーに話を合わせながら断ってみる。

 すると相手もうーんと悩み、突然何かにひらめいたように声を上げる。


『そうだ!

 今から先輩の家まで行くんで待ってて!』


 八朝(やとも)に何も確認せず一方的に通話が打ち切られる。

 嵐の後の静寂の中、エリスと二人して途方に暮れる。


『誰……だったの?』

「俺も知らん」


 相手も住所がわからず一日中彷徨うだろうとアタリを付ける。

 だが、そんな楽観は1時間後に響いた鍵の外れる音と共に打ち破られた。


『おっじゃましまーす!!』

続きます

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