Case 66-5
2021年4月28日 完成
柚月の攻撃を無効化し、飼葉を退却させることに成功する。
その代償で八朝は一時的な『昏睡状態』に陥った……
◆◆◆◆◆◆
あの時と同じく見慣れない開けた室内。
恐らく社殿の広い畳の真ん中で、少女に膝枕してもらう光景。
嘘みたいだが、これも記憶遡行であった。
『どう?』
『もう大丈夫、心配かけてごめんね』
顔が見えない少女に一言謝って上体を起こす。
今回もまた体の自由が効かないらしい。
『でもあの雷どうしたの?
どうやって出したの?』
見えないはずの少女から、ピリピリとする視線を感じる。
……感じた筈なのに自分はいつも通り説明を開始する。
『ああ、これは『巫女』の力だよ
正確にはそれを模した『枝』なんだけど』
『???』
『ああ、分からなくてもいいよ
僕だってアレが初めてだったから』
そう言って何かを思い浮かべた。
それはゲマトリアの逆たる『雷の小径』への組み込み。
祭神に纏わりついた『悪霊』を心臓にして大樹を起動させる。
即ちこれこそが■■■魔術である。
『今に見ているがいい
この世には死ぬよりも苦しい罰が存在する』
ああ、『彼女』ならそう言いたくもなる。
だが自分には火■というものが存在していない、実に愚かだ。
(……いや、それはあり得ない
この世には死を上回る苦しみが存在する)
そんな夢の中の自分へ警鐘を鳴らす。
つるりと出たこの一言が、何ら嘘偽り虚飾の存在しない不気味な確信が心裡で響く。
……人は怪物になれず、単に人の形をした畜生に成り下がる
それでも己を怪物だと宣うのは、血に酔っただけの妄言に過ぎない……
『残りは3人だね
今まで協力してくれてありがと』
少女に向かって自分が改めて感謝の意を表す。
だが、少女は少し悲しそうな顔で頷くのみであった。
『どうしたの? 寂しいの?』
『……ううん、なんでもないよ
嫌だったらいつでも私に言ってね』
ここまで聞いて俺は、改めてこの話の違和感を噛み締める。
一体何の話を……いや、残り3人とは一体何のことなのだろうか?
嫌な予感がする。
『最後ぐらい僕がやるよ
お姉さんはそこでゆっくりしててね』
目を閉じる、どうやらこれが『確認』らしい。
だがその中身が余りにも酷かった……いや、彼の最後の希望を打ち砕いた。
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『どうしたの?』
少女は、様子のおかしい自分に声を掛ける。
だが自分は悟られまいと、2つの意味で首を振った。
『ううん、何でもないよ』
◆◆◆◆◆◆
目が覚めると、見慣れない背中の感触にうめく。
上体を起こそうとして、誰かに押しとどめられた。
「……咲良なのか?」
無言が答えであったらしい。
どうやら自分は肝臓の発作を引き起こし、昏睡状態に陥っていたと説明される。
だが、柚月の応急処置のお陰で昏睡と呼ぶには余りにも短い時間で目を覚ましたらしい。
外はすっかり明るく、突如湧いた休日が病床漬けとなった事実に暗くなる。
「ねえ?」
咲良の声がいつになく刺々しい。
最後の記憶と今の状況、考えるまでもなくアレの事だろう。
「私、最初に言ったよね?
死に急ぐ人が大嫌いって」
「……そのつもりはなかった」
「でも、それ以上にゆーちゃんを泣かす人は許さないって」
そう言い残して咲良が部屋から出ていく。
それから少し経って、次は飯綱が部屋に入ってきた。
「よお八朝
咲良ちゃんにフラれたらしいな」
「……そうらしいな」
「少しぐらい反論すればいいのに、一体どうしたんだよ」
「まあ、そう言えないぐらいにやらかしてしまったからな」
そう言って飯綱にこれまでの経緯を話す。
昨日の襲撃事件と親衛隊の宣戦布告、更には追っ手を差し向けられたこと。
飯綱は難しい顔をして腕を組んでいた。
「そういやさ、一つ聞きたいんだが
どうして他の異能力者の面倒も見てるんだ?」
「いや、それは」
「じゃあ話を変えてやるよ
どうして柚月も七殺も大切にしてんだ?」
付け加えるように八朝が担ぎ込まれた様子を語る。
泣きじゃくり、何度も何度も謝りながらマスター達に助けを求める柚月の姿。
そこには、人に非ざる血の気配が漂っていた。
「血の……気配……?」
「単なる例え話だよ
お前が『それ』を抑えてくれたって事」
「だから聞きたいんだよ
殺人鬼と化した柚月を見捨てなかったのはどうしてだい?」
少し考えるにあたって、自分の今までの行動を振り返る。
弘治、悪疫、篠鶴機関……人の日常を穢す奴らに容赦なく刃を振るう自分の姿。
少なくとも、あの時の柚月にも似たような感じがしたのは否定しない。
だが助けた……そこには家族だからという薄っぺらい理由以外の何かを感じた。
故に『あの夢』を見た筈だ。
「……まだ彼女は人間に戻れる、だから助けた」
「人間に戻れるとは?」
「それもはっきりは言えない
だが、七殺すらも俺程に取り返しのつかない所にまではいっていない」
「そうである限りは出来るだけ手助けしたい
どんな人間でも帰るべき日常がある……のだか……ら?」
最後まで言おうとして、途端に言葉の中からフッと確信が消え失せた。
その様子を飯綱は手を叩いて笑い転げた。
「……そこまで笑うか?」
「いやいやいや、そう不貞腐れんなって
確かに格好付けだったけど、俺はいいと思うぞ」
揶揄われているような気がして余り嬉しくはない。
ただ、これで彼の用事も完了したらしく部屋から出ていく。
「あ、最後に言うがお前はフラれてないぞ
寧ろ『見直した』なんて言ってたぞ、後は頑張れ青年」
◆◇◆◇◆◇
使用者:工坂聖
誕生日:4月10日
固有名 :Sjhskym
制御番号:Nom.56986
種別 :S.AQUAE
STR:1 MGI:3 DEX:1
BRK:3 CON:5 LUK:0
依代 :神器
能力 :空洞天地
後遺症 :飛蚊症
Interest RAT
Chapter 66-d 聖数 - Geometria
END
これにてCase66、虚ろなるものの回を終了します
これで2/5達成、漸く折り返し地点です
彼は青銅人に会えるのでしょうか?
それとも更なる難題で挫折してしまうでしょうか?
あと親衛隊の動向にも注目ですね
さて、何も起きずにどちらかが倒れたらいいのですが……
次回は『見えぬ友人』となります
引き続き楽しんでいただけますと幸いです




