表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
359/582

Case 66-2

2021年4月25日 完成


 迷い込んだ迷宮にて人影を確認する。

 そこにいたのは飼葉(かいば)ではなく柚月(ゆづき)だった……




【2月10日(月)・深夜(0:45) 抑川地区・辰之中】




 歩きながら柚月(ゆづき)の事情を聞き出す。

 毎日の鍛錬の最中に突然ここに閉じ込められたという。


 鍛錬内容に異能力が含まれているため、RATの使用が不可欠である。

 だが、只管身体能力のトレーニングを行う異能力者を八朝(やとも)は知っていた。


「鍛錬に異能力が必要なのか?」

「あ……その……」


 言い淀んでいるが、これは反論が無いわけではないらしい。

 というよりも柚月(ゆづき)との会話はいつもこんな感じである。


「……しないと、気分が」

「そうなのか」


 ここで彼女の異能力について考えてみる。


 依代(アーム)は杖型に変形した『肺』で、斬撃操作……

 一見すると何も関係なさそうであるが、五行思想においては明確な共通点がある。


 斬撃……もとい珠玉や鋼鉄は金行の範疇と語られ

 その象徴の一つである『(かのえ)』には『改める』という字義が存在する。


 同じく、体内の浄化を司る『呼吸の主』たる肺は金行の臓腑という位置付け。


「異能力を使わないと体内の気が淀むのか」


 柚月(ゆづき)が意を得たりとこくこく頷く。

 本人的には正しいらしいが、それを後押しする『頭痛』は何故か起きていない。


(外れている筈なのに納得された……)


 奇妙な違和感を覚えると、柚月(ゆづき)から声を掛けられる。

 珍しく得意そうな顔で地面に(アーム)を立て、目をつむる。


「何をしてんだ?」

「……占い」


 つまりは棒の倒れた方向に進むという不毛な方法の提案である。

 ……かと思いきや、地面に漢字いくつか描かれる3×3マスが出現する。


 死、驚、開……即ち方位占の一つである遁甲式の八門。


「……」


 目は虚ろに、この世のものでないものに焦点を合わせているかの如く。

 この迷宮に漂う八門・八神・九星・九宮・十干の気から(出口)を逆算する。


 そう長くない時間で、左の方を指さす。

 天地盤で見ると日出東山《天戊地丙》で如何にもな吉方位であった。


 だが、元来た道の方には更なる吉表示が存在していた。


「丙奇得使はどうするつもりだ?」

「えと……八神が」


 よく見てみると丙奇得使についていた八神が最悪であった。

 勾陳は剛将にして葬儀・疾病・訴訟を司り、明かに飼葉(かいば)を示していた。


 だが、納得していない者が一人いた。


『これで本当に大丈夫なの?』

向こう(元の世界)だと駄目かもしれんが

 『魔力』があるここなら占いにも信憑性があるかもしれんぞ」


 付け加えるように(taw)もある種の占いだと自供する。

 明確な実績の前にエリスも納得してくれた。




 どころか、僅か数分足らずで元の星月夜に戻ってこられた。




『うそん……』


 唖然としているエリスに対して、自慢げな柚月(ゆづき)

 後ろを振り向くと先程まで彷徨っていた迷宮の威容が確認できる。


「あっ出れたのか

 いやーすまんかっ……」


 あの迷宮(アーム)を出した異能力者が謝罪しようとして驚きの声を上げる。

 どうやら、Ekaawhs戦にて神器の壁を作り出した彼であった。


「え、一体どこから……?」

「他人の沈降帯(アンカー)に巻き込まれてな」

「マジかよ、ご愁傷様だな」


 割と初対面なのだが、気さくな性格で嫌な感じはしない。

 如何にも人生を謳歌してそうな印象であった。


「それで工坂(くさか)もどうしてここに?」

「あー……やっぱ気になるか

 いやあの時さ足引っ張っちゃったから練習でもしとこかなって」

「あまり気にするな

 あの状況だと逆に冷静な方がおかしい」


「まあ、そうかもしれんけどさ

 ってかどうして俺の名前を?」


 疑問を呈した彼に持っていた依頼書を渡す。

 その瞬間に納得したかのような声を上げた。


「どうした?」

「いやさ、分析って難しいじゃんよ

 同じ能力(ギフト)でも細かく違うしさ」


 工坂(くさか)が話したのは、異能力教育の難しさの一端である。

 即ち、能力(ギフト)の内容が一度も被ったことが無いという特異な性質である。


 同じ異能力であれば先達のアドバイスで何とかなるのかもしれないが

 この篠鶴市での『異能力』にはそれが一切通用しないのである。


 彼の異能力を『神器作成』で捉えて『厳選』や『契約』を教えても通用しないのと同じである。


「そうだな

 工坂(アンタ)の異能力も実態は『空洞』だったし」

「そいつは、どういう事だ?」


 そう言って先程実証された仮説(スポンジ)を語ってみせる。


 因みに、八朝(やとも)(taw)異世界知識(オカルト)

 能力分析という行為において恐ろしく適性のある組み合わせとなっていた。


「あれ、柚月(ゆづき)は?」


 ふと、彼女の気配がない事に気付く。

 振り向いた先の迷宮の影に顔だけ出して隠れている彼女の姿に気付く。


「そういえばアレは消せないのか?」

「いや、一度たりとも引っ込められた試しが無ぇ

 それにさ、今引っ込めたらお前が困るだろ?」


 工坂(くさか)の言う通りであった。

 そんな彼を『騙している』のは少々心苦しいが話を続けることにする。


「まあ、そうだな

 お礼と言っては何だが、依頼も今ここで解決しよう」


 八朝(やとも)工坂(くさか)固有名(スペル)を口にする。

 そこに現れたのは手のひらよりも小さな(アーム)であった。


「え……どうやったんだよこれ!?」

「色々あったが、ゲマトリア法が使えると思ってな」

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ