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Case 66-3

2021年4月26日 完成(27分遅刻)


 『これ、こんなに面倒な事して意味あるの?』

 『意味はない』

 『えー!』


 『だが、神々のいない土地にて

  この数字のみが『我々の神』を指し示す』




【2月10日(月)・深夜(0:51) 抑川地区・辰之中】




「ゲマ……トリ……ア?」


 聞きなれない単語に首をひねる工坂(くさか)

 無理もない、ゲマトリアもまた『異世界知識(オカルト)』の範疇であり篠鶴市民が知る筈のない知識である。


「端的に言うと文字を数字に変換する方法だ」

「数字に……?

 それのどこがこう小さくなるんだよ」


 それを体感してもらうにはエリスの計算結果を見せる必要があった。

 彼の固有名(スペル)である『Sjhskym』は『010100...』の56桁となった。


「何じゃこの0と1がいっぱいのは?」

「これが俺の今から言う『数字』だ

 物体の有無だけで表す、どこでも通じる方法(・・・・・・・・・)だ」


 更に桁数そのものが数字……ひいては固有名(スペル)のサイズだと告げる。

 試しにそのまま『Sjhskym』と唱えると、電車サイズの三又槍が出現する。


「エリス、初速度変更魔術」

『ほいほーい!』


 三又槍に加速した石を投げつける。

 途中水と空気を切り裂いた超高速の石は、為す術もなく槍の鋼体に触れることなく爆散した。


「この状況を覚えててくれ」


 まだ追い付けていない工坂(くさか)に心裡で謝りながら、話を続ける。


「例えば、こう4つずつに区切った場合……

 『0110』が4回、『0111』と『0011』が2回繰り返されてる」

「まぁ、そうだよな

 ……これ、一つにまとめるのか?」

「似たようなものだ

 一番多い物から順に0、1、10と付けていく」


 そうやって作成した固有名(スペル)を唱えると

 電車サイズあった槍が半分の大型トレーラーぐらいの大きさまで縮小した。


「うおっ! マジかよ!?

 でもまだまだデカいんだけど……」

「ああ、これは元に戻せる方の圧縮だ

 そして今からやるのは、元に戻せない圧縮だ」


 そう言って今度は『ある表』を参照しながら固有名(スペル)に対し

 2文字のシフト(テムラー)を行った後、子音無声音消去(ノタリコン)を行い、文字列を表のとおりに数値変換する。


 その総和から一桁ずつを足した値である『10』を魔力言語で唱えると

 槍にしては少し小さめなサイズである71センチにまで縮小した。


「……」


「これがゲマトリア法だ

 但し、弱点は存在する」


 今度はそのままの三又槍に先程と同じサイズの石を落とす。

 電子魔術(グラム)の加速すらない自由落下では石がぶつかるだけだった。


「……つまり小さくなるほど脆くなるのか?」

「だけではなく、先程石を潰した魔力まで消えた

 丁度いいサイズを見出す必要はあるんだけどな」


 今度はテムラーとノタリコンを省いた4mの(アーム)を出す。

 こっちには、当て続ける石を摩耗させる程度の魔力が渦巻いている。


「……これ、他の奴もできるのか?」

「いや、俺の知る限りは

 俺とアンタともう一人ぐらいにしか使えないだろう」

「そいつはどういう事だ?」

「元々、工坂(くさか)依代(アーム)

 縮小しても同じ形が現れるという特殊な形状をしてたんだ」


 エリスにシェルピンスキー四面体の拡大動画を表示させる。

 同じ形が現れ続ける不可思議な光景にますます首をひねる。


「それが、俺の依代(アーム)って事か?」

「ああ、ついでにそれと同じく『体積が0』になる

 その柔軟性が依代(アーム)を際限なく大きくした正体だ」


 そして八朝(やとも)のは他人が触れても拒否反応が起きないという特殊性がある。

 これが原因なのかは定かではないが、サイズや形が自由自在となっていると説明する。


「柔軟性か……

 そのゲマトリアって奴の手順とかは?」

『もう送ってるよー』


 工坂(くさか)が画面に見慣れないアイコンを見つける。

 その中にごく単純な入力画面と先程の表、及びその他の圧縮手段のタブが表示されるのを見る。


「サンキューな

 それと依頼書プリーズ」


 そう言って工坂(くさか)が依頼書の依頼者受領印にサインを入れる。

 つまり、これにて2人目の依頼が完了した。


「本当にいいのか?」

「いや、実は他の奴にも何回か頼んだんだけど

 全員して依代(アーム)がぶっ壊わしたのと比べたら大満足だよ」


 そういって依頼書を返してくれる。

 満足そうな工坂(くさか)の顔に、八朝(やとも)もそれ以上確認することはなかった。


「それよか急がなくても大丈夫か?」

「ああ、予想ではもう少し時間が……」


 迷宮の方から柚月(ゆづき)の悲鳴が上がる。

 弾かれたかのように入口へと走っていく。


「お、おい!」


 工坂(くさか)の制止から逃れるように、渦中へと。

 ああ、彼へのアドバイスをしている時から『試していない事』があった。




『これのみが我々の神を指し示す』




 酷い頭痛に耐えながら文字(パス)をゲマトリアに掛ける。

 科学が見捨てた虚ろなる混沌……乱雑な冗長性の中に神がいる。


 即ち先程の逆たる小径(パス)の最大展開。


1110010110(其の角盲にして触れる)


 通路の先には、時が止まったかのように拳を振り下ろそうとする飼葉(かいば)

 その拳の先には柚月(ゆづき)……いつか見た光景のように頭痛が更に強まる。


(届け……ッ!)


 だが、思ったよりも早く灯杖(alp)は驚愕の飼葉(かいば)へと至る。

 それは八朝(やとも)の急かす主観が引き起こした錯誤の果て。


 座標移動する衝撃力(alp)飼葉(かいば)の拳と『相殺』し続けたという怪現象。


「な……にッ!」


 衝撃の瞬間、灯杖(alp)に絡まった空気が前方に炸裂し

 飼葉(かいば)の体を木の葉のように吹き飛ばした。

続きます

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